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100軒マラソン File No.34

駒込で47年、「町のお寿司屋さん」は気前がいい

「常寿司」

公開日:

今年の冬はとにかく寒い。北国の人から見たら大したことないし、雪が降ったくらいでなんだ、ということなんでしょうけれども、私ら東京モンにとっちゃ、これはもう、けっこうな大寒波であり、大雪だ。

先般、今はまだ詳しくは書けませんが、とある美女と根岸の老舗で一緒に飲むという僥倖に恵まれまして、たいへん光栄なひとときを過ごさせていただいたわけですが、その晩というのが、ほら、あの大雪の日でした。

雪見酒なんですよ。本来なら風流な酒です。ところが、あの、あまりの降りと寒さに、どうしても気持ちがもっていかれてしまう。あたくしの住む多摩南西部に思いを馳せれば、ああ、今頃、家の上の丘はすっぽり雪をかぶり、車の通行はおろか、人の歩行も困難な状況になっているに相違ない。てなことが頭をよぎれば、どうしても心配になる。

駒込で47年、「町のお寿司屋さん」は気前がいい

けれども、不安になるのも、実は束の間。酔うほどに生来のお調子者気質がチロチロと燃え始め、そこに酒という燃料が追加されるものですから、あとはもう、ボンボンと燃えてしまう。それで結局のところ、一人になってからもトコトンやってしまったのでした。

本当に寒かったのは、翌日からでしたね。我が家のほうでは最低気温がマイナス7度。こうまで寒くちゃ飲まずにいられるか。ということにもなるから、私のバカは死んでも治らない気がしますが、まあ、ひと言で言うならば、それから寒いことを理由に酒を飲み続けた。

そうして、あの大雪から1週間が過ぎた1月29日の晩、私は駒込のお寿司やさんの前にいた。

駒込で47年、「町のお寿司屋さん」は気前がいい

■いいねえ、どれもうまそうだ

店の名前は、「常寿司」さん。JR山手線駒込駅の東口改札を出て、山手線の内側のアザレア通りに入って、しばらくで左へ折れると、その道には小さな飲食店もちらほらと見受けられる。そして、ちょっと歩いた左手に、この店はある。

月曜日の午後8時半。外は凍てつく寒さだが、そっと店を覗いてみると非常に賑わっている。入店不可能か。一瞬、そう思うのだが、引き戸を開けてみると、カウンターの奥に席が残っていた。

店内で賑やかに飲み、食べ、話に興じているのは、常連さんらしい。会話の半分は英語ですよ。駒込の、ちょっと下町感の漂うお寿司屋さんで、日米のビジネスマンが憩っている。なかなか素敵な光景です。

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店内は、外とは打って変わって暖かい。というより、これだけ人がいると、むしろ暑いくらいで、さっそくコートをかけて、カウンター席につく。

さあ、まずはビールだ。

「はい、お待ちどうさま」と店の若奥さんがすぐさま出してくれたのは、サッポロラガー、赤星。中瓶をさっそく傾けてグラスに注ぎつつ、なにを食おうかなと、壁の品書きに目を走らせる。

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そうして、目を走らせながらも、飲む手を止めるわけではないのだ。グラスに口をつけるや、ゴクリとひと口。乾いた喉に沁みる1杯。毎度のことながら、真冬のビールがなんともうまい。

はい、お通しです! 若主人が出してくれたのは、白バイ貝煮とワカサギの南蛮漬けだ。いいねえ、いいねえ。

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さて、続きをどうしようかな。

こちらは事前入手の情報によると、貝類がいいというのが、ひとつの評判。ほかに、白子焼きがいいだの、握りのボリュームがたまらんだの、いろいろあって、注文に困るということはないのですが、なんかこう、最初は渋く、ゲソ焼きなんかで始めたい、なんて気持ちにもなってくる。

ところが、私たちの入店まから賑わっている店内は、どうやら、10人ほどのお連れさんのようで、お酒も食べるほうも、そこそこに進んではいるが、まだまだ追加をしますよ、という頃合いに見える。

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実際、カウンターの中では、若主人と、おそらくはそのお父さんのご主人のお二人が、手を休める暇もない。ここは、もうしばらくビールを飲んで、頃合いを見て何か切ってもらうとしよう。

私は赤星の中瓶を手に、寿司ゲタに置かれる握りを眺める。先客さんたちのための握りだが、うまそうなブリに、シメサバ、それから白エビの軍艦巻なんかも出てきた。いいねえ、どれもうまそうだ。

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そして、みなさんに配られたお椀は、ドジョウ汁である。日本人のホスト役の方が外国からのお客さんに説明をしているのを聞くと、スモール・イールと言っている。

イールってのはたしか、ウナギだったよな。ははあ、まあ、小さいウナギみたいではありますな。まあ、このへんはシャレみたいなものでしょう。ドジョウを英語でなんというか知らないけれど、そもそも、アメリカとかイギリスとかに、ドジョウはおるのかいな……。

と、余計なことを考えながらビールを飲むわけですけれども、なかなか想像がつきかねる。仮にドジョウがいたとして、それはウナギみたいにでかいんじゃないのか? なんてことも頭に浮かんできて、これはこれで楽しいひとときというものです。

