尾野真千子の「一人ですけど、いいですか?」
酒肴 哲

赤星★捜査ファイル#11

難波「酒肴 哲」路地裏で出合った至高のおでん

あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんが笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団2代目団長・尾野真千子が、名酒場の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探る――。

■赤星を探して大阪めぐり

関西で生まれ育った血がそうさせるのだろうか。大阪の街を行く団長はいつにも増して足取り軽く、目はきらきらと輝いている。

この日向かったのは難波駅の東側、大小の居酒屋が立ち並ぶ通称“ウラなんば”と呼ばれるエリア。いま大阪で最も元気な夜の街のひとつとして人気を集めている場所だ。

賑やかな千日前から少しはずれると、街は途端に大人の雰囲気を帯びていった。そんなウラなんばの東端、堺筋にほど近い路地裏に、「おでん」と書かれた赤ちょうちんが控えめに灯る小さな店がある。カウンター8席のみの「酒肴 哲」だ。

折しも、雨続きだった夏が最後に意地を見せたかのような強烈な暑さとなった晩夏の夕方。こんな日にこそ、おでんを肴に、そしてキンキンに冷えたビールで涼をとるのもオツなもの。団長は颯爽と暖簾をくぐった。

尾野: こんばんは~。ああ~涼しい。すっきりとした素敵なお店ですね。

「ありがとうございます」とやさしい笑顔で答えるのは、店主の松村哲弥さん。料理を一手に担っている。

尾野: なにはともあれビールです! 冷たいの、お願いします!

やってきたのはもちろん、サッポロラガービール「赤星」だ。

団長の瓶ビールの手酌も堂に入ったもの。コポコポ注いで、ひと呼吸おき、グラスをぐっと傾けるまでの一連の動きに無駄がない。

尾野: く~~、(グラスに少し残ったビールを見て)おいしい!(松村さんを見て)おいしい!

■おでんの脇を固める酒肴たち

尾野: 大阪でも赤星が飲めてしあわせだなあ。ところで、どうして赤星なんですか? 大阪で赤星を置いてる店はそんなに多くはないですよね。

「第一の理由は、単純に自分が飲んでおいしいと思ったからです。それから、うちで出したい料理によく合うということが一番の決め手ですね。料理の味を引き立ててくれるし、いろいろなビールを試しましたが、うちの料理と一緒なら赤星がいちばんおいしく飲めるビールだと思いまして」(松村さん)

尾野: へ~、そうなんですね。赤星を選んでいるお店では、みなさん料理との相性がいいとおっしゃいます。お出汁とか素材の味を大切にされて丁寧にお料理しているお店の方が特に。なんだかお料理が楽しみになってきた! こちらはおでんのお店ですよね。

「ええ、おでんは年中やっていまして、『おでんを中心にした居酒屋』というスタンスですね。季節のものもいろいろ用意していますので、おでんの前に何か召し上がりませんか」

そう松村さんが手渡した手書きのこの日のメニューには、海山の旬の素材を使ったバラエティ豊かな料理名が並んでいる。

鯖のきずし(〆鯖)や鱧のべっ甲漬け、自家製ローストビーフといった冷製の肴もあれば、アオリイカの一夜干し、海老ととうもろこしのかき揚げといった焼き物・揚げ物、鶏味噌添えのエシャロットやトマトのおひたしなど魅惑的な野菜のおつまみまで充実している。

尾野: わーーどうしよう、目移りして決められない……。まずお造りをいただきたいので、鯛のこぶ〆。それから、これは外せないでしょ、稚鮎の丸干しもお願いします。

それと……どて焼きが名物なの? じゃあ、それも(笑)。第一弾オーダー完了!

■手間ひまと独自の工夫が味のヒミツ

最初にやってきたのは鯛のこぶ〆。食感を愉しむために厚みを残した拍子木切りの鯛にキャベツの甘酢漬けがたっぷり添えられている一風変わったスタイルだ。

「うちの料理は〆たり、漬けたり、和えたり、煮込んだり、すべてそのまま召し上がっていただけるように調味しています。鯛のこぶ〆も、お醤油をつけず、そのまま味わっていただいて、お好みでキャベツの甘酢漬けを薬味として合わせてみてください」(松村さん)

尾野: (ひと口食べて)おいしい~! 昆布のいい香り。キャベツの甘酢漬けと一緒だとまた味がいっそう深くなって……ビールともよく合う。

おーー、稚鮎がきました。頭からいっちゃいますよ。……はふ、ほっ、わ、やっべー! ごめんなさい、つい。ちょっとはしたなかったですね(笑)。

尾野: この、ワタの苦味が最高。いくらでもいけるヤツだ。この稚鮎の丸干しは、自家製なんですか?

