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団長が行く File No.29

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

「冨味屋」

公開日:

今回取材に訪れたお店

冨味屋

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あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の4代目団長・市川紗椰が、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。

■浅草に残る焼肉の路地

東京・浅草。下町情緒が色濃く残るこの街は、浅草寺の門前町、歓楽街、大衆演芸の聖地、多種多様なグルメの集積地などさまざまな顔を持ち、連日、国内外からの観光客でにぎわっている。

レトロな遊園地「浅草花やしき」の西側に、かつて日本で最も高い建築物であった12階建ての展望塔「凌雲閣」が1923年の関東大震災で倒壊するまでそびえていたエリアがある。つまり今からおよそ100年前までは、東京で、いや日本でいちばんイケてる人気スポットだったところなのだ。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

現在は細い路地が入り組み、巨大建築物があった面影はない。

ひさご通り商店街の中ほどからビューホテル側に抜ける狭い路地に足を踏み入れると、焼肉店が軒を連ねる不思議な光景に出くわす。戦後に発展し、最盛期には数十軒の韓国料理店があったというコリアンタウンの面影を感じられる一角だ。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

「浅草は、月イチくらいで来てるかな。アメリカ育ちのせいかしら、いかにも日本っぽい観光地ってワクワクして好きなんです。母が落語好きでよく寄席に連れて来られた影響もありますね。とにかく浅草は馴染み深くって、相撲を観戦した後とか、仕事が終わってごはんを食べて帰ろうという時には浅草で焼肉、となることが多いんです」

浅草の焼肉店の中でも特に人気の高いのが「冨味屋」。夜のみの営業で、席数が少なく、早い時間帯は予約で満席のことが多い同店を、団長はなかなか訪れずにいた。昨年、ようやく念願叶って来店すると、その衝撃的な美味さに圧倒されたという。

そしてなんと、我らがサッポロラガービール“赤星”もあるときた。かくして、赤星探偵団の長としての任務を全うすべく、あらためてやってきたというわけだ。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

さあ、まずはビールだ。キンキンに冷えた赤星がやってきた。

――いただきます!

市川: はー、おいしぃ。キミがいてくれたおかげで、また来れたよ。ありがとう。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

「好きな食べ物は?」という質問にはちょっと食い気味に「おニク!」と答える団長。肉系もホルモン系も大好物で、焼肉ではお店イチオシの部位をおすすめの順番で食べていくそうだ。この日は、同店の料理を一手に担うオーナーの高山勇男さんにすべてお任せすることにした。

■ため息がもれる絶品ホルモン

キムチをつまみに待つ団長のもとへ先陣を切って登場したのは、「ホルモン4種盛」。この日はシビレ(牛の胸腺)、ギアラ(牛の第四胃)、ミノ(牛の第一胃)、ホルモン(豚の大腸)が盛り込まれた。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

塩ダレで丁寧に下味を付けられたホルモンたちは、見るからに新鮮そのもの。角がピンッと立っていて、キラキラと輝いている。今回は特別に、高山さんに焼き方のお手本を見せてもらった。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

「どの部位を焼く時にも共通して言えることは、あまり頻繁に動かさないこと。一つの面は基本的に1回で仕上げていく方がいいですね。表面に脂がある部位は特に、焦げ目が付くくらいじっくり焼くと、旨味が中に閉じ込められ、かつ香ばしさも加わってより美味しくなります」(高山さん)

市川: がっつり焦げ目を付けるのって結構勇気がいって、自分ではなかなか攻められないんですよね。そこまで我慢するんですね。なるほど、カリッとして美味しそう!

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

では、ギアラからいただきます……ん゛~~、脂がじゅわっと甘い!

ミノも……サクサクと心地よい食感で、ああ、ミノってこんなに美味しいものだったんですね。

そしてこのシビレ、たまらないです。舌触りが滑らかで、レバーや白子のような深い味わいが広がって……思わずため息がもれそう。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

じつは、焼肉店では珍しく、ホルモンのみ豚というのが「冨味屋」流。これを目当てに通う常連客も多い。

市川: (ホルモンを一口でほおばって)うん、うん、うん~30秒経過~うん、うん、まだ旨味が続いている(遠い目)。なんて美味しいホルモンなんだろ。無限ホルモンだ。

そして、ビール。ホルモン&赤星は無限にループできる最強コンビです!

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

■一肉入魂の真剣勝負

絶品の塩ダレホルモンで胃袋のウォーミングアップを済ませたら、ここから肉系部位へ移行する。上ハラミのお出ましだ。

和牛の生肉を使った上ハラミは必ず押さえたい名物のひとつ。最高の状態で味わいたい団長は、高山さんに焼き方のコツを伝授してもらった。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

重要なポイントはたったの2点。

一. 肉をひっくり返すのは1回のみ
二.裏・表、9対1の割合で熱を加えるイメージ

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

「肉を焼いて美味しくなるのは、糖とアミノ酸が加熱によって結びついて褐変するメイラード反応のおかげ。この反応を起こすにはしっかり熱を加える必要があります。しかし、加熱し過ぎて肉の中心部が66度以上になると、今度はせっかくの旨味が詰まった肉汁が外に出て行ってしまいます。なので、表面はしっかり焼きつつも、中心部は40度以上66度以下で仕上げるが理想です。

