あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の5代目団長・宇賀なつみさんが、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。 (※撮影時以外はマスクを着用の上、感染症対策を実施しております)
■熱々の鉄板焼きでキンキンの赤星を
これまでほとんど足を踏み入れる機会のなかった新橋で、好みにドンピシャな一軒「酒肴晴」を見つけて気をよくした宇賀なつみ団長。新橋のディープさをさらに味わおうと、間をあけずに再訪した。
飲食店が所狭しと建ち並ぶ“呑兵衛の聖地”をぶらり巡礼。線路沿いの道から細い路地に迷い込み、ふと目に入ったのは、お好み焼きのコテをデザインした暖簾に「今日はあき子」という風変わりな店名だ。ビビビッとセンサーが発動すると同時に、もうすっかりお好み焼きの口になってしまった。
迷わず行けよ、行けば分かるさ、ということで、いざ!
宇賀: こんばんはーー。おおおっ、赤星の瓶がずらり! ワタシ、鼻が効くようになってしまったかも。
赤星探偵団で団長を務めさせていただいております宇賀なつみと申します。
迎えてくれたのは、店主の「あき子」さん、東條昭子さんだ。「はい、いらっしゃい!」と、漫才のツッコミ役にばっちり合いそうな、ちょうどいいトーンの声が気持ちいい。
アルファベットの「b」型のような変則的なカウンター席には、サッポロラガービール“赤星”をはじめさまざまな酒瓶と大皿のおばんざいが並んでいる。早速、赤星でカラカラの喉を潤すとする。
――いっただっきまーす!
宇賀: くーーーっ、美味しいっ! それにしてもよく冷えてますね。
「暑い季節は、ビールはやっぱりキンキンに冷えてるのが美味しいですよね。うちのドリンク用の冷蔵庫やと私的にはイマイチ冷えが物足りないんで、食材用の方でガンガン冷やしておきました」
とあき子さん。ビールは間違いなく好きだとお見受けし、一杯をすすめると、「お、ほないただきます!」と美味しそうに飲み干す。「最高ですね! なんにしましょか?」と、きっぷがいい。
この日のお通し、心太と蒸し茄子とささみのさっぱり和えをつまみながら、今宵の作戦を練る団長。お好み焼きや焼きそばなど粉ものの店だが、酒が進みそうな一品料理も充実していて、迷ってしまう。
熟考の末、まずは赤星のお供にと、おばんざいからみぞれトマト柚子こしょう味、そして、定番の鉄板焼きからせせりのレモンバターをチョイスした。
宇賀: トマト、おいしー。柚子こしょうでトマトの甘さが引き立って。赤星とも合うなあ。やっぱり夏は野菜がおいしい。
せせりを焼く音が聞こえてくる。と同時に店内に漂うバターとレモンの香りがなんとも食欲をそそる。
宇賀: これも、いい! レモンのほのかな酸味とバターのコクと、せせりのギュッと詰まった歯応えも楽しめて。
(赤星をゴクリとやって)あー、シアワセ。
■ようやくお好み焼きが似合うおばちゃんに
こちらには“ふわとろ焼”という一風変わった粉ものの名物がある。神戸や東京・恵比寿にある「ふわとろ本舗」が考案したオリジナルメニューで、「今日はあき子」では特別に提供が許されている。というのも、あき子さんは長年「ふわとろ本舗」で働き、2017年に独立開店したからだ。
山口県出身のあき子さんは、神戸での学生時代に飲食店でアルバイトを始めた。そこがたまたま、のちに出店する「ふわとろ本舗」を含めさまざまな業態の飲食店を展開する会社の店舗だった。
大学卒業を控えていた1995年1月、阪神淡路大震災に遭った。混乱の中、アルバイト先でそのまま働くようになり、経験を積んで次第に新規出店を手掛けるようになった。ふんわり、とろっとした新食感のお好み焼きである「ふわとろ焼」が社長によって開発され、その専門店「ふわとろ本舗」の立ち上げにも参画。15年ほど前に、その恵比寿店を任されてあき子さんは上京した。
「東京のこと、何も知らなかったですからね。東京のうどんの汁ですか? やっぱり、『黒っ!』ってツッコミましたよ(笑)。でも慣れるもんですよね、今はあれはあれで好きですよ。
しばらく恵比寿でやってたんですが、歳も歳やしそろそろ独立させてくださいって社長にお願いしましてね。関西のお好み焼き屋っておばちゃんがひとりでやってるイメージがあるんですよ、私の中には。私もそろそろお好み焼き屋をやってもいいくらい、熟したんとちゃうか。そう思いまして(笑)」
宇賀: 確かにお好み焼きっておばちゃんが焼いてるイメージありますね(笑)。あき子さんが着てるそのエプロンなんか、まさにお好み焼きを焼くおばちゃんのためにある感じ。え!? オリジナルで染めてるんですか、やっぱり! 探すと意外とない絶妙なやつですもん。
店名もいいですね。インパクトあります。いったいどうやって決めたんですか?
