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100軒マラソン File No.53

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

「和酒蕎宴 くさの」

公開日:

豊島区東池袋に、「過去」がそのまま残ってしまったような、細い道があります。その名を美久仁小路といいます。

サンシャインシティのすぐ近くですから、池袋の中心部であるのに、それと知らずに通り過ぎてしまう。知らなければたどり着けない。そんな道。

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

しかし、あれ? ここはナンだ? と気が付いたならば、次の瞬間には、ちょっとワクワク感に満たされるはず。謎めいた小路なのです。

入ってみるしかない。そうして、入ってみて、やややや、ここは、古の飲み屋小路であるなと気が付いたときには、小路の反対側にもう出てしまっている。

それくらいの、ごく短い、しかし、ぎっしりと小さな店の並んだ魅力的な小路が、美久仁小路なのです。

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

小路の東側の入口から入って右手の3番目。そこが「和酒蕎宴 くさの」という店です。扉を開けて入ると、カウンターが1本。テーブルも巧みに配置し、ご主人の草野政弘氏いわく、

「頑張れば12人入れます」

さっそくカウンターの1席を確保します。時刻はまだ開店直後。私たち取材隊が最初の客になります。

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■店を出すならこの横丁で

まずは、赤星。サッポロラガービールをいただきます。この店を始めて5年半になるという草野さんが、オープンのときからこれと決めていたビールとのことです。

お通しは3点盛りだ。左から、根菜とツナのゴマ和えサラダ。真ん中は、ナスと鴨と仙台麩の煮びたし。そして右が、ジャガイモのナポリタン。これでお通し200円は安い。充分にビール1本のつまみになります。

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お通し3品も日替わりとのことですが、店のメニューの多さにも驚きます。黒板の品書きを見ても、ざっと数えて50種類は下らない。これだけの酒肴をたったひとりで用意するのは、かなりの手間と思われるが、草野さんには、それをこなすだけの経験があるようです。

もともと、旅行業界で働いていたという草野さん。

「入社後最初の赴任地がカンボジアでした」

と、事もなげに振り返る。現在47歳の草野さんの入社後すぐの時期というと、カンボジアにはまだ、旧ポルポト派の残党もいたとかで、当然、あまり、安全な土地ではなかった。

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

その後もタイ駐在や中国への出張などを含め、東南アジアでの仕事が多かったという草野さんは30代のとき、脱サラする。

日本料理屋、居酒屋、蕎麦屋などを渡り歩いて力をつけた。その間、美久仁小路には、客として通っていたという。

「この横丁でやりたいな、と思っていました。一人でやりたかったから、このサイズ感もちょうどよかったんです。それで、相談をしてみたんですけど、店の空きがなくて。しばらく待つことになるんですが、ある時、ここにあった沖縄料理店が3軒ほど先に移転することになりまして、ひょっこり空いたんです。それで開店したのが5年半ほど前になります」

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

やるなら、ここ。そう決めて店が空くのを待つ。脱サラしてから数年、修行を重ねて自らの店の開店の準備をしたことも含めて、草野さんの、物事に対するこだわりの強さみたいなものを感じさせます。

草野さんは蕎麦打ちの修行もした人だから、飲みの最後は手打ちの蕎麦で締めたい。そんなことを考えながら品書きを見ていたら、必然的な流れであるかのように、だし巻き玉子に目が止まります。

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

プレーンのほかに、しそしらす入り、明太チーズ入り、そして、全部入りとある。さて、何にしようか。サッポロラガーの後は、店が揃える中から日本酒も選んでみたいので、ここは、すっきり系で、しそしらす、にしてみる。

だし巻き玉子を頼んだ頃には常連さんも来店された。草野さんとかわす言葉つきの柔らかさから推して、かなり親しい人であるらしい。こちらはイチゲンなのに、すぐさま常連さんが羨ましくなる。そういうことを感じさせる店なのです。