「ええ。生の鮎に塩をして、陰干ししたあと、冷蔵庫でさらに脱水して仕上げています。今は鮎ですが、秋から冬にかけては秋刀魚でやるかもしれません。旬の魚のまた違った一面を味わってほしいんです」(松村さん)

尾野: アルミホイルを使って焼きむらができないようにしたり、時々霧吹きで日本酒をかけたり、とっても丁寧に焼いていらっしゃるのを楽しく見ていましたよ。ホントに絶品。ほら、もう6尾全部食べちゃった(笑)。

名物のどて焼きは、一般的にはグラタンやクレームブリュレなどに使われる鋳物の容器、ココットでぐつぐつと熱せられて登場した。

松村さんは「別にオシャレ感を演出したいわけじゃなくて、コンロの問題を解決するための苦肉の策でこうなりまして」と照れ笑い。熱々をひと口ほおばった団長は目を丸くしている。

尾野: やさしいお味。角が一切なくて……今まで食べたどて焼きの中でいちばん上品かも。不思議だなあ、とっても上品なんだけど、どて焼きのB級的なおいしさがちゃんと詰まってるの。

尾野: なるほどね、白味噌と大阪の桜味噌を独自にブレンドしていて……すみません、ちょっとご主人、お料理一つひとつのヒミツ、とっても気になるんですけど、このペースだとおでんにたどり着けそうな気がしない(笑)。

この辺で、おでん、お願いします!

■驚きと感動のおでん体験

「酒肴 哲」のおでんは、毎日丁寧にひいた鰹と昆布の和出汁に鶏ガラスープを合わせ、味付けは最小限の塩と砂糖、色付け程度の薄口醤油のみで仕上げている。

大根、豆腐、こんにゃく、玉子、たこ、練り物などの定番に加え、鯨のさえずり(舌)、牛すじなどの動物性のタネが入るのは大阪らしい。

実は練り物は一種類のみ。というのも、他店には見ないようなおでん種がめじろ押しだから、練り物を各種用意したところでどうしても影が薄くなってしまうのだとか。

では、どんな変わりダネおでんがあるのだろう? とある晩夏のラインナップは次のとおり。

鱧、はまぐり、もずく、和牛ほほ肉、豚肩ロース、ベーコン、豆苗、夏ごぼう、湯葉、春雨……うっかり練り物を後回しにしてしまうのも頷ける。これらは一品ずつ小鍋での最後の仕上げを経て提供される。

どれにしようかなあ、と大きなおでん鍋をジーっと見つめる団長に、「まずはお出汁だけ召し上がってみますか?」と松村さん。澄み渡る出汁を小鉢でもらい、ひと口飲んだ団長は「は~~」と深いため息をつく。

尾野: 鰹と昆布のいい香り。旨味がじんわり体にしみこんでいくようです。でも後味がすっきりしているから、またすぐ飲みたくなっちゃう。(また出汁をゴクリとやって)なんかクセになるの、コレ。(ビールをぐびりとやって)そんで、おつまみにもなる!(笑)

「そういうお声はよく聞きまして、お出汁をたっぷり吸いこんだ大根を少しずつ崩しながらアテにする方も多いんですよ」(松村さん)

出汁の旨みを堪能できる「酒肴 哲」のおでんの真骨頂は、なんといっても大根だろう。1本の大根から3つ分しか取れないという特大サイズ。出汁で数分炊いては火を止めて自然に常温まで冷ますという作業をひたすら繰り返し、完成までに計3~4日間をかけるという。

尾野: (大根に箸を入れて)おおーー、やわらかーー。やわらかいのに、しっかりしてる。中心までしっかりお出汁がしゅんでて(しみ込んでいて)……どれどれ、んーー!(以下無言)

