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100軒マラソン File No.82

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

「とり政」

公開日:

今回取材に訪れたお店

とり政

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赤星の愛称で親しまれるサッポロラガービールを求めて歩く「赤星★100軒マラソン」。82回目になる今回も、前2回に続いて福岡編です。博多は中州のど真ん中に佇む焼き鳥の名店「とり政」さんをお訪ねすることといたしました。

夕方18時。開店に合わせて店の前に立つと、ああ、中州の街にぴたりとハマった佇まいがなんとも、実に、シブい。

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

ありがてえなあ。これも仕事とはいえ、見るからに歴史のあるこんな店の扉を開けることができるシアワセに、思わず顔がほころぶのです。

さっそく店内へ入ると、1階は長いカウンターが奥へ続いています。手前に焼き台、その奥にネタケースがあり、見るからに鮮度の良さそうな串ものが並んでいる。

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

準備万端、整っているといったところでしょう。串を打たれた肉や臓物が、炭火でチリチリと焼かれるのを待っている。レバーに鳥皮、砂肝ときて、豚バラ、オクラベーコン巻、しそ巻もあるな。それから白もつに、奥にあるのはなんこつか……。

ネタには鳥あり、豚あり、ミノやサガリは牛のようである。日ごろは豚もつで焼酎を飲むことの多い私だが、今夜はいろいろ頼んでみようと思う。

いつもの赤星。安定の味わい

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

さっそく運ばれてきた酢もつで赤星の最初の1杯をぐいっとやる。

夕方の6時。雨上がりの夕空はまだ薄明るい時刻だ。朝からの仕事を終え、小雨の中で店に向かいながらちょっと上着の肩を濡らした常連さんが白い暖簾を潜って入ってくる。そんなひとコマを想像しつつ、グラスを傾けます。

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

細かい泡を伴って喉を下っていく1杯目のビール。穏やかで、マイルドな、いつもの赤星。安定の味わいが嬉しい。

フーっと息をついて、また、ビールをグラスに注ぐ。目の前には、ビールと酢もつの小鉢と、キャベツを盛った皿があるのみ。

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生キャベツには、酢醤油のようなタレがかけてあり、これが、うまい。博多の焼鳥屋さんは他にも訪ねたことがあるけれども、その店でも最初にどさりと出されるキャベツがバカにうまかった。

カウンターと焼き台の間に仕切りがあるが、その小窓から、ご主人が注文の紙を渡してくれた。ここに希望の品と数量を書いて渡しておく仕組みのようだ。

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ネタケースに目をやり、手元のメニューも見渡し、さて、本日のオレはたった今、何の串から喰いたいかと、しばし自問する。ここは東京の、行きつけの店ではないから、いつものアレ、は存在しないのである。だからこそ、迷う。迷うからこそ、楽しい。

まずは豚バラ 鳥レバー 豚ナンコツ、鳥皮を頼むことにした。キャベツのパリパリ感が最高だし、酢もつの上品な軽さも抜群。ここは博多名物の豚バラの串からやりたいな……。

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

そんなことを思って赤星をやっていると、最初に頼んだ串が焼けた。

私の気持ちの、伝わるやろか。魔法のごたる4本が出てきたばい――。

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まずは豚バラ。クーッと、博多華丸さんになった気分で唸りたい、そのうまさよ。サクサクとした噛み応えと甘い脂とのバランス、そして、心憎いばかりにさり気なく串に刺されたタマネギが、いいアクセントになっている。

東京で喰う豚バラは、なぜか、こうはならない。やはり博多に来なければ味わえない。たった1本でそんな気にさせる絶品豚バラなのであります。

鳥レバーもいい。滋味深いレバーがさっぱりと味わえる。これも品がいいと思わせる。軽い苦みのビールである赤星に、ぴったり寄り添う焼き鳥串だ。

本日のたった今を心に焼き付ける

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「何か、お話しすることありますか」

小窓からご主人が訊いてくださる。

実は店が混みあう前に、ご主人の立つ位置の真向かいあたりから、お声をかけようと思ってはいたのです。でも、私たち赤星100軒マラソン隊が入店すると間もなく、次々にお客様が来店。7時からのご予定だった方も6時にお見えになったりして、私らの目論見は見事に外れた。

それでも、せっかく声をかけていただいたのだからと、ご主人が2代目の、古いお店なんですよね? と咄嗟の質問を投げかけた。

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「そうです、私が2代目。先代の女将さんと社長のふたりの写真は奥にかけてあります。ええ、店は昭和32年からですから、中州で一番かどうかははっきりわからないけど、かなり古い部類だと思いますよ。元は川沿いに屋台を出していたんです。そこで2年くらいやったのかな。それから、ここへ移転してね」

