「動悸（ときめき）」

高円寺のとあるビルの地下1階。 

今回の取材場所は、食べると勝手に身体が整う居酒屋『高円寺 動悸（ときめき）』。 

発酵やグルテンフリーを取り入れた和食が評判で、だしの香りがふわっと立つ店内は、木のテーブルと優しい照明がつくるクリーンで居心地の良い空気に満ちている。一皿一皿が丁寧で、飲みの席なのにどこか“整う”――そんなイマドキの高円寺を象徴する人気店だ。 

そのカウンターに、クラシックな赤い星の瓶が佇む。 

酒場文化を知り尽くした玉袋筋太郎さんと、プロダンサーであり、“午前0時のプリンセス”というグループYouTuberとしても活躍するジェシカさん。ジャンルも世代も生き方も違う2人が、ヘルシーな和食と赤星で乾杯。 

赤い星がつなぐ世代越境の“高円寺ナイト”が明るく幕を開けた。

玉袋　とりあえず、赤星いっときましょうか！

ジェシカ　乾杯〜！ 玉袋さん、初めまして。まずは自己紹介をさせてください。私、ジェシカと申します。

プロのダンサーをしておりまして、それ以外では、『午前0時のプリンセス』という４人組のYouTuberとしても活動しています！

玉袋　じゃあ、ジェシカって呼ぶわ。俺のことは、玉ちゃんでお願い。ジェシカはダンサーなのか。どのくらいダンスをやってるんだ？

ジェシカ　ダンスを始めたのは7歳で、ダンス歴は20年以上です！

玉袋　おぉ、ベテランさんだな！　一回のステージで、一体どのくらい踊るもんなの？

ジェシカ　ライブでバックダンサーをやると、連続で12曲踊ることもあります。一度、ステージ裏に入った瞬間、酸欠で倒れそうになったこともありましたよ。少し休んですぐに舞台に戻れたんですが、体力の限界まで踊ることもあります。

玉袋　12曲はすごい！　ダンサーって踊り続けるから体力がものすごい必要だもんな。大きいステージで踊ったこともあるの？

ジェシカ　東京ドームは何度かステージ立たせてもらったことがあって。DREAMS COME TRUEさんや東方神起さん、THE RAMPAGEさんなどのバックについたこともあります。最近は、ダンサーの在り方も昔と違ってきていて。以前は、ただ“バックダンサー”って感じだったんですけど、最近はダンサーも1人の“アーティスト”として扱っていたける場面も多くなってきました。 

例えば、May J.さん×ジェシカ、みたいな感じで私も名前を立てていただけるようになってきたんです！ 

玉袋　おお、すごい！ そういうステージのあとのお酒はさぞかし美味しいでしょう。

ジェシカ　まさに！（笑） 

玉袋　俺からすると、ライブ前にも一杯やっとくか！って感じだけどな（笑）。スタミナドリンクとして。

ジェシカ　あははは。玉ちゃんは、もうその域なんですね（笑）。 本当にライブステージ後のお酒って最高なんです…！

そういえば、偶然ですが、私、初めて飲んだビールが赤星でした。ご褒美の赤星。一杯目はビールが多いですね。

玉袋　おお！ 赤星がファーストビールだったとはセンスがいいね。 

俺は、特に瓶ビールが好き。若い頃は生ビール一択だったけど、瓶ビールに辿りついた。どんなお店でもブレずに美味い。瓶はブレねえから。

ジェシカ　瓶はブレない！ 名言、いただきました（笑）。

胡麻の香りが香ばしい、お通しの焼胡麻豆腐　

厨房からは出汁の香り、カウンターの上の冷えた瓶ビール・赤星をもう一杯。玉袋さんがジェシカさんのグラスへ注ぐ。 

まず出てきたのはお通しの焼胡麻豆腐。

ジェシカ　私、普段は添加物しか摂取していないので（笑）、ヘルシーなお料理ありがたいです！

玉袋　添加物は添加物で魔力的に美味しいもんなあ。ただ、この店の料理は全部ヘルシーだから。気兼ねなく食える。オープンして２年目なんだって。俺も高円寺で飲むのは本当に久しぶりだわ。こんないい店があったとは。高円寺で、あえて地下でやってる店っていうのがまたいいよな。

ジェシカ　私、高円寺で初めて飲みました！　東京に住むようになったのも最近なので。ヘルシーだし、食べ物ぜーんぶ美味しいし、雰囲気も素敵。

玉袋　ジェシカは本当にずっとニコニコ笑って食べて飲んでくれるから周りが明るくなるな。そんなジェシカも、辛くて泣くことってあるのか？ もしあるなら、俺はその訳を聞きてえな。

ジェシカ　泣くこととか、ネガティブになって落ち込むことって、ほんまになくて。 

これ、キャラとかじゃなくて、素でほんまにこのままなんですよ。ありのまま生きてるからめっちゃ幸せなんです！

オーツミルクを使ったクリーミーなカリフラワーのムースが雲丹とベストマッチ！　カリフラワーのムースと生雲丹 715円

玉袋　でも、ダンスでミスしたら泣くだろ？

ジェシカ　いや、泣かないです。 

玉袋　泣かねえの!?

