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団長が行く File No.55

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

「Chinese 元yuan」

公開日:

今回取材に訪れたお店

Chinese 元yuan

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あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の6代目団長・赤江珠緒さんが、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。

気鋭の夫妻が営む本格中国料理店

中央線高円寺駅。ここは不思議な街だ。駅前には雑貨屋や古着屋などの小体な個人商店が密集し、小ぶりなライブハウスが乱立している。やはり個人経営と思しき飲食店が軒を連ね、やたらとラーメン店とカレー屋、エスニック料理の店に出くわす。

どことなくサブカルの香りが漂うのは、楽器を担いで闊歩する若いバンドマンたちや、昭和のファッションを上手に着こなしたいかにも自由業という風情の人たちの姿が目に入るからだろうか。誰もが自分の好きなことにちゃんと向き合っているような快活さがある。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

ところが、雑然とした駅前から5、6分も歩くと、街の様子はがらりと変わる。そこはもう閑静な住宅街だ。

地名の由来となった曹洞宗の名刹「高円寺」の門前を過ぎ、天沼弁天池と神田川をつなぐ暗渠の遊歩道・桃園川緑道を越えると、本日のお目当て「Chinese 元yuan(ユアン)」が見えた。知っていて目指さないとまず辿りつけない店だ。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: おしゃれ。そして、かわいらしい。ここは本当に中華の店なのでしょうか。おじゃましますー。

店内はオープンキッチンを囲んでL字のカウンターがあるだけの端正な空間。棚に並ぶ中国風の壺だけが、“中華の店ですよ”と静かにアピールしている。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: 素敵なお店ですね。中華のお店というより、ビストロとかワインバーという雰囲気。

「まさにビストロだったんです」と笑って答えるのは、オーナーシェフの坂元裕太郎さんとソムリエの常前茉希子さん夫妻。ふたりが2022年9月に開いたばかりの店だ。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

「ビストロだった店舗を居抜きで借りて、内装はほとんど何もいじっていません。中国感がないですよね」と茉希子さんのはにかむと、三人は顔を見合わせて笑った。

赤江団長の名で予約したからだろう、ワインクーラーにはサッポロラガービール、我らが“赤星”がキンキンに冷やされている。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江 わーうれしい! こんなふうにされると、いつもの赤星がぐっとおしゃれな飲み物に見えますね(笑)。早速1本ください!!

当店では、赤星はブルゴーニュ型のワイングラスにたっぷりと注いでもらえる。これまたお初にお目にかかる風景だ。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: くわーー、しゃれおつーー。飲むのがもったいない。ずっと見ていたい。いやいや

――いただきまーす!

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: 美味しい! えっ!? なんか上品! なんか繊細! 私が赤星だったら、こちらのお店に出荷されたいです。

具材みっちみちの絶品春巻きに驚愕

「Chinese 元yuan」は本格中華料理の店だ。伝統的な定番料理から新発想のヌーベルシノワまで、季節の多彩な皿が揃う。

この日もメニューには「鱧の甘辛唐辛子炒め」や「豚肉と玉葱のシュウマイ 桜エビ醤のせ」「タコとしらすの大葉炒飯」など魅惑的なワードの数々が踊っている。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: だめだ! 決められない。一旦、ピータン食べながら落ち着こ。いったんピータン。とりあえずピータン。

やってきたのは、人気の前菜でもある台湾ピータン。日本の伝統色で言えば赤銅色に当たるだろうか、ぷるんとゼリー化した白身部分が透き通りつつ美しい輝きを放っている。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: んーーー、このピータン、お・い・しっ! ピータン自体のお味もいいんですが、タレと薬味の生姜の甘酢漬けとのバランスが最高です。赤星のほどよい苦味とまたよく合うなあ。

赤江団長はピータンを味わって確信した。この店……何を食べても間違いない、と。もう迷わない。自分の胃袋に正直に、本能の赴くままにオーダーする。

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赤江: エビ春巻きと、鮎の春巻きください!

