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100軒マラソン File No.45

亀戸二丁目団地の「不思議な蕎麦屋」に行ってみた

「養生料理 高の」

公開日:

東京の東側――。

西側郊外でしか暮らしたことのない私にとって、墨田、江東、葛飾、江戸川などは、都心部より向こうの、東側の、ちょっと遠い場所という気がしています。

こちらの界隈の生まれ育ちの方々にとって荻窪、三鷹、国分寺あたりが、ちょっとよくわからないのと同じように、私などは錦糸町から向こうとなると、甚だ疎い。

それでも、江東区亀戸は、亀戸天神に藤棚を眺めに婆さんを連れてきたことがあって、ほんの少しだけ馴染みがあります。

亀戸二丁目団地の「不思議な蕎麦屋」に行ってみた

2月某日。JR総武線の改札を出て北口ロータリーに立つと、ビルのてっぺんのむこうに、東京スカイツリーが見えた。しばらく歩みを進めると、目当ての団地の建物が現れる。

亀戸二丁目団地。5棟ばかりの団地らしいが、駅から近いのにこののどかさはなんだと不思議になるほどに、郊外の団地の雰囲気が残っている。

亀戸二丁目団地の「不思議な蕎麦屋」に行ってみた

1号棟の1階。そこの商店街の中に、一軒の店があります。

「養生料理 高の」。さて、なんの店だろう。店の前に立つと、豆腐とか蕎麦とかいう文字が見え、どうやら立ち飲みもできるらしいし、よくわからない。なにしろ、昼日中から営業中なのです。

さて、ここで、本当に飲めるのでしょうか? ちょっと不安になるが、若干、調べてもあるのです。

亀戸二丁目団地の「不思議な蕎麦屋」に行ってみた

■いったい何屋なのか

蕎麦屋によくかかっているような暖簾をくぐり、引き戸を開ける。

また、この戸がシブいのです。かなり時代がかって見える木枠のガラス戸だ。ガラガラっという音も耳に心地よく、中へ入ると、さらに驚かされました。

昔の民家の風情がちゃんとある。カウンターに席を取ると、女将さんが足元に出してくれたのは火鉢である。中に火の熾きた炭があり、表面を白い灰が覆っている。これが、暖かい。

亀戸二丁目団地の「不思議な蕎麦屋」に行ってみた

さっそくもらうのは、サッポロ赤星だ。店の風情に、ラガービールの瓶が実によく似合う。

お通しにニンジンのきんぴらと、豆腐が出る。ひとさじ頬張ると、抜群のおぼろ風です。添えてある蕎麦味噌がまたすばらしい。

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表の暖簾には「生蕎麦」とあったから、やはり蕎麦屋なのか。しかし、目に入る品書きには、鯨とか、ジビエとか、初めての客には、ここがどんな店であるかをにわかに判断させない、一種の混沌、というか、幻惑がある。そして、それがおもしろいのです。

「あ、あの、こちらは、どんなお店なのですか」

物書きとして、どうなのか、と自問自答したくなるほど稚拙な質問が口をついて出てしまった。

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「よく聞かれますよ。聞いてくださる方は、居酒屋ですという答えを待っているのでしょうけど、うち、蕎麦屋なんです(笑)」

店主の高野定義さんはそう言う。店を開いてから今年の夏で丸7年になるそうだ。

「なにせ団地の1階なんで、需要があるかと思って、最初はラーメン屋でスタートしたんですが、そんなに単純なものでもないようで……。それからいろいろ変わって、蕎麦屋に落ち着きました。私はもともと、寿司や和食の職人をしていましたし、どうせやるなら、自分がやりたいようにやろうと思って」

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実は、最初の豆腐もお手製なのだ。なんでも器用にこなす、というより、何にでも手を付けるかぎりはとことんやる。そういう姿勢だから、豆腐にも味噌にも、ひと箸つけただけで、あれ?と思わせるような独特の力がある。

そんな高野さんが、昼から飲める店で、客から何屋なのかと問われたときに蕎麦屋と答えている。と、いうことは、本日の、飲みの締めは蕎麦と、もう決まったようなものである。

そこで、まず、蕎麦は蕎麦でも、「蕎麦かまぼこ」というのをいただくことにした。品書きによれば、自家製であって、金、土、日曜にしか出さない限定8食である。こういうものは、品切れになる前に頼むのが、コツというものです。

亀戸二丁目団地の「不思議な蕎麦屋」に行ってみた

かまぼこは、ふわっとした仕上がりで、噛むと蕎麦粉のホクホクするような香りが上がってくる。素朴なのに、上品で、たいへんうまい。

これを、キノコと豆のつけダレにちょいと漬けて、豆なども一緒に口へ運ぶと、また、うまさが広がっていく。見た目には地味だし、たいした分量でもないのだけれど、昼飲みの最初に頼むには絶品といえますな。

おいている地酒は、江戸開城と酔鯨の2種類のみ。江戸開城というのは、東京は芝に復活した東京港醸造という酒蔵の酒だそうで、私は飲んだことがない。赤星の後には試してみたいものだなあと、蕎麦かまぼこをつまみながら思います。

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■冬寒く、夏暑い店

足元の火鉢の温みが心地いい。

ガラス戸の向こうからは、賑やかな声が聞こえる。この建物の裏手にある小学校から子供たちが下校してきたところらしい。店は団地の広場に面しているので、ときにはここで野球をする子もいるという。

