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赤星酒場見聞録

赤星酒場見聞録 File No.10

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

「季節料理 小伝馬」

公開日:

今回取材に訪れたお店

季節料理 小伝馬

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夕刻、暖簾が上がると同時に

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

サッポロラガービール、愛称「赤星」を飲める酒場を巡り、飲みかつ食べる「赤星酒場見聞録」。早いもので新シリーズも今回で10回目。4月半ばの某日の夕刻、日本橋横山町にある「季節料理 小伝馬」の前に立ちました。

 

午後4時半。開店と同時刻。濃紺に「小伝馬」と白抜きした暖簾をくぐり、案内されたテーブル席に着く。卓上のメニューには、うまそうな酒肴の名前がびっしり書かれている。魚料理が充実しているようだ。

まずは赤星。この季節、最初のつまみは、そら豆がいい。それと、ああ、これ、生ワカメ、いってみようか。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

最初にご挨拶したのは福間大地さん。いただいた名刺の肩書は、三代目勉強中、とある。店は、2代目の福間義行さん典子さんご夫妻と、息子の大地さんとで切り盛りし、他に厨房とホールを担当される方がいらっしゃるようだ。開店直後から、お客さんの姿がある。まごうかたなき人気店だ。なにしろまだ4時半である。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

3代目ということは、初代はおじい様なのだろうか。日本橋小伝馬町で創業したこちらの店は50年ほど小伝馬町で愛され、現在の場所に移転したのは2016年のことだという。移転してからでもすでに10年という老舗だ。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

生ワカメの醤油ポン酢が出てきた。ネギと紅葉おろしをちょんとのせた艶々のワカメ。口に入れると爽やかに香り、ほどよい酸味が口中をすっきりさせてくれる。

うまいねえ。夕方の瓶ビールに合う。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

現在、お店があるのは、都営地下鉄新宿線の馬喰横山駅のすぐ近く。住所で言うと日本橋横山町だ。店名の由来である小伝馬町は隣町といえるだろう。

実は、筆者である私も、フリーになってから18年ほど、横山町の隣の馬喰町に仕事場を持っていた。日本橋といってもいちばん外れで神田川を渡った浅草橋というあたり。馬喰町、横山町ともに問屋街で衣料を扱う店が多い。横山町には、大きなタオル屋さんなどがあり、私の事務所用にとタオルを求めにいったら、10枚単位でしか売らないなどと言われて狼狽えたこともある。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

問屋街の中には、小さな飲食店もある。蕎麦屋、中華屋、居酒屋、喫茶店、寿司、鰻……。東京の多摩育ちの私にとって、この下町風情は珍しく、仕事場を持ってからしばらくの間、食べ歩き、飲み歩くのがとても楽しかった。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

ちなみに、馬喰町、横山町は江戸通りで隔てられているのだが、この通り沿いの馬喰町の隣町が小伝馬町。だから、昔の私がもう少しだけ活動範囲を広げて小伝馬町を探索していれば、以前の「季節料理小伝馬」に出合っていたのかもしれない。

日本橋は商業の街であり、かつては豊洲の前の築地のそのまた前の中央卸売市場もあった。江戸時代からの繁華街・人形町も歩いてすぐだ。休みの日にぶらぶら歩き、老舗の洋食屋に入ってみたり、創業数十年というような町中華でビールを飲んだりするのも楽しい。読者諸兄姉には、散歩酒のエリアとして日本橋をお薦めしておこう。

 

幸せな大人のつまみ

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

そら豆とフキノトウの肉みそがやってきた。シブイね。この選択。

そして、うまい。

フキノトウは炒めているのだろうか。先月、甲府の居酒屋で食べたフキ味噌は、さっと湯掻いたフキノトウを刻み、味噌や砂糖などで練り込んだもので、鼻をつくほどの香りが印象的だったが、こちらのフキノトウ肉みそはもっとマイルドだ。それでいて、山菜の青さもしっかり感じられる大人のつまみだ。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

そら豆をひとつ、ふたつ。

ほどよい塩加減、茹で加減で、なんとも幸せな味わいだ。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

続いて出てきたのが、イワシの梅煮である。店に入ってメニューを見たとき、最初に頼もうと思ったのがこの一品だった。

まだ小ぶりのイワシだが、これで十分。白飯にもいいし、もちろん日本酒にも合うのだが、少し暑かった日の夕刻にビールと一緒にやるのは最高だ。シンプルで実にうまい。これから梅雨の頃になるとイワシはむっちり太って脂がのってくる。つみれにして汁に落としてもいいし、シンプルに塩焼きもいい。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

寿司ネタとしてのイワシも好きだ。寿司屋で高級なネタはあまり食べない。アジ、サバ、コハダなど、気が付くと光物ばかり食べているときがある。だから、こうした初めて入った居酒屋で絶品のイワシの梅煮に出合えたりすると、心の底からヨロコビが湧いてくるのだ。

