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100軒マラソン File No.64

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

「ミートステーション」

公開日:

今回取材に訪れたお店

ミートステーション

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※撮影時以外はマスクを着用の上、感染症対策を実施しております。

サッポロラガービール、愛称「赤星」を置く酒場を訪ね歩く「赤星100軒マラソン」です。まだ続いております。お蔭様をもちまして、このシリーズも64回目を迎えました。思えは遥かな道のりでした。

先ごろ、この連載の最初の頃に取材をさせていただいた店に行ってみたら、

「ああ、あれまだやってんですか」

なんてね。やってんですよ。なにしろ、赤星が飲めるいい店は、あちらにもこちらにも、ある。いくらでもあると言いたくなるくらいに、ありまして、気持ちとしては、毎週1軒ずつくらいお訪ねをしたいところでございます。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

そして、このたび伺いますのは、東京23区をほんのちょっと西へ出た、狛江市。世田谷区のすぐ先にあって、調布市に隣接。多摩川の向こう側は、川崎市の登戸です。電車の路線で言うと、小田急線。成城学園のちょっと先、とお考えいただいたらいい。新宿から決して遠くなく、便利であって、同時に、昔の多摩の面影も残る。つまり、いいところなのです。

その南側、駅前ロータリーのすぐそばに、一軒の渋い飲み屋さんがあります。「ミートステーション」。ミートとは、お肉のミートであり、出会いのミート。人々が集い、肉を囲む駅前酒場、といったところになりましょうか。いいですねえ。この店名。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

■馴染みのないエリアの酒場で和む

伺いましたのは今年の11月25日。酒場の営業が時間制限なしでOKとなってからちょうど1ヵ月後のことでした。

時刻は午後4時。開店と同時に入るのだ!と気負って出かけると、おやまあ、すでにして開店を待つ人と行き合わせました。まだお若い女性です。こいつは幸先がいい。暖簾が出ると早速、入店し、まずは、お決まりの「赤星ください!」のひと言を発する。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

さて、つまみ、どうしようか。カウンターの上方に、ホワイトボードが吊るされていて、いろいろと、つまみの名前が書いてある。

左上は刺身系。まぐろぶつ。まぐろゆっけ。サーモン刺し、刺身盛り合わせ。ほかに鉄火巻、すじこ巻とあって、ホッケに鮭ハラスと、焼き物がある。が、ミートステーションであるから、まずはミートでと思い、視線を動かすと、ホワイトボードの右上方の角のところに、「早いもの勝ち!」のひと言を見つけた。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

タン元串、まぐろ梅肉串、の2品。まぐろの梅肉って、ナンだ? 梅和え? 梅たたき? いや、どちらも串に刺せないよなあ……。

いきなり少しばかり迷うのですが、そんなことより最初の品をまず頼もうと、タン元に決定。ほかには、壁にある品書きの中から、トロトロテッポウという1品を選びます。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

しばし、カウンターで待つ。午後4時の開店時にすでに来ていた女性のお客さん、可愛らしい方で、店の方と仲良そうに話している。訊けば、その女性もしばらく前までこの店で働いていたという。

そう、だから、顔見知りも顔見知り。仲良く口をきく仲であたり前なのですが、カウンターを挟んでお店サイドと客サイドの距離が近い、こういう感じというのは、初めて来た私などにも、安心です。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

やってきました。タン元。おすすめの塩焼きで頼んだのですが、これこれ、この見た目。プリプリです。そして、刻んだばかりのシャキシャキのネギとショウガとレモンが添えてある。贅沢だね、これは。さっそくレモンを搾り、ネギとショウガをタン元の上にのせまして、いただきます。

タン元っていうのは、私がいつも喰っているタンとはやはり違うわけですが、このふわりと豊かな感じがやはり、軽い感動をもたらしますな。ネギとショウガと、タン元の塩加減。それらが一体化して、絶妙な味わいになります。うまい。ビールをぐいとやる。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

そして、トロトロテッポウ。ここには、自家製のタレがかかっていて、味噌が添えてある。辛味噌ですよ。タレの甘みはトロトロのテッポウを包み込むのですが、それを外側から辛味噌がきゅっと締めてくれる。そんな感じ。

ああ、いい店だなあ、と早くも思う。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

私は、狛江市が隣接する調布市のそのまたすぐ隣の三鷹市で生まれ育ちました。三鷹の中でも、調布にとても近い地域なので、実は、狛江も遠くない。子供の頃には、狛江駅のすぐ先の和泉多摩川あたりで釣りをした覚えがある。

