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100軒マラソン File No.63

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

「一国」

公開日:

今回取材に訪れたお店

一国

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※撮影時以外はマスクを着用の上、感染症対策を実施しております。

 

サッポロラガービール、愛称「赤星」を飲み歩く赤星100軒マラソンも、コロナ禍という長いトンネルを通りぬけ、今回で、通算63回目を数えます。

記念すべき第1回を思い返せば、2016年7月掲載の「秋元屋」に行き当たります。そして、このたび訪ねますのは、この「秋元屋」にて、もつ焼の修業を積んだ原田一国さんが2013年2月にオープンした、その名も「一国」というお店。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

東京の西側のもつ焼といえば「秋元屋」と言われるほどに、お弟子筋がその味と店の雰囲気を継承しつつ、広がりを見せている「秋元屋」系。本家は西武新宿線野方駅近くですが、この「一国」は同じ西武新宿線の田無駅のすぐ近くにある。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

■多摩エリアのもつ焼きトークでひと盛り上がり

南口を出てすぐ目の前、古い雑居ビルの中を通る薄暗い通路をのぞくと、赤提灯が見えます。そこが目指す「一国」です。周囲にはもつを焼く、いい匂いが流れています。

なにはともあれ、まずは赤星をいただきましょう。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

来年で丸9年になるという店ですが、当初は、場所がユニークなせいか、鬼門と言われた場所でのスタートでした。それが、今では、夕方5時の開店時刻からしばらくすると、お客さんが次々に入ってくる大人気店に。

昨年末には、ここから徒歩3分ほどの線路沿いに「ホルモン一国」というホルモン焼き店をオープン、普段は一国さんがそちらを、奥様の茜さんがこちらのもつ焼き店を仕切っているという。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

「地元のお客さんに加えて、所沢や拝島方面など、ここより西へ帰る方が、途中下車して立ち寄ってくださいます。西武線の急行は田無から先が各駅停車になるので、ちょっと一息入れるのに、いいのかもしれません」

オーナーの原田一国さんが言います。この場所を見つけたときは、秋元屋の秋元社長も見に来てくれて、いいじゃないかとアドバイスをくれたそうですが、原田さんご自身、さすがにいろいろな店を知っている。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

日ごろ、飲み歩いてばかりの私にとっては、東京23区外、つまり多摩エリアのもつ焼き店には関心を持っているし、できるだけ足を運ぶようにしてもいる。前回、この欄で紹介した国分寺界隈を始め、立川、日野、府中、調布、三鷹あたりは、ちょいちょい足も運んでいるのです。

そんな私が、調布なら「鳥勝」三鷹なら「婆沙羅」などと店の名前を口にしていくと、原田さん、みんな知っていて、京王線だと、南平の、と言いかけるから、思わず「よっちゃん!」と私が声をかぶせてしまったりします。ほかにも、分倍河原の「扇家」といえば、モツのすごく大きいところですよね、と、たちどころに返事が返ってくる。

よく調べているし、そもそもお好きで飲んでいらっしゃるのでしょう。こんな話を聞いているだけで、嬉しくなってしまいます。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

■さすがは秋元屋さん仕込みの仕事

たん3本に、はらみ3本。前者は塩で、後者は、味噌ダレで焼いてもらいます。そして、もつ煮込みもひとついただきます。ちなみに、煮込みは、もつ煮込み、はんぺん煮込み、煮込み豆腐、煮込み玉子に大根などもある。

店にやって来るお客さんの口から、次々に、「赤星」という一言が聞かれます。最初の1杯のビールはこれ、と、決めておられるのでしょう。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

それから、

「かしらあぶら、はらみ、ればー、はらみ」

などなど、みなさん、淀みなく注文しています。店へ入る前から半分くらい心に決めていたものか、それとも席についたら半自動的にその名を口にしているのか。いずれにしても、楽しみにしていた串を頼むその口ぶりに、迷いはない。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

私も、もつを口に運びます。味噌ダレはニンニクが効いて、キックがあって、かしらのうまみをもっと濃いものに感じさせます。タン塩も、歯ごたえはほどよくしまって、味わいもきりっとしていて、実にうまい。

いろいろなものを幅広く頼みたいから、この辺で編集Hさんに合流してもらい、串を追加していきます。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

あみればー、生姜肉巻き、ニンニクの芽、それからポテサラ。どんどん頼む。

ポテサラはブラックペッパーがハラハラと振ってあり、ほくほくのポテトにほどよいアクセントを添えている。ビールや焼酎のつまみとして、正統なポテトサラダという感じがいたします。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

そして、ニンニクの芽です。シャキシャキっとした食感がまず最高で、青い香りがするような爽快さがあり、それなのに、噛むほどに甘みも出てくる。

日ごろ、ニンニクの実のほうをホイル焼きにしたり、串焼きにしてもらったりすることが多い。ニンニクの芽にしても、こんなに細くて繊細なのを串打ちしたのは初めてだろうか。とても、うまい。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

実はワタクシ、酒肴に関してあれこれ新味のあるものを求めないほうだから、長年飲んでいるわりに、知らないつまみはけっこう多い。そんな私にとって、こちらのニンニクの芽は、ちょっとした発見なのだった。

