酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧元氏。「ポテサラ学会」の会長でもある氏が、ポテサラが旨いと評判の店に足を運び、その美味しさとビールとの相性を語る――。
ポテサラはメインの前に食べるべし
居酒屋や洋食屋に行きメニューに見つけると、マッキー氏が絶対に食べるひと品「ポテサラ」。とはいえ、真っ先に注文するわけではない。
「最初に頼んでしまうと、それだけでお腹がいっぱいになっちゃう。もずくや刺身といった前菜的なものが終わりそうな頃。そうだなあ、食事を始めて30分から1時間が経過したあたり、メインに行く手前で食べられるように注文するんだよ。このタイミングならメインに辿り着けないことはないし、メインと交互に食べても美味しいでしょ」
さて、今回お邪魔したのは中目黒にある『ひぐらし』。駅から歩くこと約6分。喧騒を離れた場所に佇む、大人の隠れ家的な居酒屋だ。旬の食材を楽しませる端正な料理が揃う中に、温泉卵、サニーレタス、ごぼうチップスがのるというゴージャスな装いで異彩を放つ。
「ポテトサラダの滑らかさに、ごぼうのサクサク感、温泉卵のとろり感など、食感の変化に気をつけて試作していくうち、こういうスタイルになったんです」(店主・藤田淳郎さん)
「いいねぇ」と微笑むマッキー氏。さっそくポテト部分をひと口頬張ってみる。
「おぉ旨いね」と言いながら今度はごぼうチップスを口に入れ、レタスを食べ、さらには温泉卵を割ってとろりとした卵黄をポテトに絡めてと、その味わい、食感をいろんな角度から楽しむマッキー氏。が次の瞬間、眉間にシワが……。
ムムム? しかし「これは桜チップで燻製にした明太子だ!」と言うや、シワはなくなり再びパッと笑顔に。
「いいねぇ。ジャガイモの味がしっかりある中に燻製の香り、明太子の塩気に辛みにほんのりした苦味。温泉卵を絡めると甘みもある。食感だけじゃなくて、味にも変化があって、これはホント止まらないねぇ」
「食感だけじゃなく、味にもアクセントがあったほうが食べ飽きしないですよね。明太子の燻製を加えるのは修業先で習ったアイデアで、おっしゃるようにいろんな味わいを加えられるからです。そこにレタスには醤油ベースのドレッシングをかけ、ごぼうチップスには薄く塩を振っています」
そう話す藤田さんも味の秘密を理解してもらえて満足そうだ。
■居酒屋料理には赤星の「苦み」が合う
というわけでここで恒例行事。マッキー氏にポテサラを家族に例えてもらうことに。まずは燻製の明太子から。
「これはもう、しばらく海外に行っていた親戚って感じで、ポテサラ家族に刺激を与えてくれる存在だね」
なるほど! では、ごぼうチップスは?
「そうね……芋と同じ根菜なのにちょっと雰囲気が違う様子が、田舎育ちの元気なイトコって感じかな(笑)」
そこまで話すとコップに3度注ぎしていたサッポロラガービールをグビリ。「これまたいいねえ。赤星の心地いい苦味に明太子の香り、旨みがひょいと顔を出してくるんだよ」と三たび笑顔になるマッキー氏。
このセリフに「そうなんですよね。甘ったるくなく、程よい苦味がある『赤星』はバランスがよくて、和の居酒屋料理にはことのほか合うんですよね」と藤田さんも笑顔になる。
「いや、しかし、これは本当に止まらないよ」
ポテサラ―赤星―ポテサラ(明太子)―温泉卵を絡めたポテサラ―赤星―ごぼうチップス―赤星……笑顔ながら無言で、そのペアリングの妙を堪能するマッキー氏でありました。
■コチラも合います!
「燻製タラコ、揚げゴボウ、温玉のポテトサラダ」(750円)のほか、赤星と一緒にたのしむなら「しいたけの鴨つくね詰め」(3個・750円)もいい。
生姜で味付けされた鴨つくねはジューシーで旨みたっぷり。しいたけと一緒になることで、さらに香り豊かで、食感も楽しいひと品に。赤星を合わせれば、口の中がほどよくリセットされ、次のひと口を誘う。
また「小肌と水菜の酢のもの」(700円)も大いにありだ。ほどよく酢〆された小肌の柔らかな歯応えと、水菜のシャキシャキ感。そこに爽やかさを演出するゆずも加わることで、赤星のコクがいっそう楽しめる組み合わせに。
「大人がくつろげる食空間を目指しました」という『ひぐらし』では、酒は食中に楽しみたい日本酒をメインに20種ほど揃える。
その和食と日本酒の組み合わせはもちろん納得の旨さだが、「和の居酒屋にはこれです!」と店主が推す赤星と和食の組み合わせもまた、感嘆してしまう美味しさなのだ。
ぜひ一度、美味しくてこぼれてしまうため息をつきに、足を運んでみてほしい。
構成:武内慎司
撮影:西﨑進也