「お好み焼き屋っておばちゃんの名前が店名になってることが多い気がしていましてね。『お好み焼 ゆき』とか(笑)。それに、飲食店の店名って、意外とみんな覚えていないもんなんですよ。今日どこ行く? なんやったっけ、あのカドのお好みの店、あそこ行こうや、みたいな。
だから、もう、あき子でええやろ。なんなら「今日はあき子」でええやろ、っていい加減な感じで(笑)。そしたら、思いのほか印象に残るみたいで、わりとちゃんと覚えていただけて、結果的によかったです。ただ、領収書を経理に出しにくい店名やって、苦情も多いですけどね(笑)」
■名物「ふわとろ焼」のナゾの美味しさ
勤めていた会社を円満退社後、ふわとろ焼きの元となる独自配合の粉を分けてもらい、「ふわとろ本舗」以外で唯一出せる店となった。
「よく山芋が入ってるんでしょって言われるんですけど、入れてないんですよ。でも原材料は企業秘密いいますか、実は私も詳しくは教えてもらえなくって、“ナゾの白い粉”としか言えないんですわ。
要はキャベツの入っていない生地そのものを味わうお好み焼きなんですけど、なんとも言えない食感でね、結構ファンの方がいらっしゃるんですよ」
ウワサのふわとろ焼がやってきた。トッピングは豚・もち・チーズ。団長の好きなモノしか入っていない。熱々をいただく。
宇賀: は、はふ、はっ、おいひぃ。
宇賀: これ、おいしいです! まさに、ふわとろ。お好み焼きというより、形は違うけど、たこ焼きとか明石焼きに近いかもしれません。たこ焼きが好きな人にはたまらない、超特大のたこ焼き。私は好きだなあ、この食感。
ところで、あき子さんはどうして新橋に出店されたんですか? 神戸も恵比寿もおしゃれな街ですけど、そこから新橋って、結構なギャップがありますよね。
「なんも知らんかったからですよ。たまたま条件に合う物件が出たから。最初は恵比寿と雰囲気が違って戸惑った部分もありますけど、すごくいいところですよ。特にうちはとってもいいお客さんに恵まれています。お酒のことをよく知っていて、みなさんスマートに、きれいに飲んでいかれます。女性同士のお客さんも多いですしね。
そういえば、酎ハイが濃すぎるって言われましたね。東京の方は薄めのをたくさんお代わりするじゃないですか。関西は逆で、とにかく濃いやつで安上がりに手っ取り早く酔っ払いたいってお客さんが多いんで、やっぱりこっちはスマートや思いますね(笑)」
宇賀: ははは。私はちょっと濃いくらいが好きですけどね。なんか、話聞いてたら飲みたくなってきました。私も酎ハイにしよっかな。麦焼酎のソーダ割りで……いや、レモンサワーにしよっかな。
「ソーダ割にちょっとレモン搾っておきましょ。濃いめにしときますね」とあき子さん。リズムよく、痒いところに手が届くサービスが、なんとも心地いい。
■甘めのソースの関西風焼きそばにぞっこん
ふわとろ焼を堪能した団長だったが、あまりの美味しさに粉もん×ソースの欲求に火がついてしまった。余った分はお持ち帰りさせていただこうと、本場神戸の麺を使った焼きそばもオーダー。エビ、豚、イカ、スジの具が入る“ちゃんぽん”焼きそばで〆ることにした。
ふたりでシェアする客が多いという焼きそばは、なるほどボリュームたっぷり。具材もたっぷり入った豪気な一品で、酒の肴としても絶好である。
宇賀: 美味しい焼きそばだなあ(遠くを見つめる)。これ、玉子麺ですよね、丸のストレート麺がちょっと甘めのソースとほどよくからんで。関西のソース焼きそばの美味しさをしみじみ味わえます。
これ、焼酎もいいけど、やっぱりビールだな。赤星みたいな味がしっかりしたビールとの相性は間違いない!
「私は根っからのビール党で、ビールに始まり、ビール、ビール、ビール、ビール、ビール、じゃ最後の〆にビール、みたいな(笑)。生は黒ラベルが大好きで、瓶なら赤星ですね。ちゃんと味わいがあってしかもバランスがいいから、ずーっと飲んでいられるんです。赤星が飲めるからって、うちにいらっしゃる方も多いんですよ」
宇賀: あき子さんに何か焼いてもらって、赤星で一杯。最高の時間ですね。次回は、ちょっと気になっている「昭和焼」を焼いてもらおうかな。
私、毎週土曜の午前中に大阪で生放送があるので、いつも金曜の夜に前乗りするんですね。東京駅から新幹線に乗る前に、ちょっと寄って一息入れるのにいい止まり木が見つかりました。また必ず寄らせてもらいますね。
――ごちそうさまでした!
(2022年8月12日取材)
撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘア&メイク:ATELIER KAUNALOA
スタイリング:近藤和貴子
衣装協力:ランバン オン ブルー/レリアン(ワンピース¥29,700)
ヴァンドームブティック/ヴァンドームブティック 伊勢丹新宿店(イヤリング¥16,500)
ココシュニック(右中指リング¥27,500左人差し指リング¥18,700)