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団長が行く

現代ビジネス

団長が行く File No.82

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

「魚貝ののぶ」

公開日:

今回取材に訪れたお店

魚貝ののぶ

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あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の6代目団長・赤江珠緒さんが、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。

魚にこだわりアリ

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

JR中央線の高円寺駅。古着屋や雑貨屋が多く、ごちゃごちゃ混沌とした雰囲気から“日本のインド”と呼ばれてきたた街だ。

南口ロータリーから細道をまっすぐ南下すると、すぐに本日の店が見えてくる。古材があしらわれた味のある外装と紅白の暖簾がスポットライトで暖かく浮かび上がる。「魚貝ののぶ」だ。「魚貝の のぶ」ではなく、あえて一拍置くなら「魚貝 ののぶ」である。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

赤江: おじゃまします〜。雰囲気のあるお店ですね。柱とか梁とか古材を再利用しているんですか。
オープンは2016年? いやぁ、もう何十年もされているような風格があります。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

店を営むのは土田宣隆さん。一風変わった店名は、お名前の“のぶたか”さんから取ったそうだ。

「のぶ、だけだと、よくある屋号だし、電話とかでちょっと言いづらそうに思いまして、もう一つ『の』をつけました」

一見コワモテのように見えるかもしれないが、とても気さくで温和な方だ。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

赤江: さあ、土田さん、赤江はハラペコで参りました。まずは赤星、サッポロラガービールをお願いします!

キンキンに冷えた中瓶に、ほどよいサイズのグラス。いつもの手酌でトクトクトク、と。

ーーいただきます!

赤江: ぷわーーーーー! 先日まで暑い夏でしたが、ようやく秋めいてまいりました。
寒くなりゆくこの季節にキュッとやる赤星もまた、格別の味わいですなあ。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

「魚貝ののぶ」は、その名の通り、魚を主体にした店である。
お通しには貝が出るのが常で、この日は定番のホッキ貝、そして百合根の茶碗蒸しだ。

赤江: ああぁ、青海苔がたっぷりとのったホッキ貝さん、あなたは最高のお通しですぞ。さあ他の魚もたんまりいただきますぜと、テンションを上げてくれます。
それに、この茶碗蒸しがいいお出汁で、おいしいことよ。サイズも絶妙で。そうですか、今年も百合根の季節がやってきましたか。もうすぐ冬ですねえ。季節感、ありがとうございます。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

魚のお店とあっては、これを避けては通れまい。お刺身を見繕ってもらった。一人前の盛り合わせにはなんと9種の魚が盛り込まれるとのこと。あまり見られない陣形の刺盛りが、にぎにぎしく登場した。

赤江: 九谷焼のお皿に盛られてきれいですこと。こちらは竜宮城ですかい?
選ばれし9名の者たち、キミたちは誰かね?

土田さんが説明してくれる。明石のタイ、小肌の酢締め、北海道の魚である八角、アジ、カツオ、スモークしたサワラ、本マグロを有明海苔で巻いた海苔巻き、中トロ、軽く酢締めして炙ったカマスという001から009の精鋭たちである。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

赤江: 故郷の味、明石のタイからいただきましたが、夢中でペロリと一周してしまいました。もう2周はいけます(笑)
いやーー、お魚をウリにされているだけの、さすがのお味です。仕入れは豊洲ですか? えっ、毎朝自分でいかれている!?

「市場が大好きなんですよ。この店も市場に通いたくて始めたようなもんなんです。20代後半から当時は築地でしたが市場通いにハマってしまいました。でも、人の店に勤めていましたから、買いたい物を買えるわけではなく。自分の店なら買いたい魚を買えるじゃないですか。そのお刺身も、全部僕が市場で食べたいと思った魚です(笑)」

赤江: それは間違いない! どおりでおいしいわけだ。

 

