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100軒マラソン File No.26

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

「やきとんひなた 上板橋店」

公開日:

池袋から東武東上線に乗って、各駅停車で約10分。上板橋駅は都心から近い。北口を出て少し線路沿いに戻り、病院を左手に見て、そこを越したあたりを左へ折れるとすぐ、夕方から常連客でにぎわう、地元の小さな名店がある。

「やきとんひなた 上板橋店」。親会社は同じやきとんの支店をはじめ、居酒屋、日本料理、イタリアンなど、計9店舗を展開しているが、もとは、こちら、上板橋でスタートした。それが、つい8年前のことだという。

オープンからわずかに8年というのに、すでにして、どこか風格が漂う。こういう構えの店に、夕方の開店と同時に突入していく気分というのは、いくつになっても楽しいものですな。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

なんといいましょうか、私など50代も半ばのおっさんはすでにして相当に疲れているのですが、

「はい、いらっしゃい!」

と元気よく迎えられると、忘れていた爽快な気分を取り戻す。

とか言っちゃって、昨日もどこかの酒場で同じ爽快さを感じ、ウキウキしたのが運のつき。しこたま飲んで、結局のところ本日も午後遅くまで息も絶え絶え、なんてことがよく起こる。

まあ、それはさておき、私のようなイチゲンが図々しく入っていけば常連さんのための一席を奪うことになりかねないし、人気店ではそういうことがよく起こるのも承知のうえではありますが、

「はい、いらっしゃい!」

と迎えられ、今日もまた気分は爽快なのである。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

■「秋元屋」直伝の味噌ダレも

マネージャーの松崎丈幸さんが話を聞かせてくれました。

なんと、こちら、赤星100軒マラソンの記念すべき第1回でお邪魔をいたしました、野方の「秋元屋」さんの流れを汲むお店だそうですよ。

経営的につながってるわけじゃない。「ひなた」グループを率いる社長さんがかつて、「秋元屋」さんで修業をされたことがあるのだそうです。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

でもって、松崎さんは「秋元屋」さんのお客さんだったそうで、その流れを汲む人が独立して上板橋に店を出したというのでやってきて、すっかり魅了された。

「いつも忙しそうな店を見ていて、自分もやってみたいなと思ったんですよ」

客として飲んでいた人が、気がつけばカウンターの反対側に移動して、店の人になっていた。そういう例はほかにもあるが、私は、この手の話、大好きなんです。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

さあ、まずはビールだ。

ポンッ!といい音をたてて栓が抜かれたのは、サッポロラガービール、ご存じ「赤星」であります。うん、よく冷えていて、ありがたいよ。

串ものは、レバー、ハラミ、シロ、カシラ、ナンコツ、タンの盛り合わせを頼む。「秋元屋」直伝の味噌ダレも、もちろんある。いいねえ、嬉しいねえ。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

焼き台を担当している店長の村上和広さんはじめ、スタッフさんたちは、みなさんお若いから店には活気がある。赤星探偵団の取材で来たというと、

「団長に来てほしかったなあ~」

若いスタッフさんが言うじゃありませんか。そうだねえ、団長とアタシじゃあねえ。気持ちはわかる。まあ、悪く思わんでくれ。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

まず手をつけたのは味噌ダレのからんだカシラであります。これはやはり傑作と呼ぶべきもので、甘辛系にはおしなべてトウガラシをふりかけるか、まぶすかしたい私だが、このとろりとした甘みには、毎度やられる。

ふと、「築地直送!」の貼り紙が目に入る。グループ店に海鮮居酒屋や日本料理の店があるので、魚介の仕入れは毎日、社長自ら築地に出向くという。そのため、やきとん屋のこちらにもいいネタが揃う。

編集Hさんが頼んだのは、秋刀魚の刺身である。まだ小ぶりだが新鮮そのものの秋刀魚を村上店長がその場でさばきはじめ、半身の皮目をバーナーであぶっている。ああ、こいつは抜群だね。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