私、昭和38年の生まれです。昭和32年といやあ、その6年前だから私の父母の結婚前のことで、オヤジなんかひょっとしたら新宿あたりでクダを巻いていた頃かもしれません。そんな時代に、「とり政」は中州の川端で屋台から営業を始めたという。

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

東京にも大阪にも名古屋にも、屋台から始めた焼鳥屋はあります。私の知っている店はたしか、戦後のまだ食糧の豊かでなかった時代に先々代が始めたという店ですが、その店なども手羽先の1本で訪れた人をすっかり魅了します。

昭和30年代はどうだったか、40年代や50年代のエピソードはどんなものがあるのか。いろいろ訊いてみたい欲求に駆られるところではありますが、開店後30分で店が賑わい、ご主人にもどうやら余裕がないご様子。ならばこちらも、創業から66年になるこの店の本日のたった今を、長い歴史の1ページとして心に焼き付けておこうと思う次第です。

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豚ナンコツの薄い骨がパリパリと砕けて心地いい。そして鳥皮は、甘辛のタレをからめてあって、カリッとした食感もすばらしく、これまた、ビールによく合う。

鳥と豚と2本ずつ頼んだので、次は牛にしてみようと思う。メニューを見ると、牛ミノというのが目に止まる。焼鳥屋さんでミノは珍しいが、店に置いてあるマッチ箱を見て、ああ、そういうことか、と少し納得する。

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マッチ箱の表には「焼鳥専門店 とり政」と印刷されているのだが、裏を返すと、「博多自慢 やき鳥専門」の他に、「ホルモン焼鳥 にぎりめし 御茶漬」と印刷されている。

焼鳥屋であるけれども、ホルモンもあるし、飯も食えますよと、マッチ箱に謳った時期があるのだ。牛ミノは、その頃からの名残り、いや、今も変わらぬ、人気の品と勝手に想像した。

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合わせて頼んだのは牛サガリ。サガリというのは横隔膜の下部で、ハラミに似た部位と聞いたことがある。肉というより、厳密には臓物なのかもしれないが、私はこの部位が好みである。

出てきた串を見ると、サガリのほうには小さくシシトウが挟んである。そして、シシトウの辛味と焦げた苦みが、サガリの少しねっとりとするうまさによく合うのである。

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驚いたのは、牛ミノ。焼肉屋では味噌ダレに絡めたミノを見ることが多いが、ここでは串に刺した白いミノが、塩焼きで出てきた。

これが、うまい。あっさりとしているのにボリュームがあり、なにより新鮮なミノの、比類ない嚙み心地が素晴らしいのだ。

長っ尻はせず、大いに飲む

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

私はなんとも嬉しいひとときを過ごしている。同行の100軒マラソン隊も全員カウンターにつき、それぞれに注文をし、伸び伸びと飲んでいる。

写真Sさんと私は身体の節々が痛み始める年齢だけれど、編集Hさんは脂の乗り切った40代、営業、マーケティング、宣伝を担う若手たちはまだ20代とあって、すこぶる元気である。

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

その「すこぶる元気たち」がよく飲み、喰う。すると、どうなるだろうか。

ああ! なんと、赤星、売り切れました。やりました。ついに、店の赤星を全部飲んでしまった。他のお客さんの分まで飲んじまったと考えると大問題だが、うまくて、調子にのって、ごくごく飲んだと思えばいっそ気持ちがいい(他にヱビス・黒ラベルもあるのでご心配なく)。

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私はウズラの卵と鰻串を頼み、先に頼んでおいたオクラのベーコン巻を食べ、デュワーズのハイボールに切り替えて、さらに腰を据えた。その間にも若者たちはよく飲み、よく食べている。

実は今回の100軒マラソン隊のうち2人が福岡出身。私も親類は博多に住んでいる。そんな縁のある人たちが、中洲の老舗に初めて入ったんだから、やや興奮して当たり前だ。長っ尻はせず、けれど大いに飲んで、記憶に刻む。

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

うまいなあ、という一種の気分を記憶に刻むのは簡単じゃない。でもそうしたいと、思わせる店があるのだ。

みんなが頼んだ焼きおにぎりのおすそ分けをいただく。中心のほうまで醤油の染みた焼きおにぎりが格別だ。合わせて出たのが貝汁。アサリの味噌汁が甘くまろやかである。編集Hさんによれば、九州の麦みそを使っているのではないか、とのことだ。

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2時間半で、ほろ酔いになった。腹も満ちている。さて、お次はどこへ飲みに行こうか。なにしろ今日は家へ帰る必要がなく、最後は目と鼻の先にあるホテルへたどり着けばいいだけなのだ。

店を出た私は、中州にクネクネと張り巡らされた‘酒の道’に、やや興奮しながら足を踏み入れたのです。

中洲のど真ん中「昭和32年創業」の焼き鳥店、博多の夜はここから始まる

(※2023年5月18日取材)

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

 

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