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団長が行く File No.2

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

「鯉とうなぎのまるます家 総本店」

公開日:

今回取材に訪れたお店

鯉とうなぎのまるます家 総本店

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なぜアノ居酒屋は時代を超えて愛されるの? お客さんが笑顔で出てくるのはどうして? 近ごろ「女一人でちょいと一杯」にハマりはじめた赤江珠緒さんが、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探るべく、名酒場の暖簾をくぐる――。

■午前9時開店という悦楽

清野とおる氏のエッセイ漫画が口火となり、近年にわかに脚光を浴びる東京都北区赤羽。粒ぞろいの庶民派居酒屋を目当てに、わざわざ遠方から通う人も少なくない、呑兵衛には注目のエリアだ。

「鯉とうなぎのまるます家 総本店」は、その名のとおり川魚が名物の居酒屋で、開店はなんと午前9時。赤江団長も“朝から一杯”を楽しもうとオープンと同時に乗り込んだ。

土日は開店前から行列ができるそうだが、平日で、しかも朝から雨天のこの日はスムーズに入店できた。コの字型カウンターが連結した珍しい「Wコの字」の一角に、腰を落ち着けた団長。すでに4、5人の一人客が幸せそうに飲んでいる。

赤江: 瓶ビールと、それから……うなぎのかば焼きをお願いします。

「はい。かば焼きいちま~い」と、女性スタッフがキビキビと動く様が気持ちいい。「ビールお待たせしました」

サッポロラガービールをトクトクと手酌。そして、いただきます!

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

――ぷっはー!

日の高いうちどころか、日が昇り切らないうちからのビールは格別だ。ほかの客と同じ空間を共有するような絶妙な距離感のカウンターも心地よく、初めての店なのに不思議と気分が安らぐ。

「ラジオ、いつも聴いてますよ」と隣客。「私、大阪出身なんで、朝日放送の局アナ時代から観てました」

赤江: ありがとうございます! 大阪なんですか。いかにもお江戸の居酒屋さんという感じのお店で、飲む姿がすっかり板についていらっしゃるので、てっきり地元の方かと思いました。よく来られるんですか?

「ええ、まあ、週3、4回ですかね」

赤江: ええっ!? ほぼ毎日(笑)。 いつもこの時間ですか?

「そうですね。たまに娘とふたりでも来ます。娘は28歳なんですが、ファッションがお姉系なんで、周りから不倫カップルだと思われてるかも(笑)」

赤江: はははは。いやー、お嬢様とふたりでコの字カウンターで一杯なんて、ステキじゃないですか。

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

■夜勤明けの人々を温かく迎える憩いの場

たまたま隣り合った縁を大切に、団長と隣客との話は弾む。

「この近くに工場があるメーカーに勤めていましてね、夜勤明けに寄るんですよ。仕事を終えて、一旦家でシャワーを浴びて、それから。世間的には朝ごはんの時間だけど、私にとっては晩酌です。

お店の方にも顔と注文の好みを覚えてもらえて、いつのころからか私が席に着くと、勝手にサッポロラガービールが出てくるようになりました。お刺身と 日替わりの一品料理で軽く飲んで、うなぎで締めるのがいつものパターン。今日は今シーズン初の水ナスがメニューに上がりました。おひとついかがですか?」

赤江: わー、すみません。それでは遠慮なく……ん、おいしい。先輩、ありがとうございます! まるます家さんで季節を感じていらっしゃるんですね。朝から飲めるこの店は、先輩のような夜勤明けの方には重宝されているんでしょうね。

「この辺りは軍需工場が多かったところで、戦前から24時間稼働している工場がたくさんあるんです。赤羽には朝から営業している飲み屋がほかにも何軒かあるんですが、夜勤明けの人のニーズに応えてきたという面もあるようですよ」

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

町の歴史の一端に触れているところへ、うなぎのかば焼きが到着。タレの甘辛い香りが食欲をそそる。ふんわり香ばしく焼き上げられたかば焼きをほおばり、冷たいビールをグビリ。

赤江: この時間にうなぎを食べたの初めて! しかもビールと一緒に。幸せ~。でも、このご時世に、国産うなぎがこのサイズで2300円とは。1500円のうな丼もしっかりうなぎがのっていて破格ですね。

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

さっき店頭で「いつもタクシーで買いに来るのよー」とうなぎ弁当を買っていかれた方がいましたけど、交通費が多少かかっても確かにわざわざ買いに来る価値はありますね。

■鯉の美味さに目からウロコ

うなぎのかば焼きを運んできてくれたのは、店主の長女である松島和子さん。まるます家は松島さんの祖父・増次さんが創業し、家族や親戚を中心としたスタッフで切り盛りしながら今日に至っている。

