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100軒マラソン File No.42

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

「たもつ」

公開日:

銀座と並んで有楽町という街はいいですな。何がいいって、まず、名前がいい。銀座というのはもともと、銀貨を鋳造する場という意味ですが、その隣に、有楽町がある。

織田信長の弟、織田有楽斎に由来する地名らしいですが、楽しさが有るという、字面も意味も、なんともハッピーな感じのする街だ。

実際、全国各地の繁華街へ行くと、〇〇銀座を筆頭に、〇〇銀天街とか、〇〇有楽街など、大きなアーケードだけでなく、ちょっとした路地などにも、銀座とか有楽の2文字を発見すると、うれしくなる。ちなみに、筆者がこれまで見た中では、岩手県の「遠野銀座」と、北九州市門司港の「有楽街」というのが、“シブい”の両巨頭であります。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

それはさておき、今回の赤星100軒マラソンは、有楽という名つく街の総本山ともいえる、東京の有楽町へとやってまいりました。

JRの高架下にも有名なもつ焼き屋さんがありますが、今回の場所は、そこまで行くちょっと手前。この界隈で飲んだことのある人なら思い当たるかもしれませんが、煙が立ち上る店の並ぶ一角がある。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

いや、実際に煙がもくもくと上がっていたのは、ちょっと昔の話になるかもしれませんが、店の外にテーブルを出して、そこで飲んでいる人の多い一角といえば、ああ、あのへんかなと思う人も少なくないでしょう。

そのうちの某店には、かつて何度か寄らせていただいたことがあるのですが、今回の店は初めてです。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

■モグリの誹りはまぬかれない

あいにくの雨模様。そろそろ夜は冷える頃合いでもありますから、ビニールの幌をかけたその内側にテーブルを出した1軒の居酒屋。そこが「たもつ」さんです。

開店と同時に店へ入り、日ごろは常連さんがずらりと並ぶというカウンター席に座って、ご主人の伊藤誉明さんにお話を聞きました。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

「今年で43年目になります。店の設えも、メインのメニューも、先代のときと変わりません。昔から、夕方にはもうカウンターは常連さんたちでいっぱいで、ご新規の方たちは、外のテーブルに案内していましたね」

昔からお付き合いのあった先代の跡を継いで、かつては和食の職人として腕を磨いていた伊藤さんが、現在は店を切り盛りする。焼き台を担当するのは息子さん。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

「鶏も豚もその日の仕入れで、肉をさばくところから息子とふたりでやってますよ。だから、その日の肉の質をみて、焼き具合なども、随時話し合いながら決めています」

和食の職人の経験は、素材の吟味から手を抜くことを許さない。つくねも2種類作り分けるし、煮込みの仕込みも毎日。作業は、朝9時には始めるということです。

いい店ですねえ。しかも、オープンから43年にもなるという。そんな老舗に足を踏み入れたこともなかった私はモグリの誹りをまぬかれませんが、まあ、いいんです。今日、こうして出会えたのですから。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

赤星をいただきましょう。瓶からグラスへ注ぐときに、すでに軽く胸が高鳴っているのは、鶏や豚の串ものへの期待の表れです。

「カシラと白レバーたたき、それからガツ刺しをください」

ビールをひと口、飲む。その日最初のひと口がするりと喉を通って胃のほうへ下っていく。このひと口は、暑い時期だけでなく、晩秋や真冬でも、変わらぬおいしさがある。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

艶やかな、見るからに新鮮なレバーが出てきた。

白レバーを軽く炙ったたたき。ごま油などをつけるのではなく、塩だけで、さっぱりと味わう。

白レバーそのものが希少であるうえに、これだけの鮮度なのだ。人気が出て当然というものだろう。早めの時刻にきて、貴重なひと皿にありつけたのは幸運である。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

かすかに炙っただけのレバーは、口に放り込むと、とろとろとした触感を残したかと思うと、次の瞬間には本当に溶けてしまう。そのあとの、少し濃く、甘くなった口中にビールを流し込むと、さきほどの最初の1杯よりもさらに爽快に感じる。

「これは、うまいですね」

そういう私に伊藤さんはただにっこりとほほ笑んだ。自信の表れと、理解する。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

■「たもつ」に出会えたありがたさ

続きましてガツ刺しに箸をのばす。

ボイルした豚の胃袋を、おろしニンニクとごま油のたれで食べる。これは食感が勝負だが、好きな人は、新鮮なガツ刺しに目がない。私もそのひとり。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

ふたきれほどを箸でつまんでニンニクをつけ、たれにつけ、それから口へ運ぶ。臭みはなく、ニンニクの辛味とごま油の丸い味わいが、ガツのこりこりとした食感によく合って、ビールが進む。

