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団長が行く File No.37

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

「EN FACE(アン ファス)」

公開日:

今回取材に訪れたお店

EN FACE(アン ファス)

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あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の5代目団長・宇賀なつみさんが、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。 (※撮影時以外はマスクを着用の上、感染症対策を実施しております)

■「フレンチで赤星」の意外性

江戸東京の下町情緒が色濃く残る日本橋人形町。豆腐屋や鯛焼き屋など、昔ながらの店が連なる甘酒横丁の裏路地に、2019年にオープンしたビストロがある。「EN FACE(アン ファス)」だ。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

フレンチで赤星? そう、同店はフランス料理店ではめずらしく、サッポロラガービール、通称・赤星を楽しめるという稀有な店。そんなウワサを聞きつけ、宇賀なつみ団長は早速、潜入調査に訪れた。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

うなぎの寝床のような細長い店内には、一直線にカウンターと厨房が伸びている。その突き当たり、ワインなどのドリンクが冷やされている冷蔵庫のいい位置に、ありましたよ、赤星。

宇賀: やったー! ウワサはやっぱり本当だったんですね。それならぜひ、赤星をください。今日はワイングラスで飲んじゃおっと。

――いただきます!

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

おいしぃ。スパークリングもいいけれど、赤星でスタートするフレンチっていうのもオツですね。ところで、こちらではどうして赤星を置いているんですか?

「おもしろくない答えですみません。単純に私が好きだからです。赤星が」

そう話すのは、店をひとりで切り盛りしているオーナーシェフの亀山知彦さんだ。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

こちらのお店は、ワインをボトルでいただく際には冷蔵庫から好みのものを自分で選ぶセルフスタイル。そこに亀山さんが自分用の赤星を冷やしておいたところ、「お、赤星あるじゃん」と目ざといお客が注文するようになり、今や常連さんの間では周知の事実になったのだとか。

「スターターにする方が多いですが、ワインの途中に赤星を挟んで変化をつける人も結構いますね。ほどよい苦味と深い味わいがあるビールだから、うちのようなしっかりした味付けのクラシカルなフレンチにもよく合うんですよ」(亀山さん)

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

■繊細な味わいを圧巻のボリュームで

初訪問の今夜は一人前のお任せコースをお願いすることにした。全6品8,000円のコースは、コスパ最強との呼び声も高い。さて、その内容とは?

まず1品目のアミューズから度肝を抜かれる。イタリア・パルマ産24ヵ月熟成プロシュートが、これでもかと、うず高くてんこ盛りだ。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

生ハムは季節のフルーツと盛り合わせるのがこの店の流儀。この日は、愛媛の高級みかん、せとかが選ばれた。

宇賀: んーー、おいしっ! このプロシュート、口溶けがやさしくて、豊かな香りと旨みが口の中にふわっと広がるの。しかも、せとかと一緒にいただくと、酸味と甘味が加わって最高。赤星とも合う!

こんなに美味しい生ハムは初めてかも。何が違うんですか?

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

「まず長期熟成で旨みがしっかりのっているのと、あとはやはり、薄さでしょうね。電動のスライサーで切るのが一般的なんですが、うちのはイタリア製の手動式スライサー。これだと電動式と違って摩擦熱が少ないので、極薄にスライスできます。極薄に切ることで脂が舌の上でさっと溶けて、より繊細な味わいになるんです」(亀山さん)

これだけあれば無限に赤星を飲めるぞとプロシュートをつついているところに、2品目の前菜がやってきた。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

「ズワイ蟹と青リンゴのマリネ 根セロリのムースと甲殻類のジュレ」

唱えれば、何か超常現象が起こりそうな不思議な響きだ。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

宇賀: わー、これも絶品! なになに、ズワイ蟹と青リンゴのマリネに、根セロリのムース、そして甲殻類のジュレ?

