久しぶりに着てみると新鮮な気持ちになる服がある。カモフラの軍パンもそのひとつだ。迷彩柄がどこかやりすぎと思い、ここ数年クローゼットで眠っていた。グレーのポケTとビルケンシュトックのサンダルに合わせてみると意外と悪くない。
そんなゆるいスタイルで向かったのは世田谷の三宿。シャレオツ通りで偶然見つけた古民家に「ケニヤ」と書かれた暖簾がずっと気になっていた。なぜか「赤星」の気配がしたからだ。
暖簾をくぐると、立飲みカウンターにロースターが並んでいる。立飲み?焼肉?どっちも好き!レキシ♡
バカヤロー!行けばわかるさ。迷わず行けよ。元気があればなんでもできる。アリキック!!
迷わず奥に進むと謎のドアが?物入れのようだがトイレのドアだった……小さすぎる昭和サイズ!
肉はあのヤザワミートらしいぞ。こりゃあ期待が止まらないHA~HA!
昭和遺産な急すぎる大人の階段を上ってみると。
心地よい風が吹き抜ける昭和な大衆焼肉屋といった感じ。しかしどこかイケてるこの今感はゼブラ柄の丸椅子とフレームに入った映画ポスターのせいか?
なんじゃこりゃ!!優作アニ気絶……ヨコハマ昇天!俺の大好きな松田優作主演「ヨコハマBJブルース」の映画公開ポスターのモノホンではないか!
優作アニキを想い、ついセンチメンタルホンキートンクブルース……。メシを喰うなら~って腹が減ってきた。
2階でゆっくり座り飲みもいいけど、男は黙って1人立飲み&立ち焼きだ。「赤星」が発する電波に引き寄せられてしまったミラクルな出会い。
今日も美味すぎる運命の赤い★が俺の喉を潤すぜ。立飲み屋なのか焼肉屋なのかケニヤ料理屋なのか、もうどうでもよくなってきた。
考えず感じるままにメニューにあったフムスをつまんでみる。こりゃあ美味いぞ。フムスとはゆでたヒヨコマメをペーストにしたもので「赤星」にもよく合う。
ほろ酔い気分になったところで迷彩エプロンが俺とペアルックな、「焼肉ケニヤ」オーナーの星野哲也さんに我慢できず話しかける。
星野さんは白金で知る人ぞ知るバー「ガランス」とレストラン「酒肆ガランス」を経営されている。三宿に古民家を見つけリノベーションし4月に焼肉屋としてオープンさせたのだ。焼肉と言っても韓国的ではなくオリジナルメニューが揃っている。
立飲み好きを満足させるポテサラも大衆酒場に負けないクオリティで美味い。ちなみにこれは裏メニューだ。
アントニオ猪木や松田優作のポスターは星野さんチョイス。優作話で盛り上がり2階のポスターをカウンターに飾っていただき乾杯。メシを喰うならケニヤだなんて~
普通の焼肉ではなくミックス特製スパイスホルモンにしてみた。塗装されたトングがシャア専用のように赤い。
初めての立ち焼肉が楽しすぎる。1人で自由気ままに焼けるのがイイネ!
強烈に美味すぎる!アニ立ち焼キゼツ……スパイシー昇天!新鮮なミノ、シマチョウ、ハツに独自のスパイスが効きまくっていて「赤星」がとまらない。
星野さんはこの古民家物件を見つけた時に、アフリカのケニヤを感じたとのこと。昭和遺産でケニヤ?もうこれは理屈ではなくDON’T THINK FEEEEEL!の感覚だ。アフリカと言えば人類発祥の地とも言われ、正に人類が初めて火を使った地とも言える。
ということで焼肉屋に決めたと聞きかっこよすぎる!ちなみにケニヤにはニャマチョマという正に焼肉があるらしい。
立飲みムードでついつい話し込んでいると、なんと星野さんは北九州出身ということが発覚。東京生まれの俺が愛する角打ちの街、北九州のローカル話で盛り上がり「赤星」を3本飲んでしまった。わかる人にはわかる門司、戸畑、黒崎、折尾、若松と、ここでは話せない超DEEPな世界。
なぜ焼肉屋なのに夕方4時からの営業で、立飲みスタイルなのか……それは角打ち発祥の地ならではの北九州イズムだと俺にはよくわかる。
最後に和牛特選をいただく。切り落としでいい。
なんで立ちながら焼くと、さらに美味いのだろうか?もう理屈ではない感覚こそすべてなのかもしれない。
1枚づつ優しく俺のペースで焼く。
スパイスを味わった後は、シンプルに塩だけでいってみる。強烈に美味い。
人類が肉を焼いて最初に使った調味料は塩だったはずだ。俺にもなんだかケニヤが見えてきた気がする。
昭和なデザートと言えばやっぱりソフトクリーム。自分のやり方で優しく回せばいい。
心地よい三宿の風を感じながら、白くて甘いお前が俺を癒してくれる。
老舗の大衆酒場や町の中華は、再開発や跡継ぎの問題でいつか消滅してしまう。永遠に続くものなどないのだ。そんな時代に星野さんは古民家という昭和遺産をリノベーションさせ、ただのノスタルジックではなく今の感覚を絶妙に取り入れている。
老舗ではないので「焼肉ケニヤ」の暖簾に昭和は染み込んでいない。しかし昭和愛のグルーブを感じる。大切なのは昭和をリスペクトしながら進化させる精神なのかもしれない。
カモフラージュ柄の軍パン。1970年代のベトナム戦争時にアメリカ軍で実際に使用されていたヴィンテージだ。グリーンリーフと呼ばれるパターンで一般的なウッドランドと異なり玉数が少ない。古着屋で根気よく探せば出会える逸品だ。
Text:Eiji Katano
Photo:Kou Maizawa