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■お任せの刺し盛りの豪勢なこと

そうこうするうちに、陽気な10人様、次の店へとお出かけになります。

カウンターと、テーブル1卓には、寿司ゲタ、小皿、箸、コップにお猪口が大量に残るわけですが、それを片付けはじめたのが、ご主人と、少年です。ちゃんと仕事着を着て、頭には手ぬぐいのねじりハチマキをしている。

この少年の口から、おじいちゃん、という言葉が出た。ご主人、若主人、そして3代目ということなのでしょうか。とにかく、少年は店の一員としてちゃんと仕事をしているのです。いい光景だねえ。

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聞けば、この、10歳になるという少年は、若奥さんの息子さんなのですが、奥さんと若主人と思ったふたりは実はご夫婦ではなく、どちらもご主人の子どもたち。若主人がお兄さん、奥さんは妹さんなんだそうです。

若主人と妹さんは駒込生まれの駒込育ち。お二人とも、ごくごく小さいころから店で遊び、店を手伝いながら大きくなったという。

今の少年と同じことをしていたふたりが、やさしく子供を見守っているわけですな。家族で店を切り盛りする典型的なパターンですが、ほのぼのとしてなんとも羨ましい光景です。

駒込で47年、「町のお寿司屋さん」は気前がいい

さて、店の空気も落ち着いたところで、つまみを切ってもらいます。

先ほどのお客さんたちが豪快に召し上がったので、もう品切れのネタもけっこうあるよ、ということでしたが、お任せでつまみを頼んだところ、それはそれは豪勢な刺し盛り(3人前)が出てきた。

貝類は、赤貝、ツブ貝、ホッキ貝にミル貝。加えてスミイカ、甘エビ、シメサバに、寒ブリ。

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これらを手早く切り分け、盛り付けながら、ご主人がお話を聞かせてくれました。

「私は15歳のときに修行に入りまして、赤羽、板橋などで仕事を覚えてね。27歳のときにこの駒込にきて、自分の店を持ちました。昭和46年です。

当時、バーはあったけど、まだスナックもなかったから、カラオケなんかない。だから、駒込にも5、6人の流しがいて、店々を回って歩いていました。そのころの駒込は、都内で5番目くらいに飲食店の数が多い街だったんですよ。

こちらのほうに家のある銀座のホステスさんがアフターでお客さんを連れてきたりしてね、深夜の12時から3時くらいがいちばん忙しかった。だから、毎日、朝の4時とか5時くらいまで営業していたな。店を閉めてから、寝ないで河岸へ仕入れに行くんだもん、遊ぶ時間はぜんぜんなかったです」

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仕入れは今、2代目の若主人が行っている。毎晩、営業を終え、後片付けをしてから帰宅し、風呂に入り、遅い晩飯を食べながら缶ビールを1本だけ飲む。そうすると、だいたい3時、4時になる。少し寝て、8時には河岸へ仕入れへ行き、ざっと仕込みを済ませてから、午後、また少し仮眠をとる。なかなか真似のできることではありません。

「まあ、慣れですよ」と若主人はこともなげに言うが、寿司職人は捌けた客さばきも腕のうち。夜の営業時間中は、料理だけでなく、気さくな会話でも客を楽しませる。それを考えると、客として好きなときに出かけていって好きなものを頼み、ああ、うまい、うまい、と、飲んだり食ったりしている時間をもてるという、ただそれだけのことが、なんだか妙にありがたく感じられる。

「常寿司」という店には、そういうことを思わせる、温かみがあるようです。

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■でかくて、うまくて、安い

お酒に詳しいのは妹さん、つまり、少年のお母さんだ。常時15種類ほどの銘酒を揃え、客の好みや酒肴に合わせながら、おすすめの1杯を提案してくれる。

私は、福島の「会津中将」の純米吟醸をいただくことにした。シャリっとした歯ごたえで口中を幸せにしてくれるのは赤貝。そこへ上品なシメサバと、甘いとさえいいたいような寒ブリ。次々に口へ運べば、酒の味もいっそう引き立つ。

駒込で47年、「町のお寿司屋さん」は気前がいい

駒込もずいぶん変わったとご主人は言う。地元のお客さんだけでは成り立たない駒込での商売は簡単ではなく、昔の店もずいぶん姿を消した。その中にあって、開店以来47年、暖簾を守ってこられたのは、何故か。生意気なから、伺ってみました。

「いいネタを安く。景気のいい時代からずっと、それを心がけてきました。高いんじゃ、当たり前です。いいものを安く。それをコツコツやってね。支店だそうとか、そういうことも考えなかった。それがよかったのかな」

3代目を見るときのご主人の目が、とにかくやさしい。

駒込で47年、「町のお寿司屋さん」は気前がいい

いい店に出会ったなあ、と、早くも軽く感動する酔っ払いは、ひかりものの握りを頼んでさらに嬉しくなった。

釣り物の立派なアジも、脂ののったイワシもサバも、質もさることながら、ネタがでかい。お見事、というしかないほどの気前の良さが、そこに如実に表れている。嬉しいねえ。でかくて、うまくて、安い、ということは、なによりありがたい。

今度は早い時間に来て、もっとゆっくりと飲もう。そう心に決めて、この日は店を出た。いい時間を過ごした後は、ぴりっとくるこの冬の寒さも、かえって心地いいものです。

駒込で47年、「町のお寿司屋さん」は気前がいい

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

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