いきなり春巻きのコンボをキメてきた。

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調理を一手に担う裕太郎さんは寡黙に淡々と仕事をこなす。丸いまな板の上で大きな中華包丁を使って鮎を三枚に卸す。エビを叩いて春巻きの餡を作り、春巻きの皮でキレイに巻き上げる。

揚げながら、付け合わせのキュウリに飾り包丁を入れる。わずかな隙間時間も他の料理の下拵えに余念がない。無駄のない段取りとキビキビとした動きが見ていて心地いい。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: キッチンの様子が丸見えですね。ここはアリーナ席です。ご主人の美しい所作も美味しさのうち。思わず赤星も進むというものです(笑)。

「主人はこのお店を始めるまでは、クローズドキッチンでしか働いたことがなかったので、開店当初はめちゃくちゃ緊張してしまって。動きもだいぶぎこちなかったです(笑)」と茉希子さんが話すと、裕太郎さんは奥で筍を千切りにしながら、苦笑いしている。夫妻とのこの距離感も心地いい。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

揚げたての春巻きがやってきた。まずはエビバージョンだ。

こちらの春巻きは皮の中に餡が入っているという一般的なイメージとは違う。皮がはちきれんばかりに、エビがみっちみちに詰まっているのだ。

赤江: 見てっ、この断面! エビ! なんて美しいんでしょう。パンッパンじゃないですか! ノーベル断面賞をあげたいぐらいです。

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赤江: (パリリッとかぶりついて)ふんっ! (鼻息荒く)おいひぃでふっ! なにこれ、エビ! エビだ〜、おいしい! エビですよ、想像以上にエビ、めっちゃエビ、おいしすぎる!

あれ? ワタシ、「エビ」と「おいしい」しか言ってないわ(笑)。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

語彙を失った団長に、鮎バージョンがたたみかけてくる。

こちらは1本の春巻きに岐阜県産の型の良い鮎を丸ごと1尾使った贅沢な一品。梅肉のソースがアクセントだ。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: おぉ〜、まさしく鮎だ〜。鮎が閉じ込められています。鮎のワタも隠し味をして使われていますね。上品なほろ苦さがと爽やかな香りがたまりません。初夏の香り。

そして、この骨せんべいもおいしい! そもそも、中華料理で鮎が食べられると思いませんでした。こちらのお料理は発想が楽しいし、見た目も美しくて、もちろん味は絶品。なんか楽しくなってきちゃいました。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

「季節の食材を使っていろんな料理を考案しているんですが、人気があるのは案外、麻婆豆腐とか酢豚とか、いかにもな定番になりますね。昨日は鮎でコンフィ(低音の油でじっくりと煮るフランス料理の調理法)を作ったのですが、妻にダメ出しをされてボツになりました。ま、確かに注文されませんよね」(裕太郎さん)

赤江: ははは。いろんな魅力的な料理が並んでいますからね。あえて、こちらで鮎のコンフィを選ぶのは、かなりのグルマンか変わり者でしょうね(笑)。でも、春巻き、ほんとにおいしかったです。

独立開業の夢に向かって邁進した日々

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

裕太郎さんは千葉市の出身。高校卒業後に料理の世界に入り、帝国ホテルの中国料理「北京」に入ってから、中華の奥深さに魅了されていったという。

茉希子さんは青森県八戸市の出身。「北東北の人間はいきなり東京に出るのは怖いので仙台でワンクッション置きがち」だそうで、高校卒業後は仙台のホテル専門学校で学び、仙台の老舗ホテルに就職。その後、帝国ホテルの「北京」へ転職し、ホール業務に取り組んだ。

そう、ふたりは東京の北京で出会ったのだ。と、文字にするとちょっとややこしい。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

ほどなく結婚したふたりは、将来自分たちの店を持つことを目標に、それぞれ精進する。裕太郎さんはさらに幅広い知識と技術を修得すべく、ヌーベルシノワの名店と呼び声の高い新宿御苑前の「礼華」などの店を渡り歩いて、ひたすら腕を磨いた。

一方の茉希子さんはサービスを追求しながら、ソムリエの資格を取得。ワインとのマリアージュが楽しめる中華料理店を理想として、開店の準備を着々と進めていった。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: いいなあ。同じ目標に向かった助け合い、そして切磋琢磨する関係。おふたりの穏やかで実直な人柄が、この空間やお料理からも伝わってきます。

そんな話をしているところへ、えも言われぬ強烈な芳香が漂ってくる。インスピレーションで選んだ本日のメインディッシュ、活きハマグリの香味しょう油がけのお出ましだ。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: ハマグリタワー! そして山盛りのパクチー! これまたいい意味で想像を裏切る素敵なお料理です。どれどれ……うわうわうわうわぁ〜、なんじゃこりゃ〜、すごすぎる! 今まで食べたどのハマグリよりもハマグリ!

