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団長が行く File No.31

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

「老酒舗」

公開日:

今回取材に訪れたお店

老酒舗

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あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の4代目団長・市川紗椰が、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。

■ノスタルジック中国酒場

南北に伸びる上野アメ横の南の起点、JR御徒町駅。駅からガード下を南へ辿っていくと徒歩2分ほどで現れる中国料理店「老酒舗」が、今回の舞台だ。真上を、山手線と京浜東北線が行き交っている。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

中国の昔の大衆酒場をイメージして作ったというこの店は、どこか70~80年代のカンフー映画のセットのような雰囲気を持っている。今にもジャッキー・チェンと悪漢たちがわらわらと飛び出してきそうな気さえ、する。

敵の攻撃を酔拳で巧みにかわし続けるジャッキーは、店先に立つ市川紗椰団長と目が合い、一瞬、格闘を止めて一言。「ここ、おいしいよもつ煮込みと土鍋料理が特にオススメ」。バフッと腹にキツーイ蹴りを喰らいつつも、巧みに防御しながら苦笑いで去っていくジャッキー……食えない妄想はこれくらいにして、いざ店内へ。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

「目の前に来て気がついたんですが、実は、こちらのお店、割と最近にも来てました。他のお店で飲んでから、ちょっとだけ寄って行こうかと、何も知らずにふらりと入ったの」と団長。なんと! 近くにある「羊香(ヤンシャン)味坊」からこの「老酒舗」へのハシゴだったというから驚きだ。

何が“なんと!”なのかというと、この両店はどちらも知る人ぞ知る「味坊グループ」の店。中国東北料理の人気店、神田「味坊」を皮切りに、鉄鍋での煮込み料理が名物の湯島「味坊鉄鍋荘」、羊料理がメインの御徒町「羊香味坊」、ここ「老酒舗」、湖南料理の三軒茶屋「香辣里(シャンラーリー)」と、すべてコンセプトの異なる店を展開し、いずれも大繁盛させている業界でも注目のグループなのだ。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

人気のワケは、日本では珍しい中国東北地方の郷土料理が食べられること。紹興酒や白酒をはじめ、代名詞の自然派ワインなど、お酒のラインアップも文句なし。しかも、たらふく飲んで食べてもめっぽう安いと、とにかく最強。団長のうまいものセンサーがビッシビシ反応したわけだ。

「老酒舗」は、入ってすぐ左手が広い厨房スペースになっていて、料理人たちが鍋を振るその熱気は、ガラス戸の外からも感じ取ることができる。煮たり焼いたり茹でたりと下拵えされ魅惑の色香を帯びた肉塊の脇を通り抜けると、まだ何も食べないうちから、胃袋が戦闘モードに切り替わる。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

前置きが長くなったが、百聞は一見に如かず。今日は後先考えずに気になるものをオーダーしまくる作戦だ(マネージャー、ヘアメイク、スタイリスト、カメラマン、編集者、収納できる胃袋はたくさんある)。

戦いの始まりを告げる嚆矢はもちろんサッポロラガービール“赤星”。水冷式冷蔵庫でキンキンに冷やされた大瓶がやってきた。

――いただきます!

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

市川: はー。おいしさが、しみる! 赤星の一口で、空腹レベルが危険水域に入りました(笑)。

さて、何からいきましょうか……。お、目の前の壁に酔っ払い海老発見! これはすぐ出るでしょうから、スターターにいただきながらじっくり考えることにしましょう。

■目移り必至、魅惑のメニュー群

「老酒舗」には約80種類もの料理がある。それも、日本人には料理名からは味の想像がつかない、マニアックなものがほとんどだ。見慣れない漢字が並ぶメニューに苦戦する団長のもとに現れたのは、オーナーの梁宝璋さん。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

「餃子好き? 中国の田舎の家庭で食べられてる餃子はおすすめだよ。それから、前菜なら、これも珍しい。昆布の香り和え。意外かもしれませんが、中国の内陸部では結構、昆布を食べるんですよ。中国コロッケは、ジャガイモの代わりにオカラを使ったコロッケ。おいしいよ。

肉が大好きなの? うちの山羊は皮付きで茹でているから、ぜひ食べてみて。鴨もいいよ、煮込みも、焼いたのも」

次から次へと飛び出す魅惑のワードに小躍りしながら、「じゃあ、それ! あ、それも!」と、立て続けに注文する団長。後先は、考えていない。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

最初に登場した酔っ払い海老は、生きた車海老を紹興酒などに漬けたもので、中国では広く食べられている前菜。「老酒舗」では、コーリャンなどを原料にした焼酎、白酒に漬け込んでいる。

市川: おいしぃー。(頭をバリッとむいて)このミソのところがたまりません。もう、この海老で酔っ払うまで食べ続けたい。

そうそう、この店の魅力がもうひとつありました。何を頼んでも、出てくるのがとにかく早い! 海老の美味しさに酔っているうちに、料理が次から次へとやってきて、テーブルはいつしか、“プチ満漢全席”状態に。

すべてをリポートするとえらいことになるので、特に印象的だったものをダイジェストでお伝えしよう。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

【中国家庭風焼き餃子】
一度茹でた水餃子を焼く、家庭の焼き餃子。餡は野菜のみ。

市川: 皮がプリッとしていながら、焼き目が香ばしくて絶妙。本気出せばいくつでもいけそう。

【昆布香り和え】
切り昆布をパクチーなどと和えたシンプルな冷菜。

市川: これ、おいしいー。ごま油とパクチーがいい香りで、しっかり中華のお味。初体験のおいしさです。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

【漬物大豆炒め】
青菜の漬物と大豆、豚肉の炒め物。ビールのお友に最高。

市川: 母の故郷の岐阜でもお漬物を味噌焼きにしたりするので、どんな味か気になって……。お漬物の酸味がほど良くて、これは美味!

