大竹聡の「赤星★100軒マラソン」
かねまん 大井店

公開日:2018/11/02 < 第41給水ポイント >

大井町で「炊きたての白飯」が欲しくなった夜

白い暖簾がかかった間口はさして広くはないが、格子になっている木枠のガラス扉がたいそう渋いです。

バス通りに面した外観は、遠目にはビルの1階風ではあるけれど、そこにぐっと寄ると、昔ながらの一軒屋に見えてくる。

昨今、こういう構えの店も減ったよなあ――。

と鷹揚に構えて眺めていたのではありません。これは、小走りしながらちらりと見た瞬時の感想でありまして、なぜこのとき小走りであったかというと、私は、約束の時間に10分以上も遅れていたからなのでした。

大井町にたくさんの飲み屋さんがあることは知っているが、なかなか立ち寄るチャンスがない。大井競馬の帰りだと、京急立会川方面で飲むか、モノレールで浜松町へ戻ってしまうことが多く、りんかい線開通以来、渋谷新宿方面とのアクセスも格段によくなっているのに、まだ、大井町をよく知らない。

まあ、あり体に言いまして、わたくしが田舎者だってことに尽きるわけですが、それにしても、取材なのに遅れるなよなと自分に言いたくなるほど、時間の読みが外れてしまった。

それはともかく、訪ねましたのは「かねまん」さん。ふぐ、うなぎ、串料理の店で、私は初めてこの店の暖簾をくぐるのです。

■老舗の支店もいまや老舗

ご主人夫婦のにこやかな笑顔に迎えられ、小上りに陣取れば、ああ、なんという居心地の良さだろう。

さっそく頼むビールは言わずとしれた「赤星」。酒肴を選ぶのも後回しにして、いささか前のめり気味に1杯目を注ぐ。

ぷはぁ~。小走りの後のビールはうまいね。

なんて、バカなことを思うわけですけれども、このときになって品書きを見渡せば、まあ、なんとも品数の多いこと。びっくりしましたね。

何を頼めばいいのか、初めての客には見当もつきかねますが、ご主人の中田周治さんにいろいろ伺いつつ、まずは手はじめに、ムネタタキの酢だれ、というのをいただくことにしました。

私は存じ上げませんでしたが、こちらのお店、正式には「かねまん 大井店」という。そう、本店が別にあるわけなのですが、それがなんと明治13年創業の人形町の老舗「かねまん」。

なんでも日本橋魚河岸(豊洲の前の築地のそのまた前の市場ですな)で屋台営業をしていた初代が日本橋人形町に店を開いたとのことで、なんと、東京で、ふぐ料理の認可を受けたのは、この店が最初だったということです。

日本橋人形町には、牛鍋やら軍鶏料理やらとにかく老舗が多ございますが、「かねまん」はその代表格です。そして、そちらの支店がこちらの大井店ということなのです。

「大井の店ももう65年になります。もともとは親戚筋が、うなぎとふぐの店としてはじめたのですが、先代もご高齢になり、私が跡を継いで8年目です。私は本家の次男坊でして、人形町の方は今、兄が切り盛りしています」

今年41歳の中田さんはさらりと言うわけですが、ひと口に65年といいましても、不肖、私メが55歳でありますから、ちょうど10歳先輩ということになる。昭和28年からやっているわけですよ。

暖簾をくぐっただけで、ふわりと包み込むようであった独特の空気は、その長い年月が生み出すものなのかもしれません。

■この店、実は肉もうまい

さて、1品目がきました。鶏のムネ肉のタタキ。実に分厚く、気前のいい風情でもって、皿にデンと構えている。見るからにうまそうなんですな。いい眺めだ。

こういうひと皿というのは、なかなか巡りあわないものですよ。素朴で、どこにでもありそうな素振りをしていますが、なんというか、実があるというか、見てくれだけじゃない。

口に運んでみて、ほうら思ったとおりじゃねえかと、誰にともなく威張りたくなった。

それくらいに、見てくれじゃない。大人しそうに見えてしっかり一本スジが通っている。刻んだ小葱の歯ごたえと、酸っぱすぎず、ほどよく丸い酸味が、ムネ肉に合う。

と、ここで気づくのは、ふぐ、うなぎ、それからスッポン料理などが看板であるこの店の、肉がうまいということなんですな。

伺いましたら、芝浦の加工センターが近いから、豚肉なども実に新鮮なのが手に入るということで、ハラミ、タン、レバーにカシラなどなど、私の好きなやきとんの串に定評があるという。

そういや、酒にしたって、サッポロラガービールがあるのはまずもってありがたいこととしても、日本酒も銘酒があるし、焼酎は一升瓶で注文できるようだ。

近くのテーブルで早い時刻から飲み始めた常連のお客さんは、キープの一升瓶から好みの量をご自分のタンブラーに注ぎ、ウーロン茶で割ってビシビシと勢いよく飲んでいらっしゃる。いいねえ、いいねえ。

さあて、お次は魚、いってみましょうか。

頼みましたのはサンマのワタ焼き。イカのワタ焼きみたいなのを想像しておりましたら、違いましたね。そうして、食べてみて、ああ、これは抜群だと、今度は誰かに電話をかけたくなった。

ワタを酒、味醂、醤油などで溶いて伸ばしているようで、それを塗ってるんですな。塗ってから焼くのか、塗りつつ焼くのか、などとあれこれ詮索したくなるのは、これ、自宅にてトライしてみたい、などと不届きなことを思うが故です。

ワタの苦味は不思議なほど感じられない。ほんのりとワタの風味があって、それが、サンマにうま~く絡んでいる。それでもって表面がこんがり焼けているわけですからね。これはうまいよ。うまいと感じさせる香り、丸み、香ばしさ、食感、全部がそろっている。

ますますビールが進むわけですが、引き続き登場しました、うなぎの短尺焼き。これにまたもや、やられてしまいました。

短い尺ということで、どんな形なのかと思っていると、おお、まさに短尺。まあその、蒲焼の小さいのが2本の串に刺してある。

うまいんですよ!これが。普通に蒲焼を頼むんだったなと、即座に後悔しました。短尺で軽いおつまみに、なんてことを思っていたのですが、いやいや、こちらのうなぎ、脂の乗りもタレの味わいも、香ばしさも、ふわりとした焼き加減も、申し分ないのです。

私は酒を飲むときにはあまりものを喰いませんが、そんな私が、短尺ではなく、フルサイズでいただくべきだったと臍をかむ。そういう感じでございますから、この舌足らずな文章もなにぶん大目に見ていただきたい。

まあ、勝手を言っておりますが、なにしろ、何を喰ってもうまい、という確信を得まして、少食の呑兵衛もいささか興奮気味、はしゃぎ気味なのです。

同行の編集Hさんから分けてもらったポテトサラダまで抜群ですから、日頃なら日本酒なり焼酎なりにかえて、つまみのほうをセーブするタイミングにきているのに、まだまだ味わいたい。

■間違いない味が、ここにはある

本店の味を受け継ぐフグもスッポンも、もちろん予約が必要で、本日はその準備がないからどうにもならないわけですが、年内は休まず元旦まで営業を通すなどという話を聞いては、年末の宴のあれこれの相談もしたくなる。

普段は使っていない2階には、宴会にも対応できる座敷があるということなので、気持ちが動きます。フグのコースで豪華な年納めとか、スッポンで元気一杯の新年を、なんて声をかけたら、ああ、それ乗った!と手を上げる何人かの顔が浮かんできたりもします。

そんな妄想から我にかえると、店はすでに超満員で、大変な賑わいになっている。

さて、お次に頼みましたのは、当店自信のポン酢で食べる、牛ハラミのおろしポン酢。ハラミという旨みの濃いところを、あえてさっぱりとおろしポン酢でやる趣向です。

聞けば、前日にポン酢を仕込んだばかりなのでフレッシュなところを是非に、とのこと。フグの名店のポン酢ですよ、うまくないわけがない。

薄切りの鶏なんかだとさっぱりしすぎますが、こちらの一品は、こってりしっかり、ハラミ自体に力があるから、ポン酢と合わせてもインパクトが強い。

ああ、炊きたての白飯に乗っけて掻き込んでみたい……。

酒を飲む席であまり喰わない私がどんぶり飯を空想するのですから、自分でもちょっと驚くわけですが、そこへ追加できた一皿がまたいい。

レバニラ炒めです。しかも、レバーは焼きすぎない按配のいいミディアムレア。角がピンと立つほど新鮮な、この日仕入れたばかりのレバーを大ぶりにカットして、惜しみなく使う。

ああ、炊きたての白飯にのっけて掻き込んでみたい……。脳内コピペ状態。

そうなんだ! うまいレバニラ炒めってものは、こういうものなのだ。私のくたびれた大脳皮質は活性化され、どんぶり飯のお代わりができた時代の初々しい記憶が飛び出してきた。

言わずもがな、ですがね。ビールとの相性は一点のケチのつけようもないですよ。

そろそろお暇しようかと思っていると、お隣のテーブルにすっぽん鍋がやってきた。なんでもこちらのすっぽんは珍しい水炊きスタイルで、自慢のポン酢でいただくのだという。生き血が多くとれたそうで、幸運にもご相伴に与ることができましたよ。

昔懐かしい味とか昭和レトロとか、いろいろ言う人がいらっしゃいますけどね、平成も終わろうという今、実のある、間違いない味があるんです。若い店主夫妻とあったかい常連さんたちが、それを守っていらっしゃる。

いいねえ、いいねえ。こういう店は、たまんねえや。

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

店舗情報

かねまん 大井店

[住所] 東京都品川区大井4-17-19

[TEL] 03-3771-4221

[URL] https://tabelog.com/tokyo/A1315/A131501/13053921/

[営業時間]

18:00~24:00

定休日:月曜日

サッポロラガー大瓶750円、日本酒480円~、焼酎600円、サワー類400円、ホッピーセット(白・黒)500円、ひれ酒880円・次酒480円
うな重3000円、うなぎ肝焼き串350円、うなぎ短尺串480円、やきとん・やきとり各120円、黒毛和牛のたたき880円、ハラミ卸しポン酢680円、鳥わさ580円、ムネタタキ酢だれ580円、メンチカツ400円、八丁みそ煮込み480円、すっぽん(一人前・要予約)6800円

【プロフィール】

大竹聡 (おおたけ・さとし)
1963年東京都生まれ。 早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告会社、編集プロダクション勤務を経てフリー。伝説のミニコミ誌『酒とつまみ』創刊編集長。著書に『中央線で行く 東京横断ホッピーマラソン』『下町酒場ぶらりぶらり』『大竹聡の酔人伝』『愛と追憶のレモンサワー』など。最新刊『最高の日本酒 関東厳選ちどりあし酒蔵めぐり』が好評発売中!

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おかんが食べさせてくれたお子様ランチの味で気絶するなら「鳥竹 総本店」のチキンライス

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最後は自分で……混ぜて完成させるポテサラ

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カモフラの軍パンと「焼肉ケニヤ」のミックス特製スパイスホルモン

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中野「らんまん」旬の肴で春を愛でた夜

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バラクータG9と「市民酒蔵 諸星」の煮込み

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アディダスのスタンスミスと「やきとり戎 西荻窪南口店」のやきとり

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ブラックスーツと「工藤軒」の牛2.5.3

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白と赤のコントラストが美しい異色のポテサラ

酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧・・・

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U.S.ARMYのM65フィールドジャケットライナーと「斎藤酒場」の串かつ

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クラークスのデザートブーツと「大将2号店」の焼き鳥

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ジャガイモとサツマイモを使った“二刀流”ポテサラ

酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧・・・

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シェトランドセーターと「若月」の焼きそば

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U.S.NAVYのステンカラーコートと「大衆酒場 増やま」の紅しょうがのかき揚げ

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ガンジーセーターと「まるや 恵比寿横丁店」の 味噌ダレのやきとん

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「育ちのいいラッパー」がいる一家団欒ポテサラ

酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧・・・

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グレイフランネルのスリーピースと「藤田酒店」の さんま蒲焼の缶詰

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ハッピージャケットと「かとりや」のシロタレ

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白いカシミアのタートルと「白いバラ」のカツサンド

ポテサラ酒場

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いもに秘密あり!インスタジェニックなポテサラ

酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧・・・

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自由が丘「金田」で今宵、“酒学校”の生徒になる

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黒いカシミアのタートルと「磯野家」のカキフライ&かきめし

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グローバーオールのダッフルコートと「グリルエフ」のハヤシライス

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バーバリーのステンカラーコートと「酒処 よしの」の赤いウィンナー

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ポテサラ酒場

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パクチーとナンプラー香るオリエンタルなポテサラ

酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧・・・

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浅草「大多福」出汁の香りに包まれる”口福”な時間

なぜアノ居酒屋は時代を超えて愛されるの? お客さんが笑顔で出てくるの・・・

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ラコステのロングスリーブポロシャツと「平澤かまぼこ 王子駅前店」のおでん

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食感と味に仕掛けあり!食べ飽きないポテサラ

酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧・・・

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ブルックス ブラザーズのBDシャツと「とよかつ」のまくら

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森下「山利喜」は和洋ハイブリットの煮込みで決まり

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親父の「旨い!」がヒントになった名物ポテサラ

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シャンブレーシャツと「福ちゃん」の焼きそば

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軍パンと「大衆割烹 味とめ」のうなぎ串焼き

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コクが際立つ絶妙の味付け 渋谷「松濤はろう」

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吉祥寺「いせや」では煙までもが“アテ”になる

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暑くてもコットンスーツをさらっと着こなす男でいたい。それがダンディ・・・

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ストライプのグレースーツと「藤八」の自家製腸詰め

ビシッと横分けのヘアで着こなしたいのはグレースーツ。クラシックなス・・・

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