それぞれを別々に味わってもすごくおいしいんだけど、3つが合わさると、控えめに言って、10倍増し。素人には絶対に真似できない、プロの技と手間を感じます。これがフレンチの楽しいところなんですよねー。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

3品目はシャルキュトリーだ。フランス語で食肉加工品を指すシャルキュトリーは、ビストロの定番。「アン ファス」では、常時、亀山さんお手製の数種類が用意されている。

この日の盛り合わせは、豚肉のパテ、ブーダンノワール(豚の血のソーセージ)、鶏レバーのムース、豚肉のリエット(パテに似た肉料理)の4種。付け合わせの人参のラペも、これでもかとたっぷり盛られる。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

宇賀: ウソでしょ。これ、コースに出てくる一皿の量ですか!? 普通のお店ならアラカルトで2~3人で分け合うボリュームですよ! え、アラカルトはこの倍の量!? コスパ、すご過ぎませんか!?

実はワタシ、リエットに目がないの。どれどれ……うまっ!

で、このブーダンノワールはソーセージじゃなくて型に入れて作っているんですね。初めて見ました。しかも、具材がゴロゴロ入っていておいしいし、食感も楽しい。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

「ブーダンノワールはヨーロッパではメジャーな豚の血のソーセージですが、うちでは豚の顔の肉や耳も入れているんです。そしてスペイン・バスク地方の唐辛子をスパイスに使っているので、ちょっとめずらしいタイプだと思います」(亀山さん)

宇賀: どれも本当に手が込んでいて、亀山さんが丁寧に作っているのが伝わってきます。それだけに気になるのが、1品1品のこのボリューム! ホントにいつもこんな感じなんですか? 撮影だからって、さすがにちょっと“盛って”ません?

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

「はははは。初めてのお客さんはみなさん驚かれるんです。大丈夫、いつも通りですよ。だって、うちは“レストラン”ではなく“ビストロ”。ビストロというのは、日本でいえば居酒屋や大衆食堂のようなもので、かしこまらずにモリモリ食べて、気軽にお酒を飲む場所です。

日本だとビストロとうたっていても、1品1品がお上品なポーションでキャビアなどの高級食材も使ったりする、準レストラン的業態のところがほとんどですが、私は本場フランスのビストロ文化が大好きで、ぜひ日本にも、その愉しみを伝えたくて、味もボリュームも本場のままで勝負しています」(亀山さん)

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

■日本に本物のビストロの魅力を伝えたい

亀山さんは栃木県佐野市の出身。「ラーメン屋ばかりで、イタリアンがちょっと、フレンチは皆無だった」という街で育った。それでも子どもの頃から料理が好きだったという亀山さんは、中学生当時、大ブームとなったTV番組「料理の鉄人」で腕を振るう石鍋裕シェフや坂井宏行シェフの繊細かつ大胆な技に魅了され、未知の世界、フランス料理に惹きつけられた。

そして高校卒業後、調理師学校へ進むと迷わず憧れのフレンチを専攻。都内のフランス料理店で修業した後、27歳の時に渡仏し、5年間パリでみっちり腕を磨いた。渡り歩いたのは、パリでも人気の高いビストロばかりだった。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

「親しい仲間や家族とワイワイ楽しむビストロの自由な雰囲気が好きなんです。でも、ビストロの料理人って、実は大変なんですよ。

高級食材を使えるレストランなら、あまり手を加えずに料理として出すこともできますが、ビストロはそうはいきません。リーズナブルに提供するために、手頃な食材を手間ひまかけて、日常では味わえない料理へと仕上げる必要があります。だから仕事量がめちゃくちゃ多いんです」(亀山さん)

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

亀山さんは話しつつ、テキパキと調理を進めていく。

「なるほど、その視点はなかったかも」と感心している宇賀団長の元へ、4品目の魚料理がやってきた。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

北海道産真鱈の白子のムニエルなのだが、すでに亀山流に慣れてきているはずなのに、白子の大きさに思わず驚愕する。

宇賀: 居酒屋の白子ポン酢とか、もうちょっと食べたいと物足りなさを感じることが多いですよね。でも、これは夢かと疑う大きさ(笑)。

そして、やっぱり、おいしいなあ。シャルキュトリーとこの白子があれば、3日は呑めるな。赤星3days.