出汁が染み渡る

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

白子の天ぷらがやってきた。土田さん曰く、この数日で急激にモノが良くなり、本日の白子は最高とのお墨付きだ。

赤江: ほっ、はっ(少し熱さと格闘し)これはまさにサイコーでございます。なんという滑らかさ。クリーミィマミでございます。

説明しよう。クリーミィマミとは、赤江団長が小学生時代に観ていたTVアニメ「魔法の天使クリーミィマミ」のことである。土田さんは、赤江団長の1つ年上。同世代だったのでポカンとされずに済んだ。

アツアツの白子天をほおばり、冷えた赤星をすかさずグビリ。
そのうまさは破壊的。最狂の赤白コンビだ。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

土田さんは埼玉県出身。高校卒業後、ホテルに就職し料理の道を歩み始めた。「フライパンをカッコよく振れるようになりたい」くらいの軽い気持ちだったそうだが、料理の世界の魅力に次第に引き込まれ、特に魚への興味が高まっていった。

「ホテルの料飲部門や伝統的な日本料理店では、当時は魚なんてなかなか触らせてもらえず、何年目かにようやく頭を落とさせもらったり、エラ取っていいと許されるような感じ。出汁を引かせてもらうには10年やそこらは軽くかかる世界です。自分は5年目でようやく前日に昆布を水に浸けておけと言ってもらえたような感じでしたね(笑)」

土田さんは魚に特化した技術を深めるべく、日本やドイツなどの日本料理や居酒屋で修業を重ねた。市場通いを続けながら魚の扱いに磨きをかけ、満を持して独立開業させたのが当店なのだ。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

「歳をとってくると、出汁が沁みますよね。出汁を味わいながら飲むのが最高」という土田さんとの雑談で、「おっとコレもいかねば!」と追加注文したのが、季節到来、土瓶蒸しだ。

赤江: (出汁をひと口飲んで)はあ〜〜、これなのよ、旨みがすーーっと胃に沁み渡っていくのよ。
ちょいと赤星をはさんでリセットしまして、今度はスダチをちょい搾りまして、またいただきます。
はあ〜〜、これなのよ、つま先まで沁み渡っていくのよ。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

この日の土瓶蒸しの具材は松茸とハモ、白子だ。松茸はリーズナブルながら風味のよい中国雲南省産をたっぷりと。淡路島のハモ、天ぷらと同じ極上白子も惜しみなく入れられた。

赤江: 主役級の食材たちが、こんなところに押し込められて裏方の仕事をしてくれていましたよ。なんちゅう贅沢なお料理なんでしょうね、土瓶蒸しって(笑)
これまた秋から冬へと変わりゆく季節を堪能させていただきました。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

揚げ物をもう一品。当店の名物の一つ、甘鯛のカリカリうろこ揚げだ。あえてウロコ付きで、松ぼっくりに見立てて揚げる松笠揚げとしても知られる和食定番の料理だ。

赤江団長はシャリシャリと小気味いい音を立てながらウットリと味わっている。

赤江: 身はホクホクと上品な旨み。香ばしいウロコがアクセントになってなんとも言えない豊かな風味が口に広がります。

「甘鯛って本当においしい魚ですよね。正直、市場でも結構値が張る魚なんですが、僕は甘鯛のおいしさをみんなに知ってもらいたくて、採算度外視で提供しています。地道な活動が功を奏しまして、最近は注文が増えてきました」

赤江: さながら甘鯛大使! さすがは自分が食べたい魚を仕入れるオトコ!

 

欠かさない市場通い

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

赤江: 水曜日が定休というのは、市場のお休みに合わせているわけですね。正直、毎朝市場へ行かなくても営業的には成り立つと思いますが、それほどまでに市場に惹かれる理由はなんですか?

