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100軒マラソン File No.4

京王線中河原「ご近所酒場」はまだ宵の口

「真仲」

公開日:

自宅の近くに行きつけの酒場をもつのは、飲兵衛にとってはとても大事なことですな。都会派の先輩は、そういう酒場をネイバーフッドバーというのだと教えてくれましたが、まあ、そのまま訳せば「ご近所酒場」ってことになりましょうか――。

■這ってでも帰れる安心感

唐突ですが、東京という街は、実に多くのご近所酒場を生み出した街だと思います。

銀座や日本橋、神田、浅草、新橋、六本木といった、従来の都心部があり、そこから品川、渋谷、新宿、池袋、上野と見回せば、それぞれがターミナル駅 になっているだけでなく周囲に新しい都心を形成し、さらにその先、郊外へと放射線状に延びて行く路線上にもまた、小さいながらも“街”ができてきた。

驚いてしまうのは、こうした放射線状に延びる路線の駅ごとに、必ず飲み屋街があるということ。その街が、ちょっと一杯やりたい人たちを、実に長い間、もてなし続けてきたということだ。

JRはもとより、私鉄の沿線にも飲み屋街は多い。私鉄は駅と駅の間隔が狭く、なんなら平気で歩けるくらいであるのに、それぞれの駅に飲み屋街がある。これこそ、東京の底力ではないでしょうか。

ワタクシゴトで恐縮ですが、多摩っ子の私には、立川や日野にも気安く暖簾をくぐることのできる老舗の飲み屋がある。

それがどうしたって? 都心から立川や日野までの距離を、そのまま東側なり北側なりにあてはめていただきたい。あんまり詳しく計算をしていませんけ れども、単純にJRの料金だけで比較すると、たとえば四谷~立川間は550円ですが、それは、浦和や船橋までより高いのです。つまり、遠いのだ。

いまさら何を力説しているのかさっぱりわかりませんが、それくらい離れた場所にも、昔ながらの飲み屋があるということ。つまり、ご近所酒場は、昔から流行っていたということなのだ。

都心で、仕事のお付き合いの酒席があるとする。それが済んだら、やはり、ひとりきりで少し飲みたい。けれど、都心で長くなればカネもかかるし、遅くなってから混んだ電車に揺られれば、疲労も残る。

それで、少し早めに都心を切り上げる。まだ比較的空いている時間帯の電車で30分、40分と揺られる間、文庫本が1冊あれば退屈はしない。そして、ああ、ここまでくればもうすぐだな、と安心しながら入る一軒の酒場。それがネイバーフッドバー、ご近所酒場だ。

京王線中河原「ご近所酒場」はまだ宵の口

■瓶ビールにはコップが似合う

前置きが、どえらい長くなって申し訳ございません。ええ、そうなんです。今回の赤星マラソンは、ワタクシのご近所酒場へ寄らせていただくことにいたします。

場所は、東京都下、府中市。京王線は中河原駅から歩いてすぐの「真仲」。「マンナカ」と読む。

だいたい週末に寄る。平日もたまに寄る。ここで知り合った人もたくさんいるし、店主の高橋亮太さんが独立する前に任されていた店以来の顔見知りも多い。

府中駅前の路地に面した小さな立ち飲み屋が、亮太さんが以前いた店だ。ふた坪ほどの狭小店舗ながら流行りに流行っていた。なにしろ居心地がよかった。毎週、毎週、よく通ったし、競馬を彼から教わった。

これが8年ほど前のことになるが、店は戦後の風情を色濃く残した横丁の再開発にともない、東日本大震災の年の秋に閉店。亮太さんはそれからもう一軒、別の店を任された後、中河原で自分の店を持った。真仲は今、開業から3年と少しが過ぎたところだ。

居酒屋である。瓶ビールは2種類。生ビール、ホッピー、それから予め皮を焼酎に漬け込んだベースでつくるレモンサワー、瓶ごと冷凍庫で冷やしたウイスキーのハイボール、前割りした芋焼酎、そして日本酒。銘柄こそ絞ってはいるが、酒のヴァリエーションは豊富で、私も常時3種類くらいを飲んで、仕上げることにしている。ちゃんぽんは、禁断のうまさだ。

最初はビールである。しかも、瓶ビール。赤星と生タイプがあって、私の場合は、昨今、赤星率が8割程度か。

京王線中河原「ご近所酒場」はまだ宵の口

生ビールやハイボール関係は、350mlがすっきり入ってしまう縁の薄い大きめのタンブラーで供される。これは、口にあてた感じがジョッキよりも軽くて飲みやすい。私も大いに気に入っているのだが、赤星には、タンブラーではなく、コップが添えられる。

そう、コップ。昔ながらのコップ。飲み屋の白木のカウンターにも、中華食堂のテーブルにもよく似合う、ちょっとぶつけたくらいでは絶対に欠けないぞ、という気骨のある、あのコップである。

おしぼりで手を拭い、ビールを瓶からごぼごぼと注ぐ。

――ういーっす!

