あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の6代目団長・赤江珠緒さんが、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。
豊洲で屈指の人気寿司店へ
寒いったら、ありゃしない。1分でも1秒でも長く温かい布団にもぐり込んでいたいところだ。
……が、この日の朝、赤江珠緒団長はスッキリと目覚めた。豊洲市場へ行くのだ。
仕入れに行くわけではない。お目当ては市場めし。ちょっと張り込んで、寿司のブランチだ。
豊洲市場には39の飲食店がある。巨大な施設は水産仲卸売場棟、水産卸売場棟、管理施設棟、青果棟で構成されていて、飲食店は3つの街区に点在している。目指すのは4店舗が集まる5街区の青果棟。指折りの人気店「大和寿司」だ。
「大和寿司」は6時開店。行列ができることも多い。首尾よくネットで予約していた団長はするりと入店。
何はともあれまずは一杯。頼むのはもちろんサッポロラガービール、我らが“赤星”である。
赤江: やってきました。念願の豊洲で赤星でございます。
ーーいただきます!
「ぷふあぁ」と幸せな吐息を漏らした団長に、「朝飲むビールが一番うまいですよね!」と満面の笑みを見せるのは、二代目の入野成広さん。
「寿司屋って、すごく小さなグラスで出す店が多いですよね。でもビールってゴクゴク飲んだ方が美味しいじゃないですか。だからうちでは大きめのグラスにしているんです。僕なんか知り合いの店では、ジョッキを使わせてもらってグビグビ。そうやって飲む赤星が、またうまいんだよねえ」
赤江: はははは! 長いこと団長をやっていますが、赤星をジョッキで、は未体験です(笑)
確かにお寿司屋さんでも、かしこまらずにゴクゴクやっていいですよという雰囲気はありがたいです。
当店は、寿司7貫と巻き物、玉子、汁のおまかせセット、または、お好みで寿司を楽しめる。団長はおまかせセットをチョイス。握ってもらう前に、白子ポン酢を肴にしばらく喉を潤すことに。
赤江: おっ! 美味しいーー。このレアな感じの火の入れ具合、絶妙ですね。プリッとしているのに噛むとトゥルン。プリトゥル。クリーミーな美味しさに、苦味の効いた赤星がよく合いますこと。
さあ、準備万端整った。握っていただこう。
「お寿司はお味が付いていますので、そのままどうぞ」と入野さんが差し出したのは本マグロの大トロ。青森は八戸に揚がったものだという。
赤江: のっけからボスキャラ登場! まあ脂も見事。紅白のめでたいお姿よ。
どれどれ……ふんっ、むっ、(しばし鼻からの呼吸も荒く)おいひぃーー!
マグロの仕入れ先は、最高級のマグロを扱うことで知られる「やま幸(ゆき)」。優劣の判断が極めて難しいマグロの目利きにおいて、「大和寿司」が全幅の信頼を寄せているマグロ仲卸だ。「やま幸」に任せていれば間違いないと入野さんは太鼓判を押す。
「うちでは釣り上げてから一度も冷凍せずに届けられるマグロにこだわっています。香り、コク、脂のキレ、すべてにおいて冷凍物とは比べものにならない。大トロなのにくどくなくて、上品ですよね」
赤江: いやはや驚きました。こんなに違うもんなんですね!
そして、青森の寒平目。澄んだ白身が神々しい。
赤江: こりゃまた美味しいなあ。ブリンブリンですよ。脂がのっていて、噛めば噛むほど旨味が広がっていきます。パチパチパチパチ!
マグロに自信あり
歓喜しているところへ、「お次は中トロ。うちの看板です。大トロと同じ八戸のもの。違いを味わってください。うまいマグロは、
ポン、ポンと、このテンポのよさが寿司のいいところだ。
赤江: なんときめ細かい脂が入っていることでしょうか。観賞用に持ち帰りたいくらいですが、いただきます
……お゛ーーーなーるほーどー。超えてきた。超えてきましたよ、大トロを。赤身と脂のほどよいバランスと、滑らかな舌ざわり。大トロよりも旨味がぱっとと広がります。余韻も心地いいですね。
「中トロには特別なうまさがありますよね。赤星のようにしっかりした味わいのあるお酒との相性がいいです。実は赤ワインも抜群に合んですよ」
でしょうよ、でしょうよと余韻に浸っているところに、ボタンエビが現れた。この日は北海道のものだ。
赤江: 甘い! なんて甘いんだ! そして、なんて深いんだ、旨味が! 思わず強調したいくらいですよ、倒置法で。
肉厚でプリプリの新鮮なボタンエビは、一晩寝かせることで甘みを高めているのだとか。
赤江: 美味しすぎる……。ちょ、ちょっと赤星を飲んで落ち着こう。
「エゾバフンウニです」
赤江: キャーーッ!
