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団長が行く File No.63

学芸大学「本格小皿韓国スタンド@」団長的ひとり“韓国グルメフェス”開催の巻

「本格小皿韓国スタンド@(アットマーク)」

公開日:

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あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の6代目団長・赤江珠緒さんが、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。

こんな韓国料理店がほしかった

東急東横線学芸大学駅から徒歩4分ほどの住宅街に、看板や説明書きがハングルばかりのナゾの店がある。しかし、入り口のガラス越しに見える業務用冷蔵庫に目をやると、ありました! 赤星、サッポロラガービール!

当サイトの熱心な読者には、「あれ、また学芸大学?」とお思いの方もいるかもしれない。そう、2つ前の回でご紹介した『上海菜館』も学芸大学だった。実は、今回の店は『上海菜館』の4軒先という近さ。取材の帰りに発見し、リサーチしてあたりをつけておいたのだ。そして、早速取り上げるという寸法だ。ちゃんと足を使って調査に励んでいるんですよ、赤星探偵団。4軒分しか歩いていないけれど。

学芸大学「本格小皿韓国スタンド@」団長的ひとり“韓国グルメフェス”開催の巻

そんなわけで、本日、赤江珠緒団長が潜入するお店は『本格小皿韓国スタンド@(アットマーク)』。ありそうでなかなかない、韓国料理専門の立ち飲み店である。

店内はコの字カウンターのみの潔い造りで、立ち飲みとはいえ、右側の一列にはイスが用意され着席もできる。腹ペコの赤江団長は、最初の一杯だけ立ち飲み気分を味わって、その後は腰を据えて楽しむために、イス席に移るというわがまま作戦に。

何はなくともまずは赤星。喉を潤してから注文をじっくり考えるとしよう。

学芸大学「本格小皿韓国スタンド@」団長的ひとり“韓国グルメフェス”開催の巻

トクトクトク……と手酌姿も板についている。

――いただきます!

赤江: あぁ、今日もまたおいしゅうございます。これで一気に、やる気スイッチがオンになりました。

ワタクシ、韓国料理は大好物でして、こちらではいろんな韓国料理を小皿でたくさんいただけると聞いて、今日のためにキムチ、スンドゥブ、サムギョプサル、タッカンマリ、その他韓国テイストを一切控え、万事整えてやって参りました。

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「それはまたずいぶんとハードルが……。さ、何からいきましょ。何でも好きなものを言ってください」と話すのは店長の竹口美穂さん。コの字カウンター奥の銭湯の番台のような厨房で、すべての料理の仕込みから調理を一手に担っている。

赤江: (メニューを開いて)あ゛―――、ケジャン! い゛―――ポッサム! う゛―――トンダベクス! 迷っちゃいます。トンダベクスって何か知りませんけど、口に出してみたかった(笑)。いやー、どれにしよう。

とりあえず、赤星のお供に白菜キムチをください! それと、この、気になる「キムチになる前のキムチ」も!

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ほどなくやってきたのは、共に赤く染まった白菜の小皿。一方は白菜を塩漬けしたあとで合わせ調味料・ヤンニョムに漬け込んでしっかり熟成させた所謂キムチ。そしてもう一方は、生の白菜にヤンニョムをさっとからめただけのサラダ感覚の一品だ。

赤江: なるほど、「キムチになる前」とはそういうことでしたか。どれどれまずは「キムチになる前」を……。

おいしいっ! まだ水分が抜けてないからシャッキシャキで、風味は確かにキムチ的ですが、このフレッシュな食感はキムチとはまったく別物ですね。これは新発見。好きです。そして、赤星にも合う!

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続いて、キムチになった方も……。

(半眼になって)これだ、これです。近頃の私に不足していた韓国要素。カムサハムニダ。この心地よい辛味と旨み。ただのキムチかと思ったら、これはただものではありませんでした。とても深いお味。

ただいまキムチエキスが赤江のカラダ、津々浦々へ浸透中です。そして、言わずもがな、赤星と最高に合う!

学芸大学「本格小皿韓国スタンド@」団長的ひとり“韓国グルメフェス”開催の巻

「お口にあってよかったです。お次、ケジャンでもいっときましょか? 活け〆だからめっちゃおいしいですよ」

赤江: ケジャン好きです! ヤンニョンケジャンとカンジャンケジャンがあるんですね。どう違うんですか?

「漬け込むタレの違いです。ヤンニョンは辛味のあるタレ、カンジャンは醤油ベースのタレ」

赤江: んーー、どっちもおいしそうだけど、じゃあ、カンジャンで!

「ほいっ、ほなカンジャンケジャンいきましょうか!」

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赤江: 竹口さん、めっちゃ関西ですよね?

「淡路島ですー」(※「すー」にアクセント)

赤江: わ、同郷ですね。私、明石!