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

松島さんが店の成り立ちについて教えてくれた。

「創業は昭和25年。祖父は、当時はまだ高級品だった自転車を預かる商売をしていました。祖父は大のお酒好きで、ひまさえあればあちこち飲み歩いていました。そんな旦那を心配した祖母が、自分たちで飲み屋を経営してしまえば外に出かけなくなると考えて、朝から飲める店をやろうと提案したそうです。

ただ、飲み屋といっても食べ物もおいしくなければいけないと、当初から料理には力を入れたといいます。ここは隅田川や荒川が近く、川魚料理の文化がある地域で、近所にはうなぎの老舗もあります。うなぎを出したい、でも既存のうなぎ屋さんの手前、どうしたものか……。

 

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

祖父が悩んでいると、祖母は『大阪を見てみなさいよ。同じ通りにお好み焼き屋が何軒もあるじゃないの』といって共存共栄の道を後押ししたそうです。祖父は時代を見る目に長けていて、祖母は商才に長けていました。そんな二人が助け合いながら、お客さんが求めるものをできるだけ安く提供することに腐心してきました。

そして、33年前にその精神を受け継いだ私の両親、現社長夫妻の努力によって徐々にメニューも増えていき、より多くのお客様に来ていただけるお店に発展していきました。祖父は店を始めても、結局、外でばかり飲んでいたそうですけどね(笑)」(松島さん)

赤江: へー、店に歴史ありですね。それにしても、朝9時から夜までの営業は大変ですよね。仕込みはいつやるんですか?

「早朝から始めて、営業中もお客さんへ出す料理と平行して仕込みを続けます。鯉は生きているものをその日に使う分だけ捌きます」と松島さんが話すと、「鯉もここの名物ですよ、せっかくですから召し上がってみてはどうですか」と隣客。

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

「ええ、そうですね」と珍しく目が泳ぐ団長……。

じつは、食べられるものは何でも、虫だっていけるという団長が唯一苦手とするのが、鯉である。泥臭くクセのある風味がトラウマになっているという。しかし、ここはオトナの対応を見せ、鯉のあらいを注文。意を決して切り身を口に運ぶ……。

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

赤江: ……ん、あれ? ぜんぜん大丈夫だ、あれ? というか、おいしい! おいしいです!

「うちの鯉は赤城山の麓の水がきれいなところで育ったものを生け簀に置いておきます。泥もしっかりはかせているので臭みはありませんよ」(松島さん)

赤江: 鯉って本当はおいしいお魚だったんですね。おかげさまで、苦手な食べ物が完全になくなりました!

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

■「心は清らかであれ」の商売魂

赤江: ところで、まるます家という店名の由来は何ですか?

「創業者の祖父が増次という自分の名前からとって“ます家”としようとしたそうなんですね。だけど、“ます”は“枡”だから角が立ってよろしくない。それで“丸”で囲んで“丸枡家”としたという話です」(松島さん)

赤江: 先代の想いは今に通じていますよ。いかにも昔ながらの酒場という、どこか凛とした空気が漂いつつも、アットホームな雰囲気も感じられます。このカウンターなら女性ひとりでも寛げます。給仕する方が女性というのも、角を取るのに役立っているんじゃないですか。

「祖父はそこにもこだわりがあったようです。酒を売るのは女性の方がお客さんは気持ちよく飲めると。ただ、身だしなみには人一倍うるさかったです。 化粧は控えめに、パーマはご法度で髪はすっきり束ねなさい、清潔感のある服装をと。朝から酒を売っても心は清らかであれ、 といった信念があったんだと思います。

それに、だらしない酔客には厳しかったですよ。今でも“二軒目としての来店はお断り”“お酒は三杯まで”とさせていただいています。赤羽ブームで土 日は一見さんが多いですが、平日は常連さんがメインですね。節度をもってきれいにお酒を飲む常連さんの存在によって、まるます家の独特の雰囲気をつくって もらっています」(松島さん)

赤羽「まるます家」は朝から“晩酌”ほろ酔い天国

赤江: 幸せそうなお客さんの顔を見ながら、そして女性スタッフの方に見守ってもらいながら、おいしい肴でキュッと一杯。しかも、朝から飲めてお財布にもやさしいときたら、ここはもう天国です。

――ごちそうさまでした!

構成:渡辺 高
撮影:峯 竜也
ヘアメイク:野沢洋子

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