赤江: あなたが近年大変な高騰を見せているウニさんですかい。高級店同士で取り合いになっているというエゾバフンウニさんですかい。これまた上等な海苔の軍艦に、たっぷりと乗り込んでいただきましてありがとうございます。
高性能レンズの力を借りよう。この日のウニは特によさそうだ。表面の微細が粒々がこんなにピンと立っているなんて、そりゃモノ自体がよく、かつ新鮮なウニであることは間違いない。
団長はパクリとほおばる。うまさに悶絶し、そして余韻に浸って瞑想状態に入った。
この時間に店について解説したい。
「大和寿司」は築地場内市場で1962年に創業した。入野さんの父、信一さんが開いた店だ。1990年頃までは、場内の飲食店の客は市場を利用するプロだけで、一般客はほとんどいなかった。「大和寿司」は仕入れを終えた料亭の旦那衆らが一杯やりながら情報交換するような店だったという。90年代に入り世の中がグルメブームに沸くと、場内の飲食店は食のプロ御用達の店として注目されるようになり、とりわけ鮮度抜群の魚を扱う寿司屋は人気の的となった。
2018年、市場の豊洲移転に伴い、「大和寿司」も移転開業。店の広さは倍になった。
「築地の店はもう手狭でしたし、建物も老朽化が激しく漏電して大変でした。今は快適な労働環境ですね」と入野さんは笑う。
赤江: 大将は子どもの頃から跡を継ぐつもりだったんですか?
団長は正気を取り戻したが、また氷見の天然ブリの握りを味わうや、意識が遠のきそうになっている。
「高校まで野球しかやっていなくて、そのまま野球の道へ進めたらと思っていたけど、上には上がいてちょっと無理な夢でしたね。部活の監督に『お前はここに行け』と言われるままに料理の専門学校へ行って、都内の寿司店で5年修業しました。もっとよそで勉強したかったけど、親父に手伝えと言われて、以来、ずっと大和で握ってます」と入野さんは話す。
赤江: 朝6時からの営業だと、大将は何時に起きるんですか? えっ!? 1時45分? もうそういう身体になっているから苦でもないとな。さすが市場のお寿司屋さんですねえ。
「休日も自然と目が覚めます。まず熱燗を一杯。ゆっくり飲んでいると、いつの間にか二度寝してます。それが明け方くらい」
赤江: もう何がなんやら(笑)
SNSが普及してから海外の客が増えたと話すのは、入野さんの弟で仕入れ担当の光広さん。
「半数以上は外国人ですね。香港、台湾、シンガポール、早朝はセリを見に来たアメリカ人、最近はイタリア人が一気に増えましたね。どうやらイタリア人がよく見るサイトで紹介されたらしくて。みんなカタコトの英語でがんばっています。日本の寿司屋なのに」と光広さんは笑う。
穴子は長崎の対馬産。見るからにふっくらと煮上げられている。巻き物は、石鯛とイクラを一緒に巻いたものと、赤身の鉄火巻きだ。
赤江: 穴子がホロリとほぐれて自然と溶けていくよう。最高です。巻き物も、握りとは違ったおいしさがありますね。
青森、北海道、富山、長崎、赤江の頭の中の日本地図には寿司のアイコンがマッピングされております。さすが日本中、いや世界中から一級の食材が集まる豊洲ですね。お客さんもワールドワイドで。
市場のめし屋の矜持
厳選されたネタのめくるめく世界を堪能した団長は、お茶をすすってようやくひとごこちついた。
赤江: 大和さんは、お味は第一級なのにリーズナブルで、気さくな雰囲気、超高級店のように緊張せずにいただけるのもうれしいです。
「寿司屋ってのは本来めし屋ですからね。肩肘張らずにもりもり食べていただいてなんぼですよ」というのは光広さん。市場めしをリードしてきた店の矜持である。
そして、「よそじゃなかなか食べられないものも、ありますよ」と悪魔のささやき。冷凍していないマグロを、サクではなく、皮付きのもっと大きな塊で仕入れているからこそ味わえる品だという。
そんなことを聞かされたら、食べずにおられようか。いや、おられまい。
かくしてやってきたのは、一見すると牛のたたきのような一品。本マグロの皮のすぐそばの肉を炙ったものだ。
赤江: いやぁ、これは今まで経験のない味わいです。なんともオツですなあ。とても上等なお肉の味。でもお肉と違って、海の風味もします。
「そうなんです。肉でもあり魚でもあるようなマグロの魅力が詰まった部位なんです。これが冷凍物だと脂のにおいがきつくなってしまって、こんなふうには味わえません。コレ、おつまみに最高じゃないですか。どうですか赤星、もう1本?」
赤江: そうですね、もう1本いただいて、後ほどお店の片隅で二度寝させてください。
というのは冗談でして(笑)、もうお腹いっぱいいただきました。
寿司とビールを堪能して、まだお昼前というのは、この上ない幸せです。朝寿司、ハマってしまうかも。またおじゃましますね。
——ごちそうさまでした!
(2025年12月12日取材)
撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘア&メイク:上田友子
スタイリング:入江未悠





と赤星
と赤星


