私たち「赤星探偵団」が、
あしで稼いだ“おいしい情報”を発信します

赤星が飲めるお店を探す 赤星が飲めるお店を探す
ブクマーク一覧へ

団長が行く

団長が行く File No.86

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

「酒井商会」

公開日:

今回取材に訪れたお店

酒井商会

ブックマークする

あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の6代目団長・赤江珠緒さんが、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

鉄道4社9路線が乗り入れる交通の要衝。そして東京の、いや日本の、いや世界の文化の発信地である渋谷。

2012年に始まった駅周辺の大規模な再開発は急ピッチに進み、訪れるたびに「あれ? ココ、こんな感じだっけ」「出口どこよ」「ビル、でかっ!」と、変貌を遂げている。もう10年以上急ピッチにもかかわらず、工事の完了予定は2034年度というから途方もない。一体、どんな未来都市が生まれるのか?

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

本日のお店は、そんな最先端の巨大駅・渋谷の駅近。だが、明治通りから少し入った落ち着いたエリアにある。由緒正しい金王八幡宮がたたずむ、大都会のエアポケットのような界隈だ。多くの人にとって渋谷駅の“じゃない側”。

1階にホルモン焼き店が入るビルを2階へ上がる。予約必須の人気店「酒井商会」だ。

渋谷の喧騒とは無縁の世界

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

引き戸を開けると広がるのは、一直線のカウンターとテーブル2卓のみの潔くもシックな空間。
折しも炭火で鶏肉が香ばしい煙を揚げながら焼かれている。

赤江: まさかこんな素敵な空間があろうとは誰が想像しましょうか。エネルギーあふれる喧騒の渋谷駅から、すっと穏やかな大人のモードに切り替えられますね。

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

大人モードの宵を彩るのは、我らが“赤星”、サッポロラガービールだ。

ーーいただきます!

赤江: く〜〜〜〜〜。
日に日に春が近づくこの季節の、ちょっとウキウキしてくる気分に赤星。これがまた美味しいんですよ。

 

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

この日のお通しは「呉豆腐(ごどうふ)」。一般的な豆腐のように豆乳をにがりで固めるのではなく、豆乳に葛粉を加えて温めながらじっくり練り固めた佐賀・有田の伝統料理だ。

赤江: もっちりと、いい食感。豆乳の甘みがやさしく広がりますね。上にのっているほうれん草と本わさびがまたいいアクセントで。
これなら洗面器一杯食べられますが、ここはこらえて(笑)、他のお料理をいただきましょう。

 

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

「酒井商会」は福岡市出身の酒井英彰さんが2018年に開いた店だ。赤江団長は「8年にもなるんですか。お若いのに」と驚く。

「もう結構いってますよ、41歳です。童顔なんで、若く見られますね」と酒井さん。スタッフがキビキビと動く中、的確に指示を出しながら堂々と立ち振る舞う酒井さんには、一国一城の主としての風格が漂う。

 

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

赤江: 福岡といえば博多大吉先生とご同郷ですね。先生には大変お世話になりました。

「子どもの頃、大吉さんは地元のテレビ番組でよく観ていましたね。そして、大吉さんと長年パートナーを組んでいらしたラジオ『たまむすび』もいつも聴いていました。赤江さんが目の前にいらっしゃるのがすごく不思議です」

赤江: ありがとうございます! 赤星探偵団の取材でわかったことですが、私がやらせていただいていたラジオは料理人の方の仕込み作業のお供にちょうどよかったらしく、「たまむすび聴いてた」は、割と“料理人あるある”のようですね。お仕事のお供にして頂けたなら、ほんと光栄なことでした。

 

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

お造りから蒸し物のお椀、焼き物、揚げ物、酒肴まで魅力的な品がずらりと並ぶメニューとしばらく睨めっこして、ウムムと唸っていた団長。意を決して本日の打線を組み立てた。

先陣切ってお目見えしたのは、お造り三種盛合わせ。この日は熊本・天草の真鯛とアオリイカ、京都・舞鶴のメジマグロ。当店のお造りは味付き。真鯛は梅干しを日本酒で煮詰めた煎り酒で、アオリイカは塩と酢橘で、メジマグロはニラ醤油でいただく。

 

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

赤江: 三者三様に美味しいなあ。煎り酒はほのかな梅の香りと塩味が真鯛の繊細な旨みを引き出してくれるし、アオリイカも甘みがグッと際立っておりますぞ。そしてまた、ニラ醤油とはお初ですが、パンチのある風味がメジマグロの力強い旨みと抜群に合っておりますよ。

 

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

続いてのお出ましは、筍まんじゅうのお椀。丁寧にひかれた鰹出汁に浮かぶのは、タケノコとタケノコの先端のやわらかい姫皮だけで作ったまんじゅう。

お出汁をひと口、まんじゅうを口にした団長は、右斜め45度を見つめ独りごちた。「春ですなあ」と。

赤江: こちら和食居酒屋さんとうかがっておりましたが、こんなに本格的な日本料理のお椀をいただけますとは。酒井さんのお料理はとても繊細で、素材本来のお味が真っ直ぐに伝わってきます。お料理の世界はいつからですか?

 

とにかくサーフィンがしたかった

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

福岡での大学時代に居酒屋でアルバイトをしていたという酒井さんだが、当時は料理の道へ進むことははまったく考えていなかった。大学卒業後は、サーフィンをしたいとオーストラリアへ渡った。

赤江: サーフィンはいつから?

