「まえだや」

中目黒駅のガード下は再開発され、すっかり昭和の面影がなくなってしまった。今の時代に合うように進化することも大事だが、路地裏に入れば今もあの頃と同じオールド中目黒がある。

花見のシーズンには桜が満開になり大勢の人で賑わう目黒川も普段は物静かだ。そんな日常の目黒川がどこか俺には落ち着く。

目黒川近くの駒沢通りから一本入った路地裏にジンギスカン食堂の「まえだや」はひっそりと佇んでいる。中目黒のジンギスカンブームが始まる前からあり、ブームが去っても少し進化して今も変わらず営業している。トレンドに関係なく俺が愛用しているダッフルコートにどこか近いのかもしれない。こいつはグローバーオールの今シーズンの物でクラシックなディテールを残しながらわずかに進化しているエリザと言うモデルだ。

すっかり日が落ちた営業時間前になると店先に炭が準備される。この感じがたまらない。

ひとりジンギスカンの前に、まずはこいつで喉を潤す。俺が俺を取り戻す最&高なひとときの始まりだ。

この基本のコースが、ひとりにはありがたい。軽くつまんでジンギスカンで〆るってこと。しかも価格もステキじゃないか。

ルービーを飲みながら、まずはザーサイを一口つまむ。

キャベツとニンニク味噌も「赤星」が進むぞ。

ラム肉の煮込みは驚くほど臭みがなく上品な味わいだ。ゆっくりと焦らず焼きのラム肉を待ちながら飲むのも悪くない。

ちょうどいいタイミングでラムネギ塩とラム肩ロースがきた。美しすぎるぞ。

店主の前田さんが目の前で焼いてくれるなんて嬉しすぎる。前田さんは北海道の函館出身で20年前にお店を始めた。

ラムネギ塩は絶妙のタイミングを見計らって焼き、ネギを肉で巻き食す。

強烈にウマすぎる。ラム&ネギ気絶！普通のジンギスカンしか知らなかった俺には衝撃の味だ。とにかくラム肉の肉うま味がパネえ！

さらにラム肩ロースでアニ気絶！ラムってこんな美味かったのか？もうジンギスカンの前に気絶の向こう側へ辿り着いてしまったのかもしれない。いやいやまだこれからだ。

カウンターでひとりジンギスカン。「赤星」を飲みながら前田さんの優しい声が俺の心を癒す。

ついにファイナルのジンギスカンだ。鍋の上でラム肉を焼き、野菜は下で焼く。

ここが中目黒だと忘れてしまう。北海道の前田さんの家で食べているような気分になってきた。なんだかもう他人とは思えない家族のような居心地の良さ。

自家製のタレに肉と野菜をぶっこんで食べるのがアニスタイル。そこが焼肉とは違うのだ。

ウマすぎる！これは数年前に北海道で食べたあの味を思い出す。いやあの時よりはるかにウマいぞ。ジューシーなラム肉に、自家製タレがバヤい。まじでバヤい。ジン・ジン・ジンギスカ〜ン気絶！

どうしても我慢できずライスを追加注文して、コメにバウンドさせ食らう。これがまためちゃくちゃウマい！実はこのスタイルは前田さん曰く、北海道ローカルでは子供の頃からよくやっているとのこと。なんか嬉しいじゃないか。

20年前の東京にはほとんどジンギスカンは無かった。そんな時代にたったひとりで本物のジンギスカンを始めブームが去った後も、本物だけが残り今も多くの人に愛されている。やりたい事をやっているから大変じゃないと笑顔で語る前田さん。古き良き中目黒のあたたかさが今も「まえだや」にはあるのだ。北海道で日曜日に自宅で家族と一緒に食べていたローカルの味が中目黒で味わえるなんて。前田さん、ご馳走様でした。そしてこの出会いにアニがとうございます。さてと、心安らぎ気持ちよく酔わせていただいたので、夜の目黒川沿いを少し散歩でもしてみるかな。

グローバーオールのエリザ。アイコンモデルでもある定番のモンティをモダンにアップデイトしたもの。大きめの襟と膝下の長めの丈がクラシックでありながらもややタイトなフォルムで今の気分も味わえる逸品。

Text : Eiji Katano
Photo : Shimpei Suzuki