「その戸の、真ん中のガラスは、もう手に入らないらしいので、ヒヤヒヤしているんです」

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聞けば、内装に用いた壁板、梁、窓枠などはすべて古民家で使用されていたもので、中でも、正面の戸のガラスは大正時代のものとかで、たいへん貴重なのだそうです。だから、野球のボールが当たって割れてしまったら、もうそれまで、ということ。そういわれてみると、こちらもヒヤヒヤしてきます。

厨房の造りも昔の台所ふうで、ちょっと覗いたら、平成もまもなく終わろうという今が、昭和の半ばのような、そんな不思議な錯覚に捕らわれる。

ホッとする場所で、昼下がりからビールを飲む気分は格別だ。コップの1杯を飲み切って、また1杯を注ぐという当たり前の動作が楽しい。つまり、昼酒がたいへん、うまい。

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イワシ鯨の赤身漬け刺し、をいただくことにします。

これはやはり、肉、ですな。動物の肉と、マグロなどの魚の肉と、両方のうまみがあるように思う。脂っこいわけでなく、すっきりとして、それでいて、迫力のあるうまさ。赤星のマイルドな味わいが、よく合います。

はあ、この店、喰うもの喰うもの、なんでもうまいなあ……。

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店内には、地元のご常連さんがいて、店主夫妻と楽し気な会話をしながら、寛いでいらっしゃる。

お隣、平井駅近くの飲み屋のことやら、亀戸天神の梅や藤の季節の賑わいなとについて、隣り合わせた私に、教えてくださる。3代以上続く正真正銘の江戸っ子であって、私のような多摩モンとはワケが違う。そういう方なのですが、飲み方も、語り口も穏やかなでイチゲンの客を安心させてくれます。

ありがたいやねえ。

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ジビエの串というのをもらうことにします。

その串を焼き台に乗せたら、店内にモウモウと煙が立ち込める。しばらくの我慢。というより、立ち込める煙を眺めるのも、妙に懐かしい。

ここはね。エアコンもついているけれどね。まあ、冬寒く、夏暑い店ですよ――。常連さんがそういって笑う。

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房総のジビエ。この日のネタは、カモ、イノシシ、シカ。この3種を串刺しにしてあります。

まずはカモ。カリっとした表面の歯ざわりが心地よいのですが、その下から、じわりと甘味が出てきます。

ビールの残りを飲み干して、新規の1本と、蕎麦湯で前割りし、少し発酵して酸味もあるという、焼酎の蕎麦湯割りをいただく。これを飲みながら、鳥獣の肉を口へ運び、合い間の更新に、ビールを挟もうという考え方です。

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串の2段目は、イノシシだ。鍋料理では親しんでいるが、串焼きは、初めてかもしれない。

予想にたがわず、引き締まって、うまみは濃いし、甘ったるさがまるでない。これと、蕎麦湯割りの焼酎が合う。挟むビールはシュワっと喉を通って、爽快です。

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さてさて、3つめがシカ。刺し身は、ウマもうまいが、シカがまた格別。馬、鹿、甲乙つけがたしと思うところが、あたしのようなバカの真骨頂だ。

なんてことを思いつつ口に入れると、肉厚で噛むほどに味が深まる。

■「養生料理」の意味

この辺で編集Hさんもテーブルに腰を落ち着け、赤星に突入。丸々素揚げという鶏の揚げ物やナガスクジラの尾の身などと合わせている。

素揚げも店の名物で、注文する人がたいへん多い人気の品だという。

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入り口の左手には小さな立ち飲みスペースがあって、ここでは酒類のほかに、ポテサラとかハムカツとか、写真のSさんの好物を、キャッシュオンで頼むことができる。

すごいですねえ。蕎麦屋で、居酒屋で、ジビエ料理があって、昼から飲めて、立ち飲みでもOK。これが、築49年という団地の1階にある。

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団地育ちの私はすっかり嬉しくなって、炭火で炙ったシシャモを投入した「ししゃも酒」をいただき、さらには「江戸開城」を注文。

合間のビールもあらかたなくなるタイミングで、絶品のぬか漬けに、思わず、にんまり笑った。

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さて、締めのかけ蕎麦を頼みます。

普通のかけ蕎麦じゃねえんだろうな、と思っていたら、その通り。麺は平打ち、汁は少しばかり濁り、キノコの姿も見え隠れする、見るからに田舎蕎麦。

これが、めっぽううまい。大豆やキノコで出汁をとるということで、とろみは蕎麦湯由来のもの。醤油、味醂、砂糖のかえしをカツオ出汁で伸ばしたすっきり系とは、実は、ひと味もふた味も違うのだが、これが妙高山麓で生まれた伝統の霧下蕎麦粉に合うのだろう。

亀戸二丁目団地の「不思議な蕎麦屋」に行ってみた

締めだけれど、つまみにもなる。いやしかし、このうまさ、熱々のうちに。と、思うから、一気呵成に食べた。汁の一滴も残さない。なにしろ、うまい。

余談になるが、私はハンパねえ高血圧である。汁、つゆ、に気を付けている。でも、うまいものを前にしたときは、どんな忠告もきかない。そんな私があっという間に完食して腹をさすりつつ、健康にいっさいの不安を覚えず、かといって開き直るでもない。

店の肩書、「養生料理」の意味に、このときになって合点がいった。

亀戸二丁目団地の「不思議な蕎麦屋」に行ってみた

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

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