「人と人とのウェットな付き合いが好きなんです。毎日通っていると自然と仲良くなる仲買人が増えてきます。僕がどんな魚を好んで使うか、どれくらいのサイズのものをどれくらいの量欲しいのか、締め方とかどんな仕立てがいいのかとか、分かってもらえるようになって話も早い。

それから掘り出し物を教えてくれたり。最上級品は一流の鮨店や日本料理屋が買っていきますが、鮮度抜群で味も間違いなくいいのに、ヒレが欠けているとか片目が傷ついているとか、すごく安くなっているワケ有りの魚もあります。そんなのを回してもらえるのもうれしいですね。いい服が安く買えたっていう感覚、あれと近いですかね」

赤江: はははは。服を探しに毎朝は行きませんよ。日々、季節の魚が全国から集まってくるってところがいいですよね。一期一会って感じで。

「そうですね。同じ魚種でも地域で旬が違いますし、本当に見ていて飽きないです。基本的に安く買いたい一方で、お付き合いですから、高くてもがんばって買うこともあります。人柄に惹かれて仲買人に毎日話をしに行っているようなもんですね」

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

甘いお醤油の香りが漂ってきたと思ったら、ドトンと、きんきの煮付けのお出ましだ。

赤江: 目玉クリクリのアイツがいい具合に煮付けられましたなあ。どれどれ……
おいしいっ! 味付けこっくりサイコー、身も脂がのっていて、火の入り方もほっくりサイッコー!

あっという間に頭と骨だけにしてしまった団長を土田さんはうれしそうに見守る。

「煮付けっておいしいですよね。僕も大好物でいろんな魚を煮付けにして食べたいと常々思っているんです……。でも、店では出ないんですよ、煮付けって。しつこく品書きのいいところに入れてアピールしてるんですけどね」

赤江: 煮付け大使! 私は播磨灘に近い、いつも煮付けを食べている家庭に育ち、離乳食も煮付け入りだったくらいですから、もう目がないんですよ、煮付けには。煮付けを食べない人の気持ちは分かりません。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

「はははは。あ、すみません。目の前からラジオと同じ声がしてると思ったら可笑しくなってしまって。赤江さんのラジオ、いつも聴いていたんです。噛んでしまったシーンを集めてまた放送されてしまうコーナー、好きでした」

赤江: そうでしたか(笑) いろんなコーナーがあったはずですけどね、ポンコツ赤江が公開処刑されるそちらのコーナーがお好きでしたか(笑)
赤星探偵団の取材をしていますと、ラジオを聴いていたとおっしゃっていただけることが実は多いんですよ。仕込み作業のお供にちょうどよかったらしくて。

「まさに毎日作業しながら聴いていました。赤江さんは僕にとってのレディオスターですよ」

 

料理人のジレンマ

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

〆は土鍋ごはんと決めていた。超厚手の土鍋で炊くごはんは、一粒一粒がパッツリと立って米の甘みも際立つとか。赤江団長は、栗を炊き込み、鰻の蒲焼をたっぷりとのせて仕上げるうなぎと栗の土鍋ごはんを選んだ。
ゼッタイにおいしいヤツだ。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

赤江: おいしすぎるよ。お出汁は昆布にカツオ、今回はサバやイワシも入っているとな。栗からもいいお味が出ておいしいお米をさらにおいしくしてくれておりまして……そこにうなぎさんですよ。めっちゃくちゃおいしいです。
栗ごはんだけでも抜群においしいのに、たたみかけられましたわ。赤江、完敗です。降参します。

「栗ごはんだけでも十分おいしいですよね。そうなんです。本当は栗だけとか、銀杏だけでやりたいんですが、これまたそれだと出ないんですよ。季節の野菜のお浸しなんかも煮付けと並んで、最高の和食だと思っているんですが、やっぱり出ないんですよねえ。それが今の悩みです」

赤江: お客はもう、魚、魚、魚、魚、魚を探す目になっちゃうからじゃないかしら? 私もそうでしたけど(笑)
よかった、またおじゃまする理由ができました。次回は、土田さんの「自分ならコレ!」バージョンの土鍋ごはんと、お出汁たっぷりのお浸しをお願いしますね。

高円寺「魚貝ののぶ」行けばわかるさ、魚好きのためのパラダイス

——ごちそうさまでした!


(2025年10月31日取材)

撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘア&メイク:上田友子
スタイリング:入江未悠

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