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

■一皿に隠された圧倒的な仕事量

宇賀: アラカルトもざっと見ただけで30品くらいはありますね。シャルキュトリーや付け合わせだけでもすごい品数だし。それをたったおひとりで切り盛りするとなると、さぞかし仕込みが大変でしょう。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

「そうですね。今は時短ですが、通常営業の場合、店が閉まるのは深夜0時くらい。そこから片付けを終えると2時。そのあと、翌日のための仕込みを朝7時ごろまでやります。それから帰宅して寝て、午後にまた店に来て……。

うちで仕事をしていない料理は、生ハムとパンだけです。パンはパリで出会った友達がたまたま隣の駅でパティスリーをやっているんですが、彼が焼くパンがあんまりおいしいもんだから、取り寄せています」(亀山さん)

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

宇賀: そうそう。パンもおいしいなあって思ってて、ついついたくさん食べちゃった! でも、パンを焼く時間が浮いても、亀山さんは結局、その浮いた時間で他の料理を始めちゃうんでしょ(笑)。おいしいものをお腹いっぱい食べてほしいっていう熱量がすごいもん。

「確かに、結局、ずっと仕込みをしてますね。大変ですけど、独立前に勤めていた店はランチもやっていましたからね、それに比べたら随分ラクですよ(笑)。

ワンオペっていうのは確かにキツい面もあります。でも、人を雇ってマネジメントに時間や神経を注ぐほうが私にとってはもっとキツい。ひとりなら自分の好きなように気ままにできるし、料理に没頭できるじゃないですか。好きでやってることだから、苦にはなりません」(亀山さん)

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

■フランス各地の郷土料理を本場の味で

カウンターでは話が弾む。お酒も進む。いつの間にか赤星から白ワインへ、そして赤ワインへと移行している。

この日のコース5品目の肉料理は、牛ホホ肉の赤ワイン煮。じっくり5時間煮込んだ肉に、あえて緩めに仕上げたマッシュポテトをクリームソース代わりにしていただく逸品だ。たっぷり添えられた青菜も、なんともうれしい。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

宇賀 おおーー、ナイフが要らないやわらかさ。(一口ほおばって)歯も要らなかった!(笑)

おいしいなあ。亀山さんのお料理って、なんというか、奇をてらっていない安心感みたいなものがあるの。それでいて定番メニューでも抜群のおいしさ。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

「日本人向けにアレンジしていないからですかね。フランスに住まれていた方や、フランスでビストロ巡りを楽まれた方に、本場と同じ味だって言って喜んでいただけることが多いですね。

一口に和食と言っても、北海道や沖縄料理の専門店もあるし、たとえば料理長の出身地の郷土料理が味わえたりもしますよね。それと同じように、パリのビストロ料理はシェフの出身地の影響が色濃く反映されているんです。

今日お出ししたもので言えば、甲殻類のジュレはブルターニュ出身のシェフに教わったオマール海老で出汁をとる技法を使っていますし、牛ホホ肉に赤ワイン煮はブルゴーニュ地方の代表的な料理で、やはりブルゴーニュ出身のシェフ直伝の味を守っています。一つひとつのレシピについて、その背景や成り立ちを私自身がきちんと理解するように心がけています」(亀山さん)

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

最後の6品目はデザート。登場したのは、金柑の赤ワイン煮とヨーグルトアイス。

宇賀: お腹パンパンで「もう無理!」と思っていたのに、意外と食べられるから恐ろしい(笑)。

というか、このデザート、おつまみにいい感じ。もう一杯いただこうかしら。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

食べきれなかった料理をお土産にしてもらって帰宅した宇賀団長。自宅でシャルキュトリーを肴に一杯やりながら、心に誓ったそうだ。

コロナ禍が収まったら、次は仲間4~5人で訪れて、「アン ファス」の超本気盛りのアラカルトを攻略するゾ、と。

人形町「EN FACE」コスパ最強ビストロの“本気”

――ごちそうさまでした!

(2021年2月10日取材)

撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘア&メイク:ATELIER KAUNALOA
スタイリング:近藤和貴子
衣装協力/&.NOSTALGIA(トップス¥4,290)
イジットアンドコー/イジット&コーリミテッド表参道(スカート¥19,800)
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