「ホンマですか? うちはえらい田舎やけど」

と竹口さんは気風がよくて、テンポもいい。歌手のAIのようなハスキーボイスでガハハハと笑うところも気持ちがいい。この人が作る料理、絶対においしいはずだ。

我を忘れてむさぼる本気のケジャン

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「挟まれたら指、簡単に持ってかれますよ。毎回超ビビりながら〆てますわ」と竹口さんが恐れるほど元気いっぱいで届くワタリガニだが、ケジャンになって静々とお目見えだ。

ケジャンとは生のカニを丸ごとタレに漬け込んだ韓国の定番料理。箸などではとても太刀打ちできない強敵ゆえ、ビニール手袋をして手づかみでむさぼるのが本道。細かいことを気にせずにしゃぶりつくのがカニさんへのリスペクトだ。

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赤江: めっちゃおいしいめっちゃおいしいめっちゃおいしい

もう一回言います、めっちゃおいしいっ!

特にこのミソのところが、あなたは本当に地球上の食べ物ですか? っていうくらい異次元のおいしさです。

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興奮冷めやらない団長のもとへ、追い討ちのチヂミがやってきた。海鮮、ニラ、青唐辛子など魅力的なラインナップの中で団長が選んだのはネギチヂミ。これでもかと青ネギがたっぷりで、狐色の生地が見るからにいい焼き加減だ。

赤江: あ、これ、すごっ! ネギが香ばしくてシャキシャキ。生地がカリッとサクッとで。チヂミってこんなにおいしい食べ物だったんですね。赤江、完全にみくびっておりました。心より謝罪します。

「うちのチヂミは韓国の家庭で食べられている味を再現しているつもりなんです。いかに粉を少なくして焼くかがポイントで、具材そのものの味を楽んでいただけるようにしています。粉もんの重たさがないし、一人前のポーションも小さくしているので、結構ぺろっといけちゃうんですよ。お一人様で3種類召し上がる方もいるくらい」

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赤江: わかる! ニラチヂミも海鮮チヂミも、さぞかしおいしいんだろうなあ。

この勢いのままチヂミをアンコールしたいところですが、そこは、ぐっと堪えて、ホルモンミックスをお願いします!

ホルモン噛み締め、赤星グビリ、ミルコでふわり

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こちらでは、上ツラミやホルモンミックス、サムギョプサルなどの焼肉メニューも人気だ。

それもそのはず、当店は焼肉の聖地である大阪・鶴橋で40年以上愛された韓国料理専門店『韓味一』に端を発し、大阪、京都、東京で『韓国食堂 入ル』や『参鶏湯 人ル』など10店舗以上を展開する「SOME GET TOWN」の一角。立ち飲み店でありながら、鶴橋から届く上質な肉や鮮度抜群のホルモンを味わえるのだ。

厨房からは牛の脂と味噌が焦げる悪魔の誘いのような香りが漂ってきた。たっぷりの茹で野菜と一緒に登場したのは、アカセン(ギアラ)、テッチャン、ハチノスのホルモン三役揃い踏みだ。

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赤江: アカセンの脂が甘くてたまりません。甘辛い味噌タレをまとったハチノスもテッチャンも、噛めば噛むほど旨みがあふれて……(赤星をゴクリとやって)最高です。

こちらのお店、あれこれ少しずつ食べられるから楽しい! ワタクシ、ひとりで韓国料理フェスを開催している気分です。ステージも観客席もだいぶあったまってまいりました。さあ、まだまだ食べますよ、飲みますよ!

そう意気込んで再びメニューを開いた団長は、ある単語にふと目を止めた。

赤江: あのー、竹口さん、この「ミルコ」ってなんですか?

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「泡だけのビールですわ」。竹口さんが即答する。

説明しよう。ミルコとはグラスにビールの泡だけを注いだもので、きめ細かな泡のクリーミーさ、ビールの泡ならではの苦味や甘みを純粋に味わう、チェコで親しまれている飲み方だ。ちなみに「ミルコ」はチェコ語の「牛乳」に由来する。

「口直しにええいう方、多いですよ、リセットされるわーゆうて。あと〆に飲まれる方もいてますね」

じゃ私も! と団長はすかさずオーダー。赤星探偵団たるもの、赤星の調査はもちろんのこと、ビールに関するさまざまな探求を怠ってはならない。

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『本格小皿韓国スタンド@』の生ビールはサッポロの黒ラベル。つまり、こちらのミルコは黒ラベルの泡だ。竹口さんが丁寧に注いでくれたミルコは、グラスの9割以上が真っ白な泡。確かに見た目はまるで牛乳だ。

赤江: これはおもしろい! 飲み口はミルクセーキ。でも味はビール(笑)。脳が一瞬バグりました。

クリーミーですごくおいしい! でも、これって、ビール自体がおいしくないとできない飲み方ですよね? しかも、こちらのお店のように樽やサーバーが管理の行き届いた状態で、注ぎ方も上手じゃないと。奥が深いですね。

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赤江: では、黒ラベルから赤星へ戻りましょう。そして、〆に参鶏湯をお願いします!