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

【もつ煮込み】
豚の内臓各部位をふんだんに煮込んだピリ辛の一品。

市川: あぁ、梁さんが強くオススメしていたのも納得。私の中のもつ煮込みの地平が切り拓かれた感じ……おいしい。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

【茹で山羊肉 辛辣ソース】
梁さんの説明通り、皮付きでボイルされた山羊肉。辛いソースがよく合う。

市川: コラーゲンたっぷり。山羊の香りもしっかり感じられてクセになります。卓上にある自家製ラー油をかけてもおいしい。この手の本格派ラー油は下に沈んでるジャリジャリした香辛料が特においしくて、私は心の中で「おいしい砂利」って呼んでます(笑)。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

【牛すじの土鍋煮】
「老酒舗」名物の土鍋料理の中でも人気の一品。牛すじがゴロゴロ、アツアツ。

市川: 寒い冬にピッタリ、じんわりおいしい。これも「おいしい砂利」をたっぷりかけていただきます(笑)。お酒が進むし、ごはんにかけたら、たぶん最強。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

【麻辣串】
肉やホルモン、コンニャクなどを痺れる辛さのタレで煮込んだピンチョスおでん。1本あたり40円也。

市川: おいしいし、楽しい! これ、まるで凶が入っていないおみくじ。ワタシ、言ってること変かな?

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

■じんわり旨い料理のヒミツ

オーナーの梁さんは中国黒竜江省チチハル市出身で、在日24年の56歳。梁さんは、食べるのが大好き。お酒にも目がない。日本で親戚の仕事を手伝っていたが、自分の料理店を開くことにした。目指したのはお母さんの味、昔ながらの中国東北地方の家庭料理だ。

市川: 私も中国料理は大好きなんですけど、日本では、北京・上海・四川・広東といった大きなくくりでしか語られないですよね。梁さんの故郷の家庭料理には、どんな特徴があるんですか?

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

「チチハル市の冬は厳しくて長いです。冬の間は農作物がとれないので、いろんな保存食を活用します。代表的なのが、昆布や干豆腐などの乾物、そして漬物ですね。乳酸発酵させた野菜は、煮込みや炒め物などさまざまな料理に活用します。漬物の旨味を生かすと料理がすごくおいしくなる。うちでは化学調味料は使っていないんですよ」

市川: 確かに、どれもガツンとおいしいんだけど、後味がやさしいの。だからいくらでも食べられちゃうんです。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

今日、いろいろいただいて気づいたのは、日本の伝統的な料理との共通点も多いということ。でも、食材や調理法が日本と似ていつつも、味は「あ、こうきたか」と初めての中国料理体験になるの。だから、あれも食べたい、これも試してみたいと止まらなくて……。

発酵野菜のお鍋も2種類ありますよね。白菜の漬物と豚肉を煮込んだ発酵白菜土鍋と、トマトと大根を発酵させた出汁を使う肉団子発酵出汁。今、どちらにしようか迷っていて……。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

ここで団長が下した決断は、ダブル発酵鍋のリャンメン待ちだった。

市川: (2種類の発酵鍋を食べ比べて)わー、甲乙つけがたいなぁ。全然違っていて、どっちもおいしい!

発酵白菜土鍋は漬物の酸味と豚肉の脂が合体して強烈な旨味。肉団子発酵出汁はトマトと大根の発酵出汁ということだけど、酸味は落ち着いていてすごくやさしいおいしさ。発酵鍋、深すぎる。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

ところで梁さん、なぜ瓶ビールは赤星を選んでるんですか?

「それは簡単。私が、赤星がいちばん好きだから。このビールはしっかり味があって、苦みもちょうどいい。だからいろんな料理と合います。おいしいお酒があると、食事もすごく楽しくなるよね」

■大切なのは客も店も“楽しい”こと

市川: 梁さんの5つのお店はコンセプトが違っていてどれも個性的ですよね。最初のお店がうまくいったら、普通はその必勝法で拡張していこうと思うはずですが、どうしてあえていろんなチャレンジをしているんですか?

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

「おいしい食事って、味ももちろん大事ですが、みんなで楽しく食べることがいちばん大切だと思うんです。だからお客様にはいろんな空間やメニューでいつも新鮮な気持ちで食事を楽しんでいただきたいんです。それに、私自身、同じことをやるよりも、新しいチャレンジをしたほうが楽しい。お店の人も楽しんでやってるほうがいいでしょ」と梁さんは茶目っ気たっぷりに笑う。

2019年からは梁さんは新たなチャレンジを始めた。埼玉に300坪の畑を借りて、店で使う野菜を自ら作っているのだ。トマト、パクチー、青唐辛子、葉ニンニクなどを無農薬で栽培している。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

「例えば、うちの餃子はニンニクではなく葉ニンニクを使うのがポイントなんだけど、日本では葉ニンニクがなかなか手に入りにくかったりね、食材の仕入れに苦労することが多いんです。だったら自分で作っちゃえと思ったのがきっかけ。大変ですよ。台風のときなんか、畑のことを考えると気が気じゃない。

でも楽しいね。作ってみてわかった。形よく効率的に作るには農薬とか肥料がたくさん必要だね。でも私が大事だと思うのは味と安全。うちの野菜は見た目は悪いけど、味はいいと思うよ」

そんな話を聞けば、さらに箸が進むというもの。梁さん特製の野菜も味わいましょうと、追加注文の雨あられ。御徒町の夜は賑やかに更けていったのでした。

御徒町「老酒舗」ガード下で挑む“プチ満漢全席”

――ごちそうさまでした!

撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘア&メイク:井上祥平(ヌーデ)
スタイリング:西野メンコ
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