ジェシカ　私、ミスしないんで！

玉袋　おお〜、いいねえ！ まあ、ミスしないってことはそれだけ頑張って普段練習して準備してるってことだもんな。

ジェシカ　はい。ステージでミスして私が泣くのは違うと思っていて。そんなことがあったら、逆にお客さんが泣きたいよって感じじゃないですか。わざわざ見に来てくださっているのに。だからちゃんと自信がつくまで練習して、万全の状態でステージに立つことが私の仕事だと思っています。

玉袋　それぞ舞台に立つ者の言葉だ。もう一回乾杯しよう！！！ 

ジェシカ　乾杯〜！ そして料理も美味しい〜。 顔ハートで撮ってもらいましょー♡

玉袋　なんだそれ!?

ギャルとオヤジ。 

娘と父親のような年齢差がある２人が、映え写真を撮って笑って杯を重ねていく。  

前菜を一口ずつ楽しめるのが嬉しい！　ときめきのあて盛り合わせ 2299円

ジェシカ　玉ちゃんは、どんな時にお酒飲むのが最高〜！って思いますか？

玉袋　やっぱ仕事終わりかな。あ、今日は仕事前にも飲んでた（笑）。緊張すっから。

ジェシカ　えー緊張してたんですか？

玉袋　だってこんな可愛い子と飲むんだからさ。

ジェシカ　そうですよね。そりゃ、さすがに緊張するか！（笑）

玉袋　ジェシカは年の離れた人と飲んで悩みを相談したり、されたりってことはあるの？ 年下の子たちと飲むとお姉さんモードになるとか。

ジェシカ　私、そこもフラットで何も変えないんです。お姉さんぶるとかも一切しないし、相手から求められない限りアドバイスもしないです。

玉袋　そうなんだ。それは勉強になったな。俺は、飲んでるとつい何か言いたくなっちゃうところがあるんだよな。もちろん、何言っても響かない奴には言わないけど。関心と無関心。関心を持った相手には色々話しちゃうな。

ジェシカ　玉ちゃんから言われた言葉は響くと思いますよ。

玉袋　全部台本読んでるだけだけどな。 

ジェシカ　ねえ！（笑） 

玉袋　ただ、今日一発で分かった。ジェシカには、いろんな話していいんだなって。 

そうやって誰かに思わせられるって、あなたが持ってる宝物だよ。天性のもんだな、そのオーラみたいなもんは。 

ジェシカ　えー！　嬉しい！　聞いた？　みんな聞いた？（笑）

プリプリのお刺身にビールが進む！　お造り３種盛り合わせ 1628円

盛り上がってきたところで、鰆やマグロなどのお刺身の盛り合わせが到着。 

「鰆は足が早いから、なかなか東京では出ないんだよな」と玉袋さん。 

冬の鰆は寒鰆（かんさわら）と呼ばれ、脂がのっていて濃厚。ビールにも相性ぴったり！ 

名物！グルテンフリーの醤油でキャラメリゼされた香ばしいコーンは、まるでデザート。キャラメルコーン（2個） 594円

ジェシカ　玉ちゃんは、私の歳くらい、30歳くらいの時って何されてたんですか？

玉袋　漫才やって頑張ってたな。一回、ものすごい借金作っちゃって、かなり大変だった時期もあった。家族もいたし、生きるために借金できちゃって、それをいかにリカバリーするかを考えてたよ。がむしゃらに働いてどうにか返したけど、かなり落ち込んでたな。

ジェシカ　心が落ち込んだ時って、玉ちゃんはどうするんですか？　

玉袋　その時は家族がいたしな。息子もまだ小さかったし、ただただ頑張ったよ。 

だけど、いくら心がやけっぱちになっても、仕事の時には一切辛い顔は見せなかった。それを原動力にして働くようにしてたな。仕事で落ち込んだ姿見せても自分には何も返ってこないからね。ジェシカはお金ない時ってあったの？

ジェシカ　私、お金ない経験しかしてないです。24歳まで雑貨屋さんでバイトしてたんですけど、今みたいにダンスでお金をもらえる時代じゃなくて。ステージに立つために、ダンサーがお金を払ってたんです。ステージのチケットのノルマもあったし、ギャラももらえなかったから、バイトで月6、7万円稼いで、それがダンス代や衣装代で消えていくみたいな感じだったので、ほんまにお金なかったです。