参鶏湯には女将の思いをいっぱいに詰めて

参鶏湯を待つ間、ずっと気になっていたものをいただくことにした。巨大なやかんで煮込まれている韓国おでんだ。韓国おでんの種は基本的に魚のすり身の練り物一種類。シート状の練り物が長い串にうねうねと刺してあるのが特徴的だ。

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赤江: 韓国では、こんなふうにやかんで煮るものなんですか?

「いや、これはうちだけです。おでんって出汁がごちそうやないですか。平たいおでん鍋やなくて、口の狭いやかんやったら出汁の蒸発も少ないかもと思いまして。ケチな発想ですわ。それが、実際は、やかんでも出汁めっちゃ減る! でも、もうええわこのままで、かわいいゆうてもらえるし」

竹口さんは豪快にガハハハと笑う。

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赤江: はははは、そうなんですね。こんな大きなやかん、今時ラグビーでも見ませんよ。お笑い番組のモノボケのアイテムです。それかアーノルド・シュワルツェネッガーのCMか。歳がバレますね(笑)。

(おでんをほおばって)ほいひー。これ、部活のあとに食べたいヤツだ。お出汁もいいお味で。へ〜いろんな野菜の切れ端でとった野菜のお出汁なんですか。このすり身から出た旨みも加わって、なんともいい塩梅になっています。

甘酸っぱい部活の思い出にひたっているところへ、グツグツと威勢よくやってきたのは当店のラスボス、参鶏湯。運営会社の社名「SOME GET TOWN(サム・ゲット・タウン→サムゲッタン)」からもわかるように、参鶏湯はとりわけ力を入れるメニューであり、グループ店のいずれでも名物となっている。

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参鶏湯は『韓味一』を創業し名店に育てた女将・朴三淳(パクサムスン)さんの味を忠実に守っている。朴さんは韓国の調理技能試験一級に女性として初めて合格した人で、大阪道頓堀の韓国料理店の初代料理長として招聘され来日した。そして45年前に、鶴橋に『韓味一』を開いて独立。本場の韓国家庭料理を日本に伝えてきた。

朴さんの参鶏湯は、本国のものとは大きく違っている点があると竹口さんは話す。本来、参鶏湯は食べる人が塩胡椒や付け合わせのカクテキやキムチなどで味付けして食べるものだが、朴さんの参鶏湯は味付け済みなのでそのままおいしくいただけるのだ。

赤江: ホッとする、なんともやさし〜いおいしさ。素材の味を引き出す絶妙な塩加減で、これまた五臓六腑に沁み渡ります。ずっと食べられるお味ですね。

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「女将さんは、来日したての頃、お店で初めて素麺を注文した時に食べ方がわからずに困った経験から、参鶏湯を独自にアレンジしたそうです。素麺って麺が水に浸かって出てきますよね。女将さんはそこにつゆも生姜やネギなんかの薬味も全部入れてしまったらしくて」

赤江: ああ、確かに、知らなかったら、そうするかもしれません。麺を味見して、あれ? 味がしないぞ、じゃ、このつゆを入れるんだなと。習慣がなかったから、麺をつゆの方にいちいち漬けながら食べるという発想にはなりませんよね。

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「はい。結果、水っぽいだけで全然おいしくない素麺を食べることになってしまったわけです。あとで正しい食べ方を知ることになるんですが、女将さんはせっかくの料理も間違った食べ方をされたら意味がない、参鶏湯も同じだと。

そして、日本人に馴染みのない参鶏湯をちゃんとおいしく味わってもらうにはどうしたらよいかと試行錯誤してたどり着いたのが、あらかじめ肉にもスープにもしっかり味をつけるという発想の転換でした」

赤江: すべてはおいしく食べもらいたいとの思いから。素晴らしい料理人だったんですね……

「ちなみに女将さん、今もめっちゃ元気です(笑)」

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赤江: そ、そうですよね(汗)。話の流れ的にちょっと勘違いしてしまいました。。

さ、お腹も満たされたところで、せっかくですし、マッコリで〆ようかしら。一人韓国フェスのフィナーレということで。

いやー、ほんと、今日は何回言ったかわからないですけど、本当にぜんぶ、おいしかったです! また必ず寄らせてもらいますね。

珍しい赤米を使った活性タイプのマッコリがプシュッと開けられ、団長の顔もほんのり桜色に。そして、この日の潜入調査は無事お開きとなりましたとさ。

学芸大学「本格小皿韓国スタンド@」団長的ひとり“韓国グルメフェス”開催の巻

――ごちそうさまでした!
(2024年3月22日取材)

撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘア&メイク:上田友子
スタイリング:入江未悠

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