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100軒マラソン File No.55

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

「三神森」

公開日:

今回取材に訪れたお店

三神森

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遅ればせながら、あけましておめでとうございます。今年も、赤星のうまい店を訪ね、いろいろと伺いながらおいしい肴をいただき、だらだらと心地よい時間を過ごし、それを、できるだけナマの言葉で、お伝えしていきたいと思います。

では、さっそく今年の最初の1軒をご紹介します。昨年12月に更新しました、高円寺「一徳」のすぐ近くに、「三神森」という店があります。小さいけれど、ちょっと、人の眼を引く。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

というのも、この店は、前を通りかかるたびに、店の中の様子が見えて、みなさん、実に楽しそうに飲んでいるのです。飲み屋の光景にもいろいろありますが、お客さんが楽しそうにしているというのが、なんといっても最高の光景だと思います。

そんなわけで、高円寺続きにはなりますが、2020年赤星100軒マラソンの1軒目として、「三神森」の扉を開けることにします。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

■カウンターのみの小さな店で…

訪ねたのは昨年12月の半ば。わざわざ時期を断るのは、こちらのお店には、まさに旬の魚が毎日入荷され、絶品の数々を、酒の肴としていただけるからなのです。

壁に貼られた品書きを見て、驚く。宿毛産と書いてあるので、いずれも、高知県の宿毛の魚介とわかるわけですが、平アジ刺身、真ゴチ薄造り、ぞうり海老とあって、海老は、煮、焼、刺身と、3種類の食べ方から選べるようだ。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

平アジとは島アジとはまた別? 真ゴチも宿毛産となると、たぶん、私にとっては初めての味だ。背後のホワイトボードには、ウスバハギの天ぷら、とか、クエ鍋、なんて書いてある。

おお! これは、すごいことになっている。カウンター10席ほどの小さな店で、高知の海の最高の魚介が味わえるのだ。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

「お客さんの中には、高知や愛媛の魚を知らない人も多いですよ」

そうおっしゃるのは店主の赤松託吉さん。愛媛県の愛南町の出身だそうだが、高知の宿毛は県境をまたいだ隣町だ。その漁協に、若い頃に出入りしていた関係で、今も仕入れのルートがあるのだという。

なるほど、だから、愛南や宿毛の味を、そのまま高円寺で提供することができるわけですな。しかも、中間マージンが乗らないため、驚くほどお値打ちに。

そのひとつが、媛スマ。これはスマガツオなんだそうですが、私はまるで知らなかった。

「東京の人はまだ知らないんですよ。現地の人たちはどうかというと、高価な魚だから地元でもほとんど食べない。それを、取り寄せているんですよ」

理由はシンプル、「うまい」から。ビールは赤星、焼酎は「盛若」を推す。その理由も、ご主人が「好き」だから。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

お客さんの中では、この店の良さがわかる人たちが先導役を果たした。飲食業の勤務後の人たちに注目されたのだ。

「仕事終わりの人たちが来てくれてね。料理長とか、そういう人たちが、なんで、こんなにいい魚がこんなに安いのかって(笑)」

評判は徐々に浸透していく。また、高円寺は、ライブ帰りの人たちなど、深夜に飲み食いを楽しみたい人も少なくない。だからこそ、赤松さんは、お客さんが望むなら明け方まで店を開けていることもあるという。すばらしいですね。私は、こういう話に弱いのだ。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

さてさて、カウンターに置かれた赤星ビールは、私が前置き的おしゃべりをしている間にも、ぐんぐんと減っていく。

マハタ、真ゴチ、ぞうり海老などなど。どれを頼もうか、ひたすら悩むことになる。

ぞうり海老というのは、幻のエビと言われているらしいのですが、ご主人の赤松さんいわく、

「伊勢エビより甘い」

とのことですよ。楽しみです。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

■いざ、三神森ワールドへ

ひたすら悩んだ挙句、まずはおまかせ3点盛りを頼みます。

上には、本マグロの中トロが入るが、媛スマが入ると、特上になる。やはり媛スマは外せない。ちなみに、本日の特上3品は、(写真右から)媛スマ、マハタ、平アジ。見てください、これで、たったの1400円ですよ。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

媛スマの説明が遅れましたが、これは愛媛県産養殖スマの総称で、スマというのは、スマガツオのこと。ちなみに、媛スマは、全身がトロとも言われるきめ細やかな脂乗りで、魚好きを魅了する絶品。それを、この店はさらりと出し、カウンターの客がまた、シレっと味わってしまうのである。

ごめんなさいね。という、うまさです。

なんだろう、食感はトロリとして、甘みがあり、鮮度も見事な感じで、うまい魚を喰えるニッポンにいるというヨロコビが、しみじみとわいてくるのです。

平アジだって負けてない。これは、実は真アジなのですが、まるでアジではないかのような、うま味と脂をのせたアジ。シマアジもすごいと思ってきましたが、平アジってヤツは、それはもう、手強いのです。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