焼酎やウォッカなどのスピリッツをちびちびやりながら味わうにも最適。店には焼酎があるから、ビールのあとは焼酎にするかと思い始める。

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カシラも焼きあがる。

皿に味噌がもられていて、なめてみるとぴりっと辛い。自家製の豆板醤ということです。このピリ辛とカシラとの相性は抜群と思われた。

「ネギ、シシトウ、ぎんなんをお願いします」

カシラの歯ごたえを楽しみながら、野菜串を追加。続いて、鶏も頼んでみることにした。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

ほどなくして、目の前にやってきましたのが、なんとも上品な感じの1本ですよ。

「大山地鶏のムネ肉です。朝引きですから鮮度がいいですよ」

ほぼ生、と思わせる地鶏にのっているのは、最初、ワサビかと思ったがそうではない。

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「当初はただのワサビだったんですけど、ソースを考案しまして」

これ、シソをベースにしたソースで、伊藤さんのオリジナルということです。さっぱりとしていて、鶏との相性という点でも申し分ない。

ワサビをのせてしまうと、ワサビが前面に出てきてしまうが、このシソのソースだと、主張が軟かく、鶏そのものの鮮度の良さをじっくりと感じさせてくれる。それでいて、鶏特有の匂いもほどよくカバーしているようで、繊細な出来栄えとなっているのです。

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酒にしても、開栓した後は徐々にではあるが酒質が変わる。つまり、開けてしまったら日を置かずに飲むのが、鮮度重視の酒への礼儀みたいなものである。同じことが、酒肴にも言える。

グツグツと煮込むタイプの料理などは、2日目のほうがうまいことがあるし、鮮魚にしても熟成したほうがうまいという魚種もある。けれども、焼き鳥にする鶏肉や豚肉、あるいは臓物の類はやはり新しいに限るのではないか。

素人考えで適当なことを言っておりますが、好きなもつ焼き屋、焼き鳥屋に聞けば、みなさん口をそろえて鮮度が重要という。そういうことが、この大山地鶏の串を味わいながら、またしても頭をよぎるのです。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

ネギがうまい。シシトウがうまい。ぎんなんは、なぜこれほどビールに合うのかと改めて考え直してみたくなるほどに、うまい。

この界隈の店は何軒も知っている。駅前の中華から始まって、ビアレストラン、やきとん屋、居酒屋、バーはもとより、かつて数寄屋橋からこっちへ歩いてきたところに出ていた屋台で飲むことも好きだったのに、「たもつ」を知らなかったということは、痛恨事であるような気がしてくる。

しかし、本日、たった今、その魅力に気付いたわけですから、むしろ、そのことをありがたいと思いたい。人に教えたいような、教えれば混むから教えたくないような、そんな気分にさせる酒場には、そうそう巡り合えるものではない。やはり、ここは、ありがたいや、という、一期一会の心を大事にしたい。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

■ついつい長居をしたくなる

2種類あるというつくね、2種類とも、いただくことにします。

最初に出てきたのは、いわゆる、普通のつくね。ところが、これが、普通ではない。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

少し大きめの団子状のつくねはいったん油で揚げてあって、表面がカリカリッとしている。それをまた、軽く炙って出すものだから、甘味のあるたれの味わいだけでなく、さくさくっとした噛み応えが生まれ、格別なのだ。

聞けばこれ、43年の歴史あるこの店の、昔からのつくねなのだそうです。そして、もう1種類のほうも同じく43年もののレシピだというから驚いた。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

人呼んで、生つくね。棒状のつくねにはシソを混ぜ込むため、油で揚げるなどせずに、なるべく香りを残すよう、生の状態から焼く。

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これが、うまい。ぴりっと辛く、仕込んだシソがハーブの役目をはたしていて、上等なソーセージそのものなのだ。

とはいえ、それは和風なのであって、日本の焼き鳥であることには違いがないのだけれど、いわゆる「焼き鳥」の概念を突き破った感動がある。

なんでも外国人客にたいへん人気があるという。それも納得だ。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

長居をしたくなる。けれど、ここは、好きなものをつまみ、さらりと飲んで、野暮にならないうちに席を立つのが、格好がいいようにも思える。

といいつつ、ビールをもう1本。開店から1時間ほどで、雨にもかかわらず込み合い始めた店内に、今しばらく残りたい。

塩焼きのネギを口へ放り込む。しゃきしゃきっとして爽快だ。

厨房をぼんやり見ていると、ご主人の背中の側にある水冷式冷蔵庫から、赤星がまた1本、するりと抜き出された。

水冷は原始的だが冷えが早い。そんなことを聞いたのもまた、赤星を置く、いい酒場であったことを、ふと、思い出す。

有楽町で「この店」を知らずにきた痛恨事

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

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