「18歳からですね。それまでひたすら野球をしてきたんですが、高3で引退して急にヒマになった時に、家の近所にあったサーフショップをのぞいたのがきっかけで。大学時代もサーフィンに打ち込んで、普通の就職は考えず、ワーキングホリデーを利用してオーストラリアのサーフィンが盛んな場所へ行きました。働き先は決まっておらず、レストランに飛び込みで掛け合って働かせてもらうようになったんです。皿洗いです」

赤江: サーフィンとの出合いからして行き当たりばったりの波乗り人生ですなあ(笑)
まだ今のように情報もあまりない時代ですよね。すごい行動力です。働きながら英語を覚えていったんですか? 料理の腕もそこで磨いた?

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

「レストランでは自分以外はみんなオーストラリア人だったので、実践で英語学んでいきましたね。ストリート英語です。その店のシェフが人間として素晴らしく、憧れの存在になって、自分も料理の道を歩んで行きたいと思うようになりました。スタッフが辞めていき、自分も次第に料理を任されるようになって、結局3年弱オーストラリアで働きました」

赤江: 午前はサーフィン、午後からレストランの生活とな。理想の暮らしを実現したわけですね。

シェフには酒井さんの正規雇用と就労ビザの取得も提案されたが、酒井さんは一度日本で就職した方がいいと帰国。東京の老舗のフランス料理店に入った。

「完全にクラシカルなフレンチだったので、料理人はお客様との接点がまったくない世界。技術を深めることができましたが、自分が目指すゲストとの対面の営業スタイルを追求したい転職しました。数字の管理など任せてもらえるということでいろんな業態の店を展開している会社に入り、ハワイアンダイニングの店を担当しました。さらに、自分が目指す店のイメージに近い居酒屋『並木橋なかむら』で勉強させてもらいました」

赤江: そして独立、となるわけですね。すごい!
大学出てサーフィンしにオーストラリアへ、という話に、子を持つ親のひとりとしてはハラハラしましたが(笑)、酒井少年、立派に成長しました!

 

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

「牛肉と加賀蓮根の八丁味噌きんぴら」がやってきた。牛肉はこれでもかとたっぷり。蓮根はきんぴらによく見られる薄切りではなく、大きめの乱切り。主役を張っているのは蓮根の方かもしれない。

赤江: ん゛ーーーー美味しいっ! 加賀蓮根さん、牛肉に負けず主役を張っております。シャックリコックリの食感と爽やかな甘み、たまらんです。そして……(ビールをゴクリとやって)赤星とも合うんだよなあ。

「加賀蓮根、美味しいですよね。金沢の生産者を訪ねたことがあるんですが、加賀蓮根ではめずらしく減農薬で育てられているんです。本当に力強い風味の素晴らしい食材です」

赤江: 現地へ行かれましたか。生産者のところへはよく行かれるんですか?

「休日を利用して、できる限り回っています。酒も扱っている焼酎の蔵はすべて、日本酒も9割は蔵を見学させてもらいました。やっぱり自分の目で見なければわからないことが多いですし、作り手の人柄を知ると、調理にも自然と力が入りますから」

 

時に繊細、時に大胆な料理

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

名物のひとつ「雲仙ハムカツ」が揚がった。ハムカツの概念を覆すこの厚み。使っているのは、長崎・雲仙の麓で育った豚肉で作った、いわゆるボローニャソーセージだ。添加物と塩分が極力抑えられていて肉の旨みがたっぷり詰まっている。

赤江: うん、うん、うん。間違いない美味しさ。ハム自体のおいしさもさることながら、この薄衣での絶妙な揚げ具合。お見事。酒井さんのお料理は、時に繊細、時に大胆。楽しさも伝わってきます。
料理には小さい頃から興味があったんですか?

「まったくなかったですね。とにかくお腹いっぱいになればいい、毎食、唐揚げ、ハンバーグ、生姜焼きが理想みたいな。店を出した時、家族も不思議そうな顔をしてましたね、『本当に料理できるの?』って」

赤江: ははははは! ご両親も喜ばれたことでしょう。そして安心されたはず。サーフィンしにいくわと日本を飛び出した我が子が、ものすごく美味しい料理を作ってくれるなんて。

 

 

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

「うちは父と母がそれぞれ自営業をやっていて、親戚もみんな自分で事業をやっている人ばかり。自営業の家系なんです。『酒井商会』という屋号は、祖父がやっていた部品製造の会社の社名を受け継がせてもらいました。」

赤江: もっといろいろいただきたいところですが、今日は涙を飲んで〆に入らせていただきます。

 

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

五島うどんのほか、季節の食材を使った土鍋ごはんが揃うのも当店の魅力だ。団長は「ずわい蟹と菜の花」の土鍋ごはんを選んだ。

ふたを開けると、ほぐしたカニの身がごはんが見えないくらいにどっさり。ごま油でさっと炒られた菜の花と柚子の皮の千切りが華やかな山の風情を添えている。

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

赤江: お・い・し・い! こんなにもカニの味に満ち満ちたごはんは初めてです。菜の花の春の苦味がまたカニの上品な甘みを引き立ててくれます。

酒井さんは2020年に広尾に2号店「創和堂」をオープンさせた。赤江団長は昨年、ラジオ共演者らに連れられ、偶然にも同店に伺っていたことが話の中で判明した。さらに2022年には「酒井商会」の上階に、薪火と発酵の料理の店「SHIZEN」をオープン。数年後にはニューヨークへの出店も計画中だという。酒井さんの挑戦は止まらない。

赤江: 今も九十九里でのサーフィンとお仕事を両立されているとのこと。ぜひビジネスの波も軽やかに乗りこなしていってください!

渋谷「酒井商会」私の“とっておき”にしたくなるシン・都会派酒場

ーーごちそうさまでした!

(2026年2月24日取材)

撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘア&メイク:上田友子
スタイリング:村上利香
衣装協力:ワンピース/PLAIN PEOPLE

この記事シェアする