噂に聞く名酒場へ
サッポロラガービール、愛称「赤星」を飲める酒場を巡り、飲みかつ食べるというご機嫌なこの企画。「赤星酒場見聞録」として再スタートを切り、今回が第7回目。久しぶりに関東へ帰ってきた取材隊が目指したのは、神奈川県の茅ヶ崎だ。
JR東海道本線で、東京駅からほぼ1時間。のんびり電車に揺られ、駅の南口に降りる。事前に調べたところ、徒歩だと30分ほどかかるという。バスもあるらしい(後で店に着いてみるとバス停は店の目の前だった)が、7名の取材隊は3台のタクシーに分乗して店へ向かった。
店の名は「えぼし」。
茅ヶ崎海岸沖に浮かぶ、烏帽子岩から名を取ったのは明らかだろう。この岩は茅ヶ崎のシンボルだ。
さっそく入店。表から見たときには気づかなかったが、この店、かなり広い。私たちが通されたスペースから店の中へ入っていくと、右手にカウンター席があり、カウンターに面してテーブル席、小上がり、さらに奥は座敷になっているようだ。また、カウンターを右手に見ながら進むと、その先は広い厨房である。
数人のグループや家族連れでもゆったり過ごせそうだし、別棟のいわばアネックスもあるようで、私たちが訪れた12月某日にもちょっとした宴会が催されていた。
前置きが長くなった。
飲むのは「赤星」だ。
湘南の豊富な魚介類が売り物の店だけに、メニューの充実ぶり、さすがと言いたくる。刺身のネタは、マグロ、アジ、黒ムツ、サワラ、マダイ、ヒラメ、キンメダイ、タコなどで、他にも揚げ物、焼き物さらに嬉しいことには煮付けも豊富で、ざっと眺めると、キンメ、キンキ、カレイを用意している。
サザエのつぼ焼きやシラスなど、湘南の定番の酒肴もあるし、昼の定食も人気を集める店だけに、丼物や茶わん蒸し、それからなんと、寿司まで頼めるのだ。
目に留まったところから、注文を開始する。そろそろ寒さも本格的になるこの頃、カキを素通りするわけにはいかない。カキフライと、もうひとつ、カキのガーリック焼きの両方をいただこう。
さらに、これも季節の美味、ギンナンの塩炒りと、白子ポン酢。これもいってみようか……。
少食なオレだが……
このシリーズで、たびたび書いているが、私はあまり食べないほうである。
若いころから酒を飲むときは特に食べなかった。メニューが豊富であることは嬉しいが、だからといってあれこれ食べるわけではない。蕎麦屋で飲んでいて、蕎麦前だけで満足してしまって、蕎麦にたどり着かないことがあるくらいだ。
年齢を重ね、ある程度付き合いも多くなると食事の機会も増え、それなりの食欲を発揮できるようになりそうなものだ。しかし私の場合、若いころから一人で酒を飲むことが多かったから、飲む量も、食べる量も、人に合わせることを覚えなかった。それで、還暦を超えた今になっても、飲み屋のテーブルに着いた直後に、さて、ナニとナニを食べるか、いや、残さず食べられるか、ということを頭のどこかで考えることが癖になっている。
そんな私にとって、この、赤星酒場巡りは実に楽しい取材である。なにしろ、メンバーはたいてい7名いて、そのうち半分は若者——私にとっては息子、娘の世代——であるからして、旺盛に注文しても食べ残すということがない。
ついでに書いておくと、7名の中にはバリバリの体育会出身者が2名おり、そのうちのひとりはラグビー部出身。私の3食分くらいなら、ものの10分もあれば腹に収めるほどの健啖家だ。
私は安心して、あれも食べたい、これもつまみたいと、注文できるのである。
事前に調べてあったのだが、この店は創業当初、焼き鳥を出していたという。現在のメニューを見ると、若鳥、砂肝は鶏で、タン、ハツ、レバーなどは豚のようである。関東によくある焼き鳥屋のメニューだ。串物を焼いて客に供したのは、いま、焼き台で焼き方をするご主人の、奥様であるという。
店は2025年12月でオープンから51年になるのだが、この女将さんのご実家が、何代も続く漁師の家系で、茅ヶ崎で店をやるならおいしい魚介を出そうということになったのだ。
臙脂のフリースにオレンジのタオルを首からかけた大将が、むっちりとした肉とモツを刺した串を、炭火の上で焼く。その姿が実にシブい。
そして、出てきた串の立派なこと。若どり、砂肝、カシラ、シロ、ハツ、レバー、ナンコツまでがタレ、タンだけ塩で焼いてもらった。
うまいんだなあ、これが。
赤星に合う。
焼き台の横の壺みたいなのは、ダッチオーブンだ。焼き鳥のタレかと一瞬思ったけれど、ここに湯を張って、燗をつけるのだ。赤星の後の燗酒もいい。でも、それはまだ少し後の楽しみだ。
そうこうしているうちに、カキフライとシラスのシーザーサラダが出てきた。