また、多摩川が氾濫して狛江に甚大な被害を出した大水害は昭和49年というから、私が小学校5年生のときだ。そうそう、中学2年になった私が山田太一さん原作のTBSドラマ「岸辺のアルバム」を見たときに、実際の水害の映像が流れたことも、はっきりと記憶に残っている。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

けれど、ここは、狛江の中でも、知らないエリアなのです。

私が多少知っているのは駅の北側で、実は、この、ミートステーションのあるロータリーの界隈には来たことがない。狛江で何度か酒を飲んだことはあるのに、このあたりは、まるで知らない。そのことが、今、こうして、地元の人たちに愛されている店にいて改めて思われるのです。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

■長く続く店のすばらしさ

熱々のギンナンがうまい。追加の注文は店のしきたりに従って、小さな紙に書く。ホルモン3点盛り、うずらの玉子、しそたくあん、大根煮……。

テッポウ、ガツ、コブクロの3点盛りはニンニクのタレでいただいた。これはもう、テッパンのうまさだ。うずらの玉子は、なんと、殻つきのまま串を打ち、それを焼いたもの。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

「生のままの玉子に串を打つのは相当難しいんじゃないの?」

私と編集Hさんが話していると、ご主人の永瀬秀夫さんが一言。

「生やさしいことではないのよ」

洒落のお好きな方のようです。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

開店直後から来店するお客さんの対応で、休むまもなく酒肴の準備をしているのに、客の会話に耳を傾け、気を配っている。

お客さんの一人が帰り支度をし、会計を済ませたとき、ご主人は、声をかけた。

「ありがとう。忘れ物ない?」

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

まだ暮れ切らない時間帯。そんな早い時間から、店を後にする人にかけるやさしい一言を忘れない。しばらく見ていたら、また、女性のひとり客が来た。

なるほどな……。この店、ホッとするんだ。来れば温かく迎えてくれ、おいしい酒肴で飲むことでき、また、やさしく送り出してくれる。些細なことかもしれないけれど、長く続く店のすばらしさがこれじゃないか。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

私の隣に新たに来られたお客さんと言葉を交わすと、こちらの常連であるらしい。話の中に、先に触れた多摩川氾濫のことが出て、世代も近いことなどがわかって嬉しい。

そのまた向こうに座っているお客さんは、毎日のようにこの店に顔を出すという超常連。さらにはまた、「赤星マラソン」読んでますよ、と声をかけてくださる方もいた。初めての客なのに、みなさん、気さくに迎え入れてくれる。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

こってりしているのに、新鮮なマグロユッケに、鉄板の上で焦げるバターの香りもすばらしい砂肝バター。頼むつまみひとつひとつが、私の舌を納得させる。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

たくあんと紫蘇の葉を巻きつけた、その名もしそたくさんは、実にシンプルだけど、これもまた、ここで初めて食べる味。赤星をぐびぐびやりながら、ポリポリ齧ると、止まらなくなります。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

■赤星がとりもつ縁がある

創業したのは昭和52年。

「駅のロータリーでキャッチボールができたし、まだ電車が高架じゃなかったから踏切は開かずの踏切でね。急いでいる人は自転車を担いで駅の階段を使って、南口と北口の行き来をしたりしていた。その頃から、うちは、ずっとここ。同じ場所でやってるんですよ」

ご主人は、忙しい手を止めて、少しだけ昔を振り返ってくれた。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

ちなみに、瓶ビールは赤星が昔から、この店のビールだったようです。そんな話をしていると、スタッフの横山さんは、こんな話をしてくれました。

「私は、赤星が好きでこの店に通ってたんです。それで、今年の1月から、この店で働いているんです(笑)」

これも、赤星がとりもつ縁。いい話です。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

店は次第に混んできて、そろそろ、予約の席も埋まり始めます。

ご主人の言葉のイントネーションに懐かしい覚えがあって、ご出身を伺いましたら、茨城という。茨城はどちらとさらに聞くと、取手と下館の間という。

「水海道?」
「そうです」

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

私の祖母は代々この地だったから、取手、下館と聞いてピンときたのです。私は祖母と何年も暮らしたことがあるから、独特のイントネーションや、方言も少し知っている。

「婆さんからときどき、ごじゃっぺ、って言われてました」

私がそういうと、ご主人は、ニコッと笑ってくれた。ちなみに「ごじゃっぺ」とは、間抜けとか、要領が悪いとか、そういう意味ということになっているが、私が受けていた語感としては、わからずや、くらいのものである。

そんな懐かしい言葉も思い出され、狛江の名店での初めての酒は、さらに、深く、楽しいものになっていくのでした。

狛江で飲むなら外せない「人々が集い、肉を囲む駅前酒場」

(※2021年11月25日取材)

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

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