この絶妙な火の入れ方は何ですか? しゃぶしゃぶした感じ? 確かに火は入っているのに、硬くなる直前のトゥルンという食感がちゃんとあるのはなぜ!?

そして、香味しょう油のタレをまとったハマグリの旨味が口いっぱいに広がって、脳天を突き抜けてきます。これ、いかんです。反則です。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

このハマグリを食べて、白ワインを飲まずにおられようか。いや、おられぬ。

赤江: マダム、もうだめです。ハマグリに合わせる白ワインをお願いします。赤星と同時にいただきます!

茉希子さんが選んだのは、透明感のある果実味としっかりした酸が特徴のリースリング。なんと中国の山東省で醸された1本だという。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

ひと口飲んだ団長の目がきらりと輝き、「ぉぃしぃ」とつぶやいた。

「いかがですか?」と茉希子さん。

赤江: はい、すばらしいワインですね。ええと、地に、地に、足が着いている、ような、揺るぎない姿勢。爽やかさと、ほどよい甘味がありつつ、ドンとした腰回り……。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

赤江: 私の言っていること大丈夫ですか? ソムリエの方から見て。

「ええ! もちろん。表現は自由ですから!」

茉希子さんはとてもいい人だ。

閉店後、深夜の密かなお楽しみ

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

ところで、「Chinese 元yuan」では、なぜ赤星を置いているのだろうか? 団長は素朴な疑問を投げかけた。

「お恥ずかしい話ですが、私たちふたりとも、赤星のことを知らなくて、飲んだこともなかったんです。開業当初、赤星は置いていませんでした。そしたら、ある日、地元のお客さんから『高円寺で店やるなら絶対に赤星入れた方がいいよ』と言われまして。

それで、私たちも初めて飲んでみたのですが、風味のバランスがとてもよくて、うちの料理に寄り添ってくれる。これは食中酒にぴったりだと思いました」(茉希子さん)

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

締めに選んだのは夏限定の冷やし豆乳担々麺。多種多様な野菜がたっぷりどっさり。花椒をはじめとする鮮烈なスパイス感と、豆乳のまろやかさが渾然一体となった複雑な旨味がクセになる。

赤江: この坦々麺も、なんとまあ、いろんな食感、いろんな味と香りが楽しめて、たまりません。これには赤星がピッタリでは?

(赤星をごくりとやって)はい、正解。マダムのおっしゃるとおり、赤星は最高の食中酒ですね。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

裕太郎さんは赤星を出し始めた時を振り返る。

「赤星を置くようになると、圧倒的に赤星が出るようになったのには驚きましたね。この辺の人たちはみんな赤星派のようですし、僕もすっかりファンになってしまいました。

閉店後、仕込みと掃除があるので帰宅は深夜になります。妻は先に帰るのですが、妻が帰った後、赤星を1本飲んでひと息つくのがルーティンになっています。そこでようやくスイッチをOFFにできるというか。毎晩の密かな楽しみですね」

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

「えっ! 知らなかった。必ず私がいなくなってから飲むというところがちょっと引っかかるけど(笑)、1日のご褒美、赤星を楽しみにこれからも頑張ってくださいね」(茉希子さん)

赤江: はははは。突然の新事実発覚(笑)。赤星は働き者のご主人にも、そっと寄り添ってくれていたんですね。9月のオープン1周年には、ぜひおふたりで乾杯してください。

本当においしいお料理の数々、季節ごとに味わいたいです。また絶対、必ず、何としても来ますね。

高円寺「Chinese 元yuan」未知なる美味と出会った団長的中華記念日

――ごちそうさまでした!
(2023年6月21日取材)

撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘア&メイク:上田友子
スタイリング:入江未悠
衣装協力:ブラウス(神戸レタス)
ワンピース(スモールカーサフライン/CASA FLINE表参道本店)
シューズ(Isn’t She?)

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