私たち「赤星探偵団」が、
あしで稼いだ“おいしい情報”を発信します

赤星が飲めるお店を探す 赤星が飲めるお店を探す
ブクマーク一覧へ

100軒マラソン File No.62

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

「串とら」

公開日:

今回取材に訪れたお店

串とら

ブックマークする

※撮影時以外はマスクを着用の上、感染症対策を実施しております。

長い、長い、緊急事態でした。息の詰まる夏でした。もう、こんな夏は二度と経験したくない。多くの飲兵衛のみなさんが同じように感じたのではないでしょうか。

酒を飲むのが半ば仕事という筆者のような人間にとっては、食うや食わずの試練の夏。新型コロナよどうしてくれる、と絡み酒で盛り上がりたいところもあったのですが、日ごろから飲みすぎ、肥満、高血圧の当方といたしましては、罹患すれば生命にかかわるという恐怖が先立ち、それゆえにまことに不本意ながら半ば蟄居し、ひたすら事態の収まるのを待つ日々でした。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

そして、10月1日。緊急事態宣言は解除された。気が付けば、感染者数も激減している。理由はよくわからない。偉い先生たちの説明を聞いてもどうにも納得いかないけれど、そんなことより、そろそろ参りましょうか。

ということで、半年ぶりにやって参りました。前回の「魚焼つばき」に続いて今回も、JR国分寺駅南口のもつ焼き屋「串とら」にお邪魔します。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

■赤星よ、今日もありがとう

伺いましたのは開店の午後2時。コの字カウンターの右手、ちょうど焼き台でもつを焼くご主人の手元が見える絶好のポジションを確保します。

ご主人のお名前は村瀬秀平さん。開業から22年になるこの店を先代から引き継いで10年になるということです。今、48歳で、国分寺に来てから25年ということですから、お若いころからの国分寺住人です。

さっそく、頼みましょう。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

オレは、ナニを飲みに来たのか? そう、赤星だ。

目の前で出された赤星の瓶からグラスに最初の1杯を注ぐ。まだ昼下がりであります。日ごろから夜の遅い暮らしをしている筆者にとっては、まだ、朝みたいなもの。しかも、遅い朝食を控えめにし、食後に茶を1杯飲んだきり。ここまで来る間に、水もコーヒーも、1滴も体に入れていない。

その、渇いたところへ、きゅーっと、コップのビールを流し込む。冷たさと炭酸の刺激と、ほどよい苦み。赤星の、どこかふわりとした、懐かしい甘さがそこに加わる。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

おお! うめえっ! 赤星よ、ちょっとご無沙汰したが、お変わりないようで、何よりだ! 店でだけ飲める瓶の赤星。これだねえ、やっぱり。いや、うまいよ、ありがとう、元気でいてくれたね……。

傍から見たら、オジさんがひとり、コップ1杯のビールを飲んで、うまいなあという表情を浮かべたに過ぎない。けれど、その瞬間、その胸のうちを探るならば、上記のような言葉があふれているのです。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

昼下がり、もつ焼き屋で飲む赤星うまし。なんだろう、このうまさは。改めてじっと瓶を眺め、こちらのビールは、なぜ、赤星なのですか、と訊いてみた。

「特に理由はありません(笑)」

すばらしい。完璧な回答。赤星なんだよ、ここのビールは。それで十分。なにしろうまい。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

さてさて、もつ焼きをいただきましょう。タン、ハツ、コブクロは塩で、シロはタレで、それから、ニンニク醤油に漬けた、漬けハラミも1本加えて、焼いてもらいます。

焼き台の、いい色に熾きた炭火がきれいだ。串打ちされたもつは、その上で、プシュプシュと水分を出しながら、チリチリと焼かれていく。そこから煙が上がり、ときに炭の弾けるような音もする。

この日の一巡目の焼き台に乗るのが自分の注文したもつなのだ。俄然、注目してしまうし、気分も自ずから高揚してくるのであります。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

コップのビールをぐいとやる。

その間にも、お客さんがひとり、ふたりと次々に入ってくる。すごいぞ、まだ午後2時過ぎだぞ。さすがは国分寺。

筆者自身、国分寺のもつ焼き屋さんの暖簾をくぐってから、かれこれ20年近くになる。その店は今はもうないのだけれど、一時よく通ったし、会えばこちらの健康など気遣ってくれる素敵な大将で、年齢が兄くらいだったから、私のほうでも妙なくらいに親しんだ。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

もつを焼いている村瀬さんにそんな話をふると、こちらの「串とら」の先代もその店へ通い、豚ナンコツの串打ちとか、もろもろを教わったということです。ご縁ですね。

そしてもう一軒。ここは今も元気に営業している老舗がありますが、それら、すでにして伝説の北口2軒に並ぶ南口の名店こそ「串とら」なのです。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