玉袋　誰しも、人生、浮き沈みはあるもんだよな。それで、どうやってそこから稼げるようになったの？

ジェシカ　大阪ではダンスのお仕事の機会がそこまであるわけじゃなかったんですよ。それである時思い立って、3千円の夜行バスに乗って東京に行ってみたんです。 

私、お金はなくても行動力だけはあったから、とりあえず東京に行けばどうにかなる！と思って（笑）。 

ただ所持金が帰りの夜行バス代しかないから、レッスンも受けられないし、泊まるところもない。どうしようって、東京着いてから気づくみたいな（笑）。 

それでも、せっかく東京来たし、目星をつけてたダンススタジオへ行って、受付の人にダメ元で『お金ないんですけど、レッスン受けさせてもらえませんか』って言ってみたんです。そしたら、まさかの『いいよ、入らしてあげる』って言ってくださって。『わざわざ大阪から来たんだし、特別にいいよ』って、ダンスのレッスンを受けさせてもらったんです。ほんまラッキー。その後数日間、公園で寝泊まりして大阪に帰りました（笑）。でも、そこからですね。徐々に経験値を増やして稼げるようになっていったのは。

玉袋　お前、永ちゃんじゃん！ 矢沢永吉だよ、お前（笑）。トランクとギターと5万持って上京したんだから、永ちゃんは。

ジェシカ　あはははは。ほんまや！ 私、永ちゃんと同じことしてますね。あの時は、恵比寿の公園で寝てました。

玉袋　連絡しろよ〜。泊めてやったわ、うちに。

ジェシカ　それ先に言うといてくださいよ〜（笑）。

名物の原子焼！　カウンター内で焼きあがる様子に期待が高まる。キンキ原始焼 5060円

玉袋　お互い、金なくて苦労して今があるんだな。 

ジェシカ　朝6時とかに池袋に着く深夜バスだったんです。帰りはバスタ新宿。今でも、その風景を覚えてて、当時のこと思い出しちゃう。だから、なかなかそこのバス乗り場には行けないんですよ（笑）。

玉袋　まあな。そういう場所もあるよな。ただ一つ言うなら、人生は煮込みのようなもんだ。

ジェシカ　？？……というと？

玉袋　いろんな食材を入れて、そのだし汁にはそれぞれのお店の味があって、それに染められて、お客様にどうぞって出す。つまりそういうこと。

ジェシカ　どういうことですか（笑）。

玉袋さんのお気に入り。牛すじ塩煮込み 1078円

玉袋　人生煮込み論と人生発酵食品論っていうのを俺は掲げてる。例えば、朝、ぬか床にきゅうりを入れたら夕方にはしっかり味が染み込んでるだろ？ 俺はそういう人になりてえなって。

ジェシカ　ますます、どういうことなんですか（笑）。 

ボーンブロスで炊いた土鍋ご飯。お米に出汁がしっかりと染み込み、シメにぴったりの味わい！銀鮭といくらの土鍋ご飯 2563円

玉袋　細かい説明はやめよう。まあ、この赤星っていうパスポートがある限り、日本全国、どこでも行けるってことよな。ジェシカの育った大阪、初めての街の高円寺でこうやって繋がるのは一期一会。

ジェシカ　わあ、素晴らしい！ やっといいこと言ってくれた（笑）。

玉袋　たまにはいいこと言うのよ。

ジェシカ　今日、ほんまに私も一期一会を感じてます。玉ちゃんと出会えて、めっちゃ嬉しいです！

玉袋　そう言ってもらえたら嬉しいよ。じゃあ、俺がやってるスナックで働かない？ 火木でどう？

ジェシカ　いやいや（笑）。一緒に飲みに行かない？やなくて、働かない？なんだ（笑）。

玉袋　よっしゃ。ジェシカ、また飲もう！

火加減も、具材も、染みるまでの時間も人それぞれ。だけど、一期一会の食材が煮込まれた分だけ、オリジナルの味になる。 

高円寺の居酒屋で、赤星を囲んで交わされたこの夜もまた、ギャルとオヤジの人生がそっと混ざり合う、忘れがたい“一杯分の煮込み”になった。 

Photos：Ayako Nakamura

Hair&make-up：HIYORI

Styling：Rinka Shoji

Interview&text：Yumiko Ito　

【ジェシカさん着用アイテム】

ピアス￥7200、（右人差し指）リング￥5300（TUWAKRIM）、TENNIS NECKLACE￥15400、HEART NECKLACE￥15400、（左人差し指）リング￥5500、（左・右薬指）リング￥5500、（右小指）リング￥19800（89xiiitokyo）／805showroom