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団長が行く

団長が行く File No.87

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

「蕎麦カネイ」

公開日:

今回取材に訪れたお店

蕎麦カネイ

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あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の6代目団長・赤江珠緒さんが、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。

裏路地にひっそりと

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

JR中央線・総武線の西荻窪駅は、新宿から早ければわずか13分ほど。便利な立地ながら駅近くに高く大きな建物は少なく、落ち着いた住宅地が広がる。そこかしこに個人経営の隠れ家的なカフェや古書店、雑貨店があり、そぞろ歩きが楽しい。アンティーク家具や古道具の店が立ち並ぶ道“骨董通り”も魅力だ。古く味のあるものを大切にする文化的な香りが、街の個性になっている。

今日のお店は、そんな“西荻”の裏路地にたたずむ一軒、『蕎麦カネイ』だ。

 

赤江: え? 道、合ってるかな? と少し不安になりましたが、裏通りにも人通りが結構あって、もう絶対に美味しいお茶とお菓子がいただけそうなカフェとか、本格的なエスニック料理のお店なんかに、みなさん迷いなく入っていかれる。好きだなあ、この西荻の感じ。

お店もかわいらしい。靴を脱いでおじゃまできるのもリラックスできていいですね。民家が建ち並ぶこんなに細い路地に、まさかお蕎麦屋さんがあるとは。気の置けない人と来たい空間です。窓辺のカウンターでひとり静かに、も良さそう。

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

オープンして5年になる店を切り盛りするのは、池田暁史さん・由香さん夫妻。元々カフェだった店舗を居抜きでできるだけそのまま活かし、折敷などの小物で「蕎麦屋に寄せた」とのこと。なるほど、柔らかく温