そこでメニューにあったアジの酢締めもいただいたのだが、これがまたいい。アジは叩きかフライと思ってきたけれど、〆サバならぬ〆アジもいい。

 

子供のお迎えも大事な仕事

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

3代目の大地さんが、ちょっと子供のお迎えに行ってきますと言って店を出ていかれた。

ああ、お迎えはパパの仕事なのか。仕込みを終え、店を開き、忙しくなる頃合いだが、お迎えも大事な仕事だ。偉いなあ、と思う。日々の仕事の中に家庭の日常も組み込まれている。これが、家族経営の飲食店のあるべき姿なのかもしれない。

若いころ、家庭を顧みることが一切なかったわが身を振り返って、私はただ恐縮するばかりだ。

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

続いて登場したのは、みょうがとキュウリの塩昆布と春菊と豆もやしのナムル。シブイ酒肴を選ぶのは編集ナベさんだ。いつも穏やかに、にこやかに飲む姿は、年下だけれど私より酒場に習熟している感じを与える。このシリーズが始まってからの付き合いなので、まだ1年ほどだし、会うのは酒場取材時のみだから、あまり長い時間を過ごしているわけではない。けれど、この人は、いい酒場のツボみたいなものを知っているとわかる。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

そのナベさんが、この店のぎょうざがおいしいとの情報をもたらした。下見にきたときに食べてみて、その味、確認済みという。

「ぎょうざ、食べたい」

撮影も一段落した写真家のキヨコさんが、にっこり笑う。いつも笑顔のいい人だが、食べたいものが見つかったときはまた格別。声の張りもいい。

そして出てきたぎょうざ。むっちり、ぽってり。素朴。
そのまま食べるのがいいらしい。ご主人と女将さんが、忙しい最中なのに私たちのテーブルまで来て、このぎょうざが、ここにある理由を教えてくれた。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

「本所吾妻橋でやっていた広華という店のぎょうざなんですよ。今は、浅草でやっているのかな。古い店です」

ご主人が言うのを女将さんが受ける。
「そこの息子と友達なんです。それで、本所吾妻橋の店によく食べに行っていたんです。とてもおいしいから、みんなに知ってもらいたいと思って、うちにも出してと頼んだんです」

ご主人がこれを受けて、 「僕も、東京一おいしいと思っていますよ」

オープンというか、気風がいいというか。嬉しい気持ちにさせてくれる話だ。

さっそくぎょうざを口に放り込むと、熱々の肉汁で口の中をやけどしそうになったが、評判に違わぬうまさだ。もっちりしているが重たくはない皮の中に味わい深い餡が詰まっている。魚介のうまい店だが、実はこのぎょうざにハマるお客さんも少なくないらしい。それも、よくわかるのだった。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

いよいよビールがうまくなってくる。

私はアオヤギとホッキ貝を、キヨコさんは、赤ナマコ酢を頼んだ。聞けば、飲みに行ってナマコがあれば必ず頼むという。ナマコを素通りできないらしい。

 

店の切り盛りは家族みんなで

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

お子さんを迎えに行っていた大地さんが帰ってきた。まだ小さい息子さんと娘さんだ。あの子が4代目になるのだろうか。まだまだ先の話だろうが、そのときもまだ、このおいしい酒肴の数々がお客さんを楽しませているとしたら、店はおそらく100年酒場になっているだろう。

それは、すばらしいことだと思う。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

今、仕入れは大地さんとご主人が協力して行っているという。水産会社でのお勤めの経験のある大地さんは業者さんとの連絡と仕入れを行い、ご主人は豊洲まで買い出しに行く。昔ながらの魚河岸通いを続けるのは、良いものを継続して仕入れるためだという。

「朝は息子が子供を送りに行きますから、代わりに私が河岸へ行くんです。実際に見ないとわからないですからね」

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

毎日出向き、相手の顔を見て、仕入れる。その積み重ねによって、いつもおいしいものを、安く提供できるのだ。

たとえば、まぐろ。人気メニューのひとつだが、赤身とトロと脳天の三種盛りが900円。常連さんにも人気の定番メニューがたったの900円は、今時、格安だ。

そして、親子で厨房に立つ。父から子へ、うまい酒肴が伝えられる。毎日毎日、四季折々の美味が伝えられる。こういう店が、日本の味を守っている。そんなことも頭をよぎり、いよいよ酒がうまい。にわかに去りがたい。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

しかし、そろそろお開きだ。
最後に、取材隊が頻繁に注文するハムカツに登場してもらった。ちょっと厚めのハムに薄い衣がついていて、パリっと軽く、食べごたえもある。

ああ、これは新規のビールがほしくなる。
よし。赤星もう1本、いっておくか。

 

とびきりの旨さと活気を連綿と受け継ぐ家族居酒屋

(※2026年4月16日取材)

取材・文:大竹 聡
撮影:衛藤キヨコ

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