食べる前から味がわかりそうなものだが、盛られてきた皿をみると、もう一種類、きれいな刺身がのっている。

「これ、わらさ?」
「はい、サービスでのせました」

嬉しいじゃ、ありませんか。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

■洋風のつまみも抜群にうまい

午後5時の開店からすぐは比較的ご年配のお客さんが多く、7時くらいになるとお勤め帰りの人が増える。いずれにしても、地元の人が多いと、松崎マネージャー。

このあたりは、どんなカラーの町なんですか?と訊いたら、

「まあ、やっぱり、下町的ですね」

ということである。

なるほど、店の人と客との距離がとても近く感じられるあたり、たしかに下町感があるなあと思う。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

こちらが通り一遍のやきとん屋でないことは、洋風のつまみがうまいことでも、わかる。お勧めにしたがって、2品を頼む。

1品目は季節野菜のバーニャカウダ。もう1品はレバーペーストである。これがまた、洒落ているじゃないですか。バーニャカウダ、ですよ。アタシらが飲み始めたころは、モロキュウひと筋って、感じでしたね。というより、冷やしトマトとキュウリらくしか食った記憶がない。

レバーのほうで言えばね。まあ、その、レバ刺しオンリーね。今はもう、あれを喰えないってんですから、参りますけれども、こちらのバーニャカウダをぼりぼりやれば、野菜の歯応えはいいし、アンチョビの風味がきいていて、へんに甘ったるいモロミ味噌できゅうりを齧っていたときよりも、よほど上品でありますな。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

それから、レバーペーストですけれども、こちらもまた、レベルが高いというか、相当に材料のレバーが上質なのではないかと思わせるくらい、甘さがあって、うまい。

いずれも、ビールの苦味に合うわけですが、もうひとつ、いつの間にか注文されていたゴーヤのおひたしも、歯応え、ほろ苦さが絶妙で、やはり、ビールによく合った。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

ここらへんで、私は、次の酒に行こうと思う。

撮影のSさんが、ハムチーズカツを注文してよいかと問うている。「ハムカツ」という4文字が視界に入ったら即座に反応する習性がもろに出た格好です。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

さらに追加するのは、つくね。焼き台の上でちりちりと焼かれるぼってりとしたそのお姿をちらちらと眺めるうち我慢できなくなったのだが、これが、また、ハイレベルなんですな。ふわふわのつくねなのですが、たたいた軟骨がこりこりとした歯ざわりを残す。絶品!

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

お昼を食べそびれたというHさん、勢いがついたSさんの2人は、かしらのあぶらも追加。さらには、黒毛和牛のザブトンにも触手を伸ばす。

私のほうは、その横で、赤星からホッピー、秋田の地酒「一白水成」に手を出し、それから凍らせた焼酎の梅割りに突入する。H、S両氏の頼んだ肴にときおり箸をのばしつつ、ちびりちびりと飲むのです。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

■女性のひとり客にも愛される店

うまいねえ。たのしいねえ。ラッキョウをぽりぽりやりながら、しみじみ思う。

板橋が地元ではない私はこの後、どうするか。そろそろ考え始めるタイミングでもある。というのも、先刻から、店はかなりの混雑ぶりを見せ始めているのだ。早い時間は、ご年配の方が多いなんて話を聞いていたけれど、若いお客さんも少なくない。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

そこで、Sさん、〆の一皿にしらすのペペロンチーノを追加。うん、こういうのも、あるのです。

実はこの店、開店当初から、女性のひとり客にも愛されてきたらしいのです。言われてみればそれも頷ける話。入りにくい雰囲気はないし、なにしろ、あれこれ、食べたいメニューがそろっている。

で、焼酎の梅割りまで到達した酒の〆にペペロンチーノが合うかって? どうぞ、お試しくださいな。うまいものです。もう1度、赤星からやり直したくなるってものでございます。

上板橋の下町的な雰囲気に、杯と箸が止まらない

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

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