■焼き台の炭火と煙を眺めながら

タンからいただきます。柔らかく、甘みもあって、塩加減がまたいい。何本でもいけそうな絶品。これまでの人生で、いったい何頭分の豚の舌を喰ってきたことだろうと考えてしばし頭の中が虚ろになってしまう筆者ですが、それくらい食べつけてきた自らの舌にもしっかりと訴えてくる。

ハツに血の臭みがなく、コブクロは小気味いいほどの、程度のいい噛み応えで、口を喜ばせてくれる。

そして、漬けハラミの、なんとも素晴らしいこと。どうやら焼く前にニンニク醤油に漬けてあるようなのですが、この工夫を、初めて経験しました。なんとも新鮮。実にうまいですねえ。これも、何本でもイケる!

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

シロはタレが好きです。濃厚なタレで、少し焦げ目のついたシロをじっくりと噛む。ビールのみならず、日本酒でも焼酎でもウイスキーでも、相手にとって不足なしの、なかなかしたたかで、使い勝手のある豚モツ。それがシロのタレ焼きではないかなあ、と改めて思う。

昼下がりから客を吸い寄せる店のことですから、改めて書くのもどうか思いますが、こちらの焼き加減、素晴らしいんですな。1本、1本、実にほどよい加減で、手元の小皿にのせてくれる。よそ見をしたり、おしゃべりをしたりして、せっかくの串が冷めては台無しだと、最初の1本を口にした客に気づかせる。

しかし、うまいねえ。1本130円というのも、ありがたい。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

ナンコツとレバーを追加して、その前に、ガツ刺に手を伸ばします。ボイルしたガツにみそだれがかかっている。ほんのり甘く、軽く酸っぱく、新鮮なガツと、シャキシャキのネギにマッチします。

こりこり、シャキシャキ、そして、じんわりとうま味がやってくる。これ、最高。刺で食べられるのは、ほかに、コブクロ刺とラッパ刺があるようです。

ちなみにガツは胃袋、コブクロは子宮、ラッパはたしか、産道だったかな。刺しのうまいもつ焼き屋は何喰ってもうまい。ネギ、シシトウ、シイタケなどの野菜の中からニンニクも焼いてもらうことにします。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

お客さんがまたまた登場。我ら取材スタッフが開店と同時に入り込んでいるため、なかなか活気のある昼下がりの様相を呈してきます。

同行の編集Hさん、写真のSさんは、まだ忙しそうにあれこれ撮影をしている。その傍らで、筆者はもう、単なる客になっている。この夏の蟄居の鬱憤を一気に晴らすかのように、はしゃいだ気分で飲んでいる。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

てんこ盛りのマカロニサラダには、パルメザンチーズが添えられてきた。この景色も初めて見るが、なかなかオツなもんだし、チーズをぱらぱら振りかけながらポテサラを口に運べば、ウスターソースをかけるのとはまったく別の趣を楽しむこともできるのです。

きました。ナンコツとレバー。予想どおり。文句なし。このあたりで、取材を一段落させたHさんも合流。赤星を追加して、一緒にマカロニをつつき、やさしい味わいの煮込み豆腐に、目を細めます。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

喉の骨の周りに絶妙に肉の残ったナンコツの串。これを見て、美しいなあと思う筆者は異常でしょうか。いや、そんなことはない。美しいものを美しいと言わずになんとする。照れることなかれ、と自らを激励しつつ口に入れる。

コリコリと噛む。嚙んだそばからうま味が口に広がって、バリバリと骨を砕く快感を存分に味わいます。

そしてまた赤星を、ぐびりとやる。うまいねえ。こいつあ、飽きないよ。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

レバーの串もあっという間に食べきって、ニンニクを口に放り込みながら、さらに追加は、チョリソーだ。好きなんですな、もつ焼き屋さんのチョリソー。串を打って炭火で焼くと、チョリソーはなぜ、ここまで化けるのか。

三鷹生まれの三鷹育ち。駅前で酒を覚え、新宿で飲み修業をした筆者は今、国分寺の名店で、にやにやしている。中央線沿線にもつ焼きの名店数々あるが、「串とら」もまた、太鼓判の一軒と記憶に刻みます。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

まだまだ飲んでいたい。焼き台の炭火と煙を眺めながら、タンとナンコツをあと2本ずつ? なんて思いも起こるが、そろそろ席を開けるタイミングかとも思う。

ここでの1杯、ここでの1串を目指して、今、いそいそと用事を片付けているであろうお客さんのために、そろそろ席を開ける頃合いでしょう。気が付けば、ちょうど2時間。国分寺「串とら」を堪能しました。

ごちそうさま。うまかったーー。

国分寺南口「もつ焼きの名店」で味わった中央線沿線の奥深さ

(※2021年10月12日取材)

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

この記事シェアする