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■おでんはセルフサービスで

さて、だし巻きがやってきた。ふわふわの熱々。まことにうまい。

これに、1杯の酒を併せてみました。宮城の「花ノ文」という銘柄で、たいへんすっきりした酒です。

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

こちらの店では数々の日本酒を、少しずつ味わえるよう、1杯を5勺にしている。1勺は1合の10分の1。つまり、5勺は1合の半分ですな。なるほど、これなら、3種類、4種類と味見をしても、さして酔わない。

私のように、飲むとなると5種類、6種類を平気で飲むことが多い者にとっては、1杯くださいと頼んで正1合入ってくると、軽く1杯のつもりで飲んで、あっという間に5合酒、なんてことになる。

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そんなことはどうでもいいのです。

次なるつまみは、真アジの南蛮漬け。いいですね。さっぱりとして、いくら辛口のキリッとした酒とはいえ日本酒をいただけば口の中は軽く甘くなる。そこへ南蛮漬けはほどよく調和しますし、この1杯からまたビールに戻るのも正解というものです。

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と、ここで、先刻から気になっている、カウンター右側の、おでん鍋に目がいってしまう。大きなホットプレートのような鍋のような、そこに、ぎっしりおでん種が並んでいるのだ。

こちらは、1品120円か150円。セルフサービスとなっています。

「ひとりで仕事をしていますので、料理を作っている間などは、お客さんに、この鍋から好きなものを取っていただいています」

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そして結局のところ、何を選んだか。

コンニャクとガンモと大根とタマゴ。

まあその、定番ですわね。おでん屋さんに行っても、コンビニで買っても、昔の屋台で頼んだのも、こんな感じでしたよ。それは、今も変わらない。安定した味を求めてのことなのか、理由はわかりませんが、おでんのレギュラーを揃えた感じで、ちょっと嬉しい。

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もうひとつ、嬉しかったのは、おでんの案内の近くにあった、丸眞正宗のカップ酒です。東京は赤羽に蔵のあった、東京の地酒。現在は、埼玉の本家筋で引き継がれたそうですが、東京地酒としての「丸眞正宗」の名前は残った。

さらに言えば、ここは赤羽の名店にならって、このカップ酒におでんの出汁を入れるという、「出汁割り」もやっているのです。

酒を飲んでいって、量が減ったところへ、おでんの出汁を混ぜてしまうという究極のカクテル。飲むときにはすでにして酒と肴の風味が同時に身体の内に沁みていくという、酒飲みの天才が思いついたとしか考えられない飲み方を、東池袋、美久仁小路でも楽しめるのであります。

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

■〆の手打ち蕎麦は格別

初めての店なのに、すでに、とても楽しい気分になってくる。

どこか妙な言い方になるけれど、昔ながらの屋台店の親しみやすさ、顔なじみが肩を寄せ合う小さな店の親密さが、店内に満ち溢れている。お世辞を抜きに、プライベートで出かけたくなる店だ。

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

実際、最初は男性に連れてきてもらった女性が、2回目からはひとりでふらりと現れたりするということです。

わかるような気もするんですね。店の雰囲気のやさしさ、他の客や主人との距離の近さなど、いずれも心地いいし、安心だから、ひとりでふらりとやって来るのに、実は適しているのかもしれません。

さて、ここいらで、手打ち蕎麦にしましょうか。

二八蕎麦の本日の蕎麦粉は、北海道は富良野の牡丹蕎麦。聞くところによると栽培に手のかかる品種であるらしく、幻の蕎麦粉なんて言われることもあるようです。

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

で、この蕎麦がまた、格別でした。風味、歯ごたえ、つゆの加減、いずれも嫌味なところが少しもない、きれいな蕎麦です。

聞けば日曜・祝日は13時から営業しているという。昼にふらりとやってきて、軽くつまんで赤星から日本酒の1、2杯をやり、締めに、この絶品手打ち蕎麦があれば、申し分ない。

なんだかちょっと、癖になりそうな酒場を見つけてしまったなあ。

東池袋「美久仁小路」に癖になりそうな酒場がある

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

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