熱々のカキフライ。うまいねえ。
シラスたっぷりのサラダも食欲をそそる。写真はいつものキヨコさんですが、彼女も次々に出てくる酒肴のすばらしさに感嘆しつつ、カメラを構え、シャッターを切る。いつものことながら、彼女が飲み食いに参加するのは一番最後。しばらく我慢の時間が続く。
カウンターから、取材隊が囲むテーブルへ移ると、そこには、さまざまな酒肴が運ばれていた。カキのガーリック焼きは、生ガキの匂いを少し苦手とする人にもおすすめできる一品。ビールにもサワーやハイボールにも合いそうである。
店の夜営業の開店時刻に入店した我ら取材隊は、すでにして数本の「赤星」の瓶を空にして、元気よく飲んでいる。店には、開店直後から次々にお客さんが入り、私があれこれつまんだり赤星で喉を潤しているうちに、店内は賑やかな雰囲気に包まれている。
刺身の盛り合わせが来た。サバ、マグロ、甘エビ、ブリ、マダイの盛り合わせである。
ほかに、最初に頼んでいた白子ポン酢、ギンナン塩炒り、地魚のカルパッチョなどが、次々に運ばれ、取材隊は思い思いに箸をのばす。その間、「赤星」は次々に栓を抜かれていく。
小食な私も、取材隊の旺盛な食欲に刺激され、さまざまな皿や小鉢に手を出す。手元のギンナンは、この季節、居酒屋へ行けば必ずといっていいほど頼む一品だが、自分でも意外なことに、ギンナンをつまみながら、その合間に、シラスのシーザーサラダを食べている。
シーザーサラダがこんなにうまいとは
オレがサラダをつまみにビールを飲んでいる……。
自分で、驚いたのだ。酒場で食する生の野菜といえば、キャベツ、キュウリ、トマトに限られていて、たまにオニオンスライスが登場する程度なのだが、そんな私がシーザーサラダをつまみに赤星を飲む。
若い人たちと賑やかにテーブルを囲む状況に刺激されてのことか。理由はよくわからないのだが、私にとってオシャレ感が過ぎるサラダがうまいのだ。
酒宴、もとい、取材も佳境にさしかかり、写真家キヨちゃんにもテーブルについていただきます。場は一層賑やかに、そして楽しくなる。
魚の煮付けを頼もうと提案したのは、編集のナベさん。実は彼、10年以上前からこの店の客であったという。酒肴の豊富さ、おいしいさ、それゆえに人気があることを知っていたわけで、この日が初めての私たちが、あれもうまい、これもうまいと言い合うのを、さもありなんと微笑ましく眺めていたのだ。
頼んだのはナメタガレイの煮付け。これも立派なサイズで、箸で身を崩し、口へ運ぶと、ほどなくとろけ、甘味とうまみが口中に広がった。
当連載の第6回で訪ねた明石の「魚の棚商店街」で買ったサワラの西京味噌漬けは絶品だったが、煮付けとなると、けっこう久しぶりだ。ビールによし、日本酒によし、もちろんご飯によし。万能酒肴といえる。
そこに運ばれてきたのが、えびしんじょう、とカンパチの寿司。
えびしんじょうって何ですか?
若手取材隊のひとりが言う。あのね、簡単に言うとだね、エビのすり身を練って固めたものでね、これは揚げてあるわけよ。
と教えてあげながら、そのうちのひとつを口にいれると、すり身のつなぎに出汁が入っているのか、味わい深くてとてもうまい。
カンパチの握りは見るからにプリプリのカンパチの絶妙な歯ごたえに思わずうなる。
さらに運ばれてくるのは、かんぴょう巻き。これも編集ナベさんのチョイス。締めに海苔巻きを頼むあたり、年の功というかなんというか、その気持ち、よくわかる。
寿司にプリンに、にぎにぎと
はあ、よく食べた。
頼んだもの、全部うまかったから、気分は上々だ。
さて、そろそろ帰り支度でもするか。と、思った私が甘かった。若者たち、なんと、デザートを頼むというのである。壁の品書きを見ると、クリームあんみつにはじまり、チーズケーキ、モンブラン、プリンアラモード、レモンムースなど20種類ほどの自家製デザートがあるのだ。
驚いたことに、みんな、デザートを頼む。とりわけ私を驚愕させたのは、元ラガーマンが頼んだ一品。それは、かぼちゃプリンとキャラメルアイスがひと皿に盛られた、スペシャルなデザートだった。
オータケさんもいかがですか。若者たちは勧めてくれるのだけれど、さすがに手が出ない。
茶漬けやおにぎりで締める時代は終わり、プリンで締める時代がやってきたのか。しばし、茫然とする私に、ナベさんが教えてくれた。こちらのお店には、デザート専任のパティシエがいるのだと。
なぬ? では頼まぬのは損か。
よし、では、幼少期に返ったつもりで、プリンアラモード、行ってみるか、と腰が浮きかけるのであった。
(※2025年12月9日取材)
取材・文:大竹 聡
撮影:衛藤キヨコ





と赤星
と赤星