誰にともなくコップを掲げて最初のひと口。

平日は仕事帰りだから、この1杯はいわゆるお疲れさんの褒美である。

週末は競馬の帰りだから、その日の成績によって、褒美にもなり、戒めにもなる。味に違いが出るところが、妙なのである。

「今日はどうでしたか」

亮太さんが訊く。彼は私の馬券師匠でもある。

「ヤングマンパワーから流したのに、2着を入れてなかった」

師匠の顔がふっと和らぐ。私は戸惑う。

僕もやられました、の笑みなのか、オレはがっちり取りましたよ、の笑みなのか。にわかに判断がつかない。

「あの2着馬は買えないよね」と水を向けて「僕はちゃんと持ってますけど」とケツをまくられるのはショックだから黙っている。瓶ビール好きのオジサンは、気が弱いのだ。

京王線中河原「ご近所酒場」はまだ宵の口

■小洒落た皿にビールも進む

そんなことはどうでもいい。亮太さんは格式の高いレストランのホールも担当したことがあるし、イタリアンの師匠について料理の腕を磨いた経験もある。

「イタリアに行ってトラットリアに入ったとき、日本の店とは違って、ずいぶん気楽な雰囲気だったんですよ。ああ、こういうのが好きだと、そのとき思いました」

うまくて、決して高価すぎない料理と酒。肩の力を抜いて、少しばかり声が大きくなるのもお互い様で、大の大人が夜更けまでゆっくり楽しむ場所。本場のトラットリアで垣間見たフランクでアダルトな雰囲気を求めた亮太さんが目指したのが、日本では「居酒屋」と呼ばれる形態だったということだろう。

いちおうのメニューはあるが、「こんなのが食べたい」という客の要望にも、その日あるもので可能な限り応えてくれる。そんな店だ。

京王線中河原「ご近所酒場」はまだ宵の口

最初の1品。枝豆が出てきた。茹でて塩を振るのではなく、オリーブオイルでソテーしてある。これが、ほくほくとして、やけにうまい。

茹で枝豆にない香りと食感が楽しめるのは容易に想像のつくところだろうが、大豆も洋風に仕上げると、ウイスキーの水割りなんかに合いそうだ。

もちろんビールが進むことは請け合いで、中瓶1本なんざ、たちまち空になり、はい、もう1本、ということになる。

京王線中河原「ご近所酒場」はまだ宵の口

なんだか、ちょいと洒落た皿が出てきたぞ。ホタテとミニトマトはわかるが、輪切りにした柑橘類がなんだかわからない。

「ホタテとメイヤーレモンのカルパッチョです。メイヤーレモンは、ちょっとオレンジみたいな香りがしますよ」

亮太さんがメイヤーレモンの断面を嗅がせてくれた。

たしかに、レモンというよりオレンジの甘い香りがする。ミニトマトにも甘みがあるから、このホタテはなんともマイルドなカルパッチョに仕上がる。

ブラックペパーをちょいと振って安価なブレンデッドウイスキーのハイボールに合わせるのもよさそうだと、ビールをぐびりぐびりとやりつつ、思いは巡る。

京王線中河原「ご近所酒場」はまだ宵の口

■ご近所酒場の幸せな時間

飲み屋にいる時間の中で、「さて次は何を頼もうか」とあれこれ考えるときほど楽しいものはないと、個人的に思っている。

あれこれ飲んで、最後にまたビールに戻ってくる。あるいは河岸を変えてまた最初の瓶ビールから仕切り直す。これもよくある話で、飲んで、お開きにして、さて帰ろうかというときに、ちょっと小腹が減ったねと連れ合いが言うならば、「ラーメン行こうか」と答えるのは必定。

店につけば、何ラーメンにするかより先に、「瓶ビールと餃子ね」と注文しているのが、男女を問わず、年齢を問わず、なんだかとっても正しい姿のような気がするのです。

私だけかもしれないが、深夜の中華屋で、妙齢の女性とご一緒して、「ビール餃子、いっときますか」なんて言われると、彼女の健啖ぶりよりもまず、夜中のビールのうまさを知っていることに敬意を表したい。

これがいけないのよねえ、とかなんとか言いながら腹のあたりさすりつつもビールをぐいとやり、また、瓶から互いのコップに注ぎ合う。あれは風情というものだ。

京王線中河原「ご近所酒場」はまだ宵の口

さて、3品目。岩手産の赤鶏の、ハツ、レバー、モモのソテーが出てまいりました。

見るからに豪華版だねえ。

これはグラン・マルニエというオレンジリキュールでフランベして一味唐辛子で味を調えてある。うまいか、うまくないか。うまいに決まってますわな。

「ビール、もう1本ちょうだい」

言いながら、後をウイスキーにするかレモンサワーにするか、あれこれ考え始める。ご近所酒場におけるなんとも幸せな長い夜は、まだ始まったばかりである。

京王線中河原「ご近所酒場」はまだ宵の口

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

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