昭和なアニキが語る定番服と赤星の名店「アニ散歩」
大衆割烹 味とめ

公開日:2016/08/25 < 5本目 >

軍パンと「大衆割烹 味とめ」のうなぎ串焼き

散歩は手ぶらがいい。そんな時に便利なのが軍パン。サイドに大きなポケットが付いているので、携帯、財布と最小限の持ち物で気ままにブラブラできるのだ。

この軍パンは、アメリカ軍の古着。イマドキの細身ではないが、この太い感じが男っぽくて気に入っている。言ってみれば、世の中にある軍パンのオリジナル。つまりコイツが元祖と言われている逸品だ。

無造作にロールアップしたら、シンプルに洗いざらしの白シャツで赤星を捜しに三軒茶屋へ向かう。

三軒茶屋は、一本路地裏に入れば昭和にワープできる魅力的な街。駅裏のすずらん通りに40年以上前から佇む名店「味とめ」で昼間から一杯ひっかけてみることにした。

店内の壁に貼りまくられたメニューといい、無造作に座敷の中央に置かれた食器といい、まるで田舎の親戚の家に帰省したかのようなタイムスリップ感がたまらないのだ。

メニューの数は、なんと400種類。はじめて来たときは必ず何を注文していいかわからなくなるが、このアニ散歩を読めば、大丈夫。

民家のようなカオス空間なのに、うなぎ? ふぐ??  そう、ここはなんと大衆割烹なのだ。

カウンターには酒が大量に置かれ、ここに座っていいのか怯んでしまう。が、狭いスペースでカウンター飲みする常連も少なくない。

カウンターの端にはお約束の現役ピンクの電話。なぜかアニ散歩の店では、コイツとよく出会う。

俺は座敷の奥に座り、まずは赤星を注文した。

穴の開いた壁さえ味になってしまうこの席で、至福の一杯を飲みながら、俺は400種類のメニューの中から大衆割烹ならではの3品に決めた。くじら、いわし、うなぎ。

1品目はくじらの竜田揚げ。カラッと揚げられ、くじらならではの独特な肉感と旨味がたまらない。ついつい小学生の時、給食で食べたなぁ~なんて懐かしい感じもしつつ、コイツは本格的な味。

2品目は、いわしのなめろう。揚げ物の次はやはり、刺身系でブレイク。新鮮な千葉産のいわしが美味すぎる。なめろうとは漁師が漁船上で作っていた料理で、まさに海の男飯なのだ。

そしてラストは、うなぎの串焼き5本セット。焼き鳥ではなく、うなぎってとこが大衆割烹のプライドを感じる。白焼き、かば焼き、肝焼き、兜焼きにネギ焼きがつく「味とめ」のマストメニュー。左端は兜焼きでうなぎの頭ってのもインパクト大だ。

まずは白焼きから。ワサビを少しつけて一口食べると、うなぎの旨味が口の中に広がる。

続いて絶妙なタレで焼かれた肝焼き。間違いなく、うなぎパイの1万倍以上元気になってしまう一品だ。兜焼きの絶妙な食感と基本のかば焼も絶品すぎ。

赤星を飲みながら一人飲みの話し相手になってくれたのは、ここの名物女将の辻 教子さん。ここで俺もついつい号泣しちまった「味とめ」ストーリーを。

創業47年の「味とめ」にお母さん(辻 教子さん)が昭和44年、当時の店主の元に千葉から嫁いできたところからはじまる。

お父さん(当時の店主)は、頑固一徹な職人で正統派の割烹料理のみで勝負していたが、商売を続ける難しさもあり大衆的なメニューを増やすお母さんのアドバイスを聞き入れるようになる。

そして大衆割烹メニューが充実し商売も軌道に乗ってきた時に、お父さんが病で倒れてしまうのだ。

そんな時に、うなぎのたれの作り方や、肝焼きのメニュー案などお母さんを助けてくれたのは、すずらん通りのお寿司屋さんや常連客だった。

お母さんは何度も俺に、こう言った。「困ったときは助け合いが大事。お父さんが倒れたあの時、助けてくれた人がいなかったら今、この店はない」と。

数年後、お父さんの病は回復したが、最後は車いすで仕入れの仕事をこなし他界した。最後まで「味とめ」に命をかけた男の生き様に俺は泣けた。

お母さんは、そんなお父さんの思いを引き継ぎ、大変な苦労があったにもかかわらず、毎日、笑顔で常連を迎えている。

俺は帰り際に、ふとカウンターを見た。お父さんの写真が目に入り、涙が込み上げてきた。元気で明るいお母さんに、今涙は見せたくない。グッと涙をこらえ店を出て思いっきり泣いた。お父さん、本当にいいお母さんと一緒になれて良かったね。

俺の思いは、天国のお父さんに届いただろうか……。

正式名称はアメリカ軍のジャングルファティーグパンツ。軍パンと呼ばれるパンツの元になったオリジナルだ。完成された機能美とデザインはトレンドとは無縁に履き続けることができる。古着屋で状態の良いものがリーズナブルに手に入るのも魅力のひとつ。

Text:Eiji Katano
Photo:Kou Maizawa

店舗情報

大衆割烹 味とめ

[住所] 東京都世田谷区太子堂4-23-7

[TEL] 03-3422-5845

[URL] http://tabelog.com/tokyo/A1317/A131706/13028645/

[営業時間]

月~金 10:30~24:30
土・日・祝15:30~24:30
定休日 不定休

【プロフィール】

片野英児(かたのえいじ)
1968年生まれ。昭和とメンズ服飾を愛してやまない47歳。小誌編集長の干場(ほしば)がアニキと呼んだことから、いつしかアダ名がアニキに。趣味は、スナックで昭和カラオケ。呑みすぎると、歌いながら、なぜか干場と泣き合う熱き男。好きな場所は軍艦島。

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