「とにかく、私が食べてみて、おいしいものしか出さない」

赤松さんはそう言う。

マハタやクエという愛南町の高級養殖魚も手に入るこの店は、私たちの知らない、美味を教えてくれる。

「今日はたまたま切らしていますが、トウゴロウイワシという、ボラの稚魚によく似た小魚がいるんですね。これを素揚げにしてポン酢で食べる。絶品ですよ。高知ではトンゴロっていいます」

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

フエダイの中でも滅多に獲れないゴマフエダイも時には入るし、天竺タチウオという、大ぶりのタチウオにも出会えるという。このタチウオは、煮ても焼いてもフライでも、フワフワで最高と、赤松さんは頬を緩める。

私たち取材隊は、ビールから、神津島の焼酎「盛若」へ切り替えて、三神森ワールドに遊ぶのです。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

ぞうり海老の刺身がきた。

見た目こそ地球外生命体のようだが、透き通るその身は、適度な歯ごたえを残し、それでいてとろけるように柔らかく、なにしろ甘い。編集Hさん、写真Sさんもはじめてとのことで、大の大人3人がかりでがっつき合う。

この身の甘さ、まさに伊勢エビ以上。そうを思いながら感服していると、追い打ちをかけるかのごとく、えもいわれぬ芳香が漂ってくるではないですか。

焼いているのです。そうです。エビの頭です。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

磯の香りが、高円寺の小さな店のカウンターに流れてくる。おお、これは、海の匂いだよねえ、と、思わず顔がほころぶわけですが、出てきたエビの頭を見て、また、歓声があがった。

殻の中に残った白い身はただただ香ばしく、同時に磯の香が嗅覚を刺激し、味噌は、いささか焦げ臭をまとって、口に入れるとまろやかなミソ本来のうまみを主張してくる。

たまらん。たまらんですな。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

「四万十の黄金シジミって知ってますか。砂地に潜っていて、アサリのようにでかいシジミ。これを、アオサ海苔と一緒に味噌汁にしたら絶品です。それからね、土佐清水の港から空輸しているのが、サバです。身がプリプリで、筋肉サバと言われているんです(笑)」

魚好きなら、こんな話だけでも肴になるというもの。どこそこのナニがうまい、という話は、そこに実物がなくても、いいつまみになったりします。ところが、この店の場合、実際に、初めて口に運ぶ味に驚きながら、さらなる「お話」を畳みかけられるわけですから、話のおもしろさも倍増する。ああ、行ってみたいなと、軽い旅情も呼び起こされる。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

■〆の一杯もお忘れなく

いよいよ、酒の勢いが出てくるわけですが、このあたりで、海の幸から川の幸へと、趣向を変えてみたいと思います。

というのも高知県は、仁淀川、四万十川と、淡水魚の宝庫としての川も自慢だ。その中から、四万十の天然アユが入っているということで、焼いてもらうことにした。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

天然鰻の魅力も尽きませんが、やっぱり四万十はアユでしょうか。干しアユもいいし、冷蔵技術の進歩した昨今では、保存したものでもかなりうまい。

夏のものとばかり思っていましたが、冬の落ち鮎もなかなかどうして。皮の香ばしさ、身の、川魚ならではの淡さを楽しみつつ、さあて、お次もまた、四万十がらみでいこうと決める。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

先刻、話に出ていた、四万十の黄金シジミとアオサ海苔の味噌汁。この香り、深み、じわじわとしみ込んでくるような、ありがたいうま味……。

もう1本、赤星をもらおう。黄金シジミの味噌汁で全身を更新されて、また最初から、やり直したくなっている。

と、同時にお願いするのは、当店自慢のラーメン。汁ものが続こうが何だろうが、これだけは避けて通れない。お客さんの中には、飲まずに、この名物ラーメンだけを食べに来る人もいるという。

名付けて「海老だし醤油ラーメン」700円也。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

赤松さんいわく、「ラーメンは自分の趣味でやっているようなもので、儲けは度外視」とのこと。

ごくごく普通の醤油ラーメンに見えるのですが、鶏ガラ、豚骨、サバ節などでとったベースのスープに、なんと、オマールエビを丸ごと煮たスープを加えているといいます。そのため、独特のコクと香りがプラスされ、食欲をそそる、そそる。

全粒粉を使った中太ストレート麺に、具はネギ、チャーシュー、穂先メンマ、そしてやはり、四万十のアオサ海苔が入る。

〆に最適、最強のラーメン。お訪ねした人は、この一杯分の余力を残すことを、忘れずに。

高円寺で高知・愛媛の魚介をシレっと満喫する方法

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

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