とはいえ、中の状態は見えないので、温度を感知するのがむずかしい。そこで、あえて片面を集中的に加熱することで焼き過ぎを防ぎ、失敗なく仕上げることができるんです。具体的にいうと、表面に肉汁が浮いてくる一歩手前でひっくり返し、さっと炙る程度で火から下ろす。これがコツです」(高山さん)

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

市川: これはいいことを聞きました。みんながよろこぶ、ウザくない方向のグルメ知識です。焼き肉道のステージがひとつ上がった気がします(笑)

高山さんの教えを忠実に守り、一肉入魂の思いで焼いた上ハラミを味わう。

市川:あーー、おいひー。歯が当たるたびに繊維がほどけていくような食感もいいし、噛めば噛むほど脂と肉汁がじゅわっとあふれ出して……タレの味もスッキリさわやかで切れがいい……ふぅ、もうまいったなあ。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

「冨味屋」は高山さんのおばあさんが1960年に開いた店だ。高山さんは学校卒業後、日本料理店で板前として腕を磨いていたが、高齢になったおばあさんをサポートすべく、23年前に「冨味屋」の調理場に入った。以来、伝統の味を受け継ぎつつ、さらなる改良に余念がない。

チャンジャと韓国海苔以外すべての料理が自家製。ビビンパ用のひき肉だって、焼肉用のロース肉を切り出した周りの部分を包丁で手切りして作っている。焼き肉のベースとなるタレも、リンゴやショウガ、みりんなどを使って、化学調味料ゼロで手作りしている。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

市川: 焼肉って不思議な食べ物ですよね。料理人が手塩にかけて育てた素材たちが、しばしロースターの上で過ごし、さらに美味しくなって巣立っていく。まるで学校みたいです。

(上ハラミの焼き加減をじっくり見極めて最終の仕上げ)はい、卒業おめでとう! 美味しいよ、よくぞここまで成長したね。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

■秘めたる才能を開花させよ

本日の希少部位メンバーから、団長のもとへ新たな逸材、マキロースが選抜された。

マキロースとは、リブロースの芯の周りに巻きついている部位のことで、潜在能力が非常に高い、育ちのいい子だ。団長はさっそくマキロースをロースター高校に入学させた。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

市川: 高山さん、先ほどおいしい焼き方を教えていただきましたが、逆にプロの目から見て、それはやめてっていう“ダメな焼き方あるある”を教えてください。例えば、私が気になるのは、肉を上から押さえつける人。

「はい、それは禁じ手のひとつですね。せっかくの肉汁が外に逃げてしまいますし、食感も悪くなってしまいます。それから、無意味に何度もひっくり返すのは論外ですが、肉を網の上でスライドさせるのもダメです。網との接地面がずれると火の入り方が不安定になってしまいます」(高山さん)

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

市川: あーー、スライドも気になっていました。「えっ? いま何のためにスライドさせたの?」って。やっぱり押さえつけちゃいけないし、干渉し過ぎない方がいいんですね。わかりました、私のロースター高校では放任主義を貫きます(笑)

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

新たな生徒がめでたく卒業の時を迎えた。立派に成長し、キラキラと輝くマキロースをパクリ。

市川: (箸を静かに置いて、拍手)最高です。脂が甘くて、全体が溶けていく感じ。タレの酸味が効いていて、脂も全然くどくないの。最高。

上ハラミが、ぐわっと力強く広がるような旨味なのに対して、マキロースはスーッと奥深くまで旨味が浸透していく感じ。とても上品な旨味。マキロース君にもう一度拍手を送ります。

「焼きたては内部で肉汁が暴れまくっているような状態ですから、火から外してちょっと休ませてから食べると、より穏やかで繊細な味わいになりますよ」(高山さん)

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

市川: 思春期特有の内なる葛藤ってありますからね、やっぱりそれは落ち着かせてからの方が……って、高校ネタ押し、しつこいですね(笑)

■ようやく叶えられた願い

ほどよくお腹が膨らんだら、〆は石焼ビビンパで決まりだろう。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

「冨味屋」のそれは、石焼鍋を使ってかなり入念に火を入れる。一般的な石焼ビビンパのように、底の方におこげもあるというレベルではなく、全体の8割くらいがおこげの感じだ。

ごま油をひいた石焼鍋をコンロに掛け、まずはごはんだけをしっかり熱して下地をつくる。おこげの出来具合を確認したら、そこにモヤシや小松菜、ゼンマイのナムル、白菜キムチ、ひき肉のあん、生卵やコチュジャンなどを手早くトッピングし、ジュージュー音を立てながらロースターの上に運ばれる。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

卵を崩し、具材を軽く混ぜ合せる。おお!と歓声が上がった瞬間、一気に天地返し。客はそこで芸術的なおこげを目の当にする。具材と一緒にしっかりかき混ぜると、お米がパリパリ香ばしいリゾットのような状態に。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

市川: んん~、美味しい! 何というか、常々「もっとおこげを!」と感じていた不満が、今まさに、一気に解消された気がします。

石焼鍋のなかで、一つひとつ丁寧に作られた具材が見事に調和していて、もう、これは文句なく、マイベスト石焼ビビンパです。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

今日は高山さんに付きっきりで指導していただいたおかげで、焼き肉の奥深さを知ることができました。こうなったら「冨味屋」さんで全部位を制覇しなければ!

絶対にまた来ますね。

浅草「冨味屋」絶品ロースター焼肉で一肉入魂の巻

――ごちそうさまでした!

撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘア&メイク:吉川陽子
スタイリング:安藤真由美
ワンピース¥38,000/CASA FLINE表参道本店(03-6447-5758)

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