熱々の大根を続けざまにほおばっては食べ、あっという間にたいらげた。「はー」と一息ついた団長はなぜか涙目だ。熱さのせいか、おいし過ぎたのか、はたまたその両方か。このうまさ、推して知るべし。

撮影終了後にも団長のココロに灯った炎は簡単には消えない。未知のおいしさを求め、次から次へと注文し、味わうごとに唸り声をあげていた。以下、写真にはないが、団長の素直な感想をダイジェストで紹介しよう。

【夏ごぼう】 まさか「おでん=塊」のイメージを裏切るささがきの状態で出てくるなんて。お出汁とごぼうのシャキシャキがたまらない。すだちをちょい搾って、あ~さらに幸せ。

【はまぐり】 は~~。ため息が出るほど、お出汁が「THEはまぐり」。私、はまぐりが大好きでよく食べるんだけど、やっぱりおでんが最高かも。

【ベーコン(クリームチーズ添え)】 文句なくおいしい! ベーコンと和のお出汁、そしてクリームチーズがこんなに合うなんてびっくり。おじさんと若い女の子に人気って話だけど、間違いなくみんな大好きなマリアージュやわ。

【いわしのつみれ】 なんだこれ、いわし感ハンパない! この粗いハンバーグみたいな感じに仕上げるの、見てましたよ。まず、いわしの身を粗い細切りにして、それを丸めて何度か握りつぶして……松村さん、独創的すぎるやろ。

松村さんは昔からとにかく出汁を使った料理が好きで、プライベートの食事もつい鍋物ばかり作ってしまうという、三度の飯より出汁が好きという変わり者。大好きなお酒と出汁とのマリアージュを楽しめる店を作るのが念願だったとのことで、和食やラーメンなど出汁が重要なさまざまなジャンルの飲食店で修業をし、7年前に満を持して開業したのが、一年中絶品おでんを味わえる当店なのだ。

尾野: 厨房の様子をずっと見てたんですけど、注文の度におでんを小鍋で仕上げて、小鍋に残ったお出汁は大きなおでん鍋に入れらていますよね。ってことは、おでん鍋のお出汁はどんどんいろんな味が加わってさらにおいしくなってるはず!

そうすると、遅い時間に来たほうがおいしいおでんをいただけるのかしら? でも、あんまり遅いと売り切れちゃうわよね? どうしたらいいの? いやーん、とにかく、寒くなったら絶対にまた来ます。

――ごちそうさまでした!

撮影: 峯 竜也
構成: 渡辺 高
ヘアメイク: 石田あゆみ
スタイリスト: もりやゆり
衣装協力/RITSUKO SHIRAHAMA、ANNC、trim
RITSUKO SHIRAHAMA、ANNCの問い合わせ先/ラタン7(03-6419-7871)

店舗情報

酒肴 哲

[住所] 大阪市中央区日本橋2-7-27

[TEL] 06-6633-3899

[URL] https://tabelog.com/osaka/A2701/A270202/27050565/

[営業時間]

18:00~24:00

定休日:水曜日

サッポロラガー中瓶600円、生ビール(中)600円(小)350円、お酒(一合)500、地酒各種(一合)750円~、焼酎各種400円~、グラスワイン700円。

おでん各種200円~、どて焼き750円、鯛のこぶじめ1350円、あおりいかの一夜干し1000円、牡蠣フライタルタルソース1200円、トマトのおひたし600円、ポテトサラダ500円、だし茶漬け600円、ブタカタラーメン1000円。※季節もののメニューと価格は変わります。

【プロフィール】

尾野真千子(おの・まちこ)
1981年、奈良県生まれ。中学生のころ河瀬直美監督に見出され、1997年『萌の朱雀』で主演デビュー。同作品は第50回カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞し、自身も第10回シンガポール国際映画祭主演女優賞を受賞した。2007年、再び河瀬監督とタッグを組んだ『殯の森』がカンヌ国際映画祭グランプリに。2009年にはヒロインを演じたテレビドラマ『火の魚』で第36回放送文化基金演技賞、2011~12年にはNHK連続テレビ小説『カーネーション』では、東京ドラマアウォード2012主演女優賞など数々の個人賞を受賞。その後も数々の映画・ドラマに出演し、日本を代表する女優として活躍中。最新主演映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が9月23日より全国ロードショー中。

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