次に味わうのは、あみあぶらで巻いたレバー。トロリと溶けて、沁みますなあ、これは。赤星をまた、ぐびりとやる。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

そして、生姜の肉巻きです。これまた、発見。

ショウガの辛味がくるかと思ったら、こちらも爽快さが際立つ。軽い酸っぱさと肉の脂の甘みがよく合いますな。もつ焼ばかりでなくて、こうした肉巻系が抜群というのも、やはり秋元屋さん仕込みということなのだろうか。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

もっと肉巻きを、という思いが強まって、豆苗の肉巻きとトマトの肉巻きを追加する。

熱々の豆苗から、じわりと汁が出る。ほどよい焼き加減でシャキシャキとして、これまた実に爽快だ。それを包み込む焦げ目のついた豚肉の食感も甘みも、最高である。

トマト肉巻きも同様で、やはり熱々のトマトからおいしい汁が出てほどよい酸味が口の中に広がるとき、肉の脂も一緒に溶けていく。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

■こういう店が家の近くにあれば

お客さんは次々に来る。そして、赤星も次々に出る。

目の前の焼き台では、次々に注文の串を焼いていく。休む暇なし。いい光景だ。ここはもつ焼屋における特等席。焼き台の目の前という最高の場所で飲めるシアワセを噛みしめます。

こういう店が家の近くにあれば、三日にあげず一日おきくらいで通うのではないだろうか――。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

肉巻きで盛り上がった勢いは止まず、牡蠣の肉巻きを注文。野菜と豚肉の相性の良さには今さらながらに感服したわけですが、さて、魚介、なかも、もっとも味も香りも濃い牡蠣と肉とはどうなのか。

期待しつつ待っていると、やがてやってきました魅惑の1品。これまた、発見でございました。お互いがまるで邪魔をしない。焼き牡蠣のうまさと、豚肉のうまさ、それらが、絶妙にからみあっている。このアイデア、どこから生まれてきたのか。牡蠣の名産地の方々にも教えてあげたい。

(と、偉そうなことを言っておきながら、大失態。酔っ払いが歓喜雀躍し、カメラSさんに撮らせる間もなく、光の速さで完食してしまい、写真がありません。気になる読者の皆様におかれましては、この冬のうちに一国さんを訪れて、実食されることを強くオススメいたします。)

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

いやあ、うまいねえ。このところ取材やら打ち合わせやら、忙しく、おまけにコロナ禍で自由にならなかった外飲みが存分にできるようになって、調子に乗ってしまっていた。とはいえ、若い頃のように連日の深酒に耐える力はもはや残っていない。だから、けっこう、へばっていたのだ。

それなのに、こうして「一国」のカウンターにてうまい串が次々に出てきて、あれもうまい、これもうまいと喜んでいるうちに、気が付けばすっかり元気になっているではありませんか。

さらに勢いを得て、チキンボールをいただきます。これには、生卵か生ピーマンを添えることができる。迷わず、生ピーマンを選ぶ。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

ご覧ください。この1品。見ただけで味や歯ごたえが、すぐにも想像できるわけですが、ピーマンの端っこと、チキンボール1個を一緒に口に入れて噛むと、思わず、笑みが出ますよ。

ああ、うまい。私はピーマンの肉詰めがたいへん好きですが、あの、ピーマンが生なのです。チキンボールは、生ピーマンと一緒に食べるに限る! 今知ったばかりのくせに、思わず力が入ります。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

若い女性の声が聞こえています。はきはきと、大きな声で、積極的に注文をしている。物怖じをしていない。ちらりと見たら、可愛らしい娘さんだ。

こういう子がもつ焼き屋にひとりで来る。そういう時代になったんだなと思います。とてもいいことです。迎える常連さん方も、やさしく接していらっしゃる。実に、気持ちのよい光景だ。誰も絡まないし、楽しそうに会話を楽しむ。これなら、初めて来た女性のひとり客でも、安心して飲める。うまい串焼きの数々を、しっかり味わうことができるでしょう。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

私たちの前には、辛口ウインナーが出てきた。チョリソー1本を4つに切って串に刺した感じ。ウインナーの表面が軽く焦げていて、口に入れるとコリっとして軽快、辛味も来て、これまた酒に合う。

さて、腹もほどほどに満ちてきたし、後から来る方々に、この特等席を譲る頃合いでしょう。お暇するタイミングを考えつつ、最後の注文とまいります。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

この日の〆に頼んだのは、タラと白菜のホイル焼きだ。もつ焼き屋で、この1品があるのは、やさしい気づかいの証拠だなあと、思います。シメジとネギもたっぷり入って、胃にやさしく、おいしい。

赤星を1本追加して、もうしばらくの間だけ、ゆっくりと、味わうことにいたします。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

もつ焼きはどれも絶品で、すっかり満腹になってしまい、今宵はとても余力が残っておりませんが、今度また田無方面を訪れる際には、姉妹店のホルモン焼きも味わってみたい。そう心に誓い、踏切を渡る晩秋の夜でありました。

ごちそうさまでした--。

田無南口、雑居ビルの通路に潜む“秋元屋系”絶品もつ焼き店

(※2021年11月11日取材)

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

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