昭和なアニキが語る定番服と赤星の名店「アニ散歩」
市民酒蔵 諸星

<22本目>

バラクータG9と「市民酒蔵  諸星」の煮込み

昭和なジャンパーが似合う男になりたい。クルマ好きの親父が、幼かった俺をよくドライブに連れて行ってくれた時それを着ていた記憶がある。親父は横分けのハンサムボーイだった。気が付けば、俺もあの頃の親父に近い年になった。

日本でスウィングトップと呼ばれるジャンパーは、何といっても英国のバラクータ社のG9だ。スティーブ・マックィーンをはじめ、高倉健さんや松田優作さんなど、俺が憧れる男はなぜか見事にそれを着こなしている。

そんな男くさい昭和なジャンパーを羽織って、横浜の新子安にある男くさい市民酒場へ向かうことにした。

強烈な昭和オーラを放つ暖簾には「市民酒蔵  諸星」の文字が……市民酒蔵って何?  市民酒場じゃないの?とツッコまれそうだが、横浜にだけ存在する市民酒場の成り立ちについては後ほど話すことにしてまずは呑んでみたい。

暖簾をくぐるとそこは完全に昭和遺産な空間だ。

木製の立派な看板に圧倒される。諸星酒場?酒蔵ではなく酒場なのか?いやいやこれは元々酒屋だったのかもしれない。

長すぎる!カウンターパンチに気絶……短冊&丸椅子昇天!  これぞ本物の昭和酒場だ。呑む前からすでに酔ってきた。

年季の入った手書きのお品書きは、どれも魅力的な一品ばかりでこりゃあ迷う。

この素晴らしい空間で「赤星」を注ぐことが俺にとっては最高の贅沢な瞬間だ。

くぅ~最高すぎる!このカウンターだけをつまみに何本でも吞めそう。しかし俺は工務店で働くジャンパーオヤジか?って見えるくらいに市民酒場に馴染んできたかも。気分は「北の国から」の中ちゃん(地井武男さん)だ~五郎!丸太小屋!

気分を富良野から横浜に戻し、まずはサッパリ系のとんみの。豚のモツをオニオンスライスと一緒につまむと絶妙な食感でウマすぎる!

くじらのベーコンをお酢とカラシでいただく。こりゃあたまらん。これをつまみによく呑んでいた天国にいる爺さんの顔をふと思い出した。

ヨコハマと言えばシウマイ。シュウマイではなくシウマイでなければいけない。

ウマ気絶……ヨコハマ昇天!ヨコワケでつまむシウマいーーーねっ!

このまま見つめているだけでも美味いに違いないと確信する煮込み。もう我慢できない……。お前が欲しい。

俺と「赤星」とお前だけの世界。もうすぐだ。あともうすぐ。

口の中でトロけちまった……。強烈に美味い!マジでウマウマすぎるぞ! 濃厚気絶……市民昇天! 味噌味の和風シチューのようでこりゃあご飯が欲しくなる。いやいやパンにも合うかもしれない。

柔らかいトロットロのもつとこんにゃくの味噌ファンタージーなお前に、一瞬で濃い恋に落ちた。

美味すぎて気絶していると、3代目店主の諸星さんが「バラクータいいですねえ~」と起こしてくれた。ブルックス ブラザーズのBDシャツやスタンスミス、VANなどの服飾談義で盛り上がる。

横浜育ちの諸星さんから本牧の伝説ディスコ、リンディの貴重な話を聞き、こりゃあヤングな時に横浜でブイブイ言わせていたに違いないと確信。俺が憧れる古き良き大人の横浜パイセンだ。いつか本牧で一緒に呑んでみたいっす!

ここで酔いが回る前に、カウンターに染み込んだ市民酒場の歴史をおさらいしてみよう。太平洋戦争の末期に物資不足から酒も配給制となった。次第に闇ルートでも酒が高値で取引されるようになり、それを防ぐために神奈川県が横浜の大衆酒場を整理・統合し市民酒場組合を作ったのだ。

店名の前に市民酒場とつく「諸星」、「常盤木」、「みのかん」は横浜3大市民酒場として有名だが、当時200店近くあった市民酒場は他にもいくつか現存している。時代が変わり市民酒場と名のっていないだけなのだ。

ところで「諸星」には市民酒場ではなく市民酒蔵とついている。元々昭和初期に角打ちもできる酒屋として創業し、戦後に酒場として営業をはじめた。暖簾を作り変える際に酒が酒屋のように並んでいるから酒蔵にしてみたところ、いつのまにか「市民酒蔵  諸星」と呼ばれるようになってしまったとのこと

実は正式な店名は「諸星酒場」ということはあまり知られていない。成り行きのゆるい感じもどこか横浜らしくて、いーーーねっ!

常連の強い要望で数年前から「赤星」を扱うようになったと諸星さんから聞き、市民の気持ちに応えているなあ~とほろ酔い気分でいたら、なんとその常連の方が偶然にも来店。正にミラクルな瞬間の中すかさず「赤星」を注ぐ。この方がいなかったら俺は今ここにいなかったはず。最高すぎる出会いに乾杯!

一期一会に酔い、さんざんウンチクを語ってきたが本当は市民酒場でも市民酒蔵でも呼び方は何でもいいのかもしれない。大切なのは、そのマインドだ。「諸星酒場」というこの空間が全てを物語っている。

新子安の地で高度経済成長の昭和に、京浜臨海工業地帯の工場で働く男たちを癒し続けてきた。そして今も市民に愛され続けている。

横浜市民酒場の歴史と伝統を引き継ぎ、男気あふれる3代目店主の諸星さんは今宵も「諸星酒場」の暖簾を守り続けていることだろう。

バラクータのG9ジャケット。20代の頃から着続けて、やっとここ数年着こなせているかもと思えるようになってきた。立ち上がった襟とチラッと見える赤いチェックの裏地が、なんとも男くさい英国製の逸品。ちなみにこれはヴィンテージの古着だがモディファイされた現行モノも着やすくてオススメだ。

Text:Eiji Katano
Photo:Kou Maizawa

店舗情報

市民酒蔵 諸星

[住所] 神奈川県横浜市神奈川区子安通3-289

[TEL] 045-441-0840

[URL] https://tabelog.com/kanagawa/A1401/A140211/14001072/

[営業時間]

17:00~23:00
定休日 土曜・日曜・祝日

【プロフィール】

片野英児(かたのえいじ)
1968年生まれ。昭和とメンズ服飾を愛してやまない48歳。小誌編集長の干場(ほしば)がアニキと呼んだことから、いつしかアダ名がアニキに。趣味は、スナックで昭和カラオケ。呑みすぎると、歌いながら、なぜか干場と泣き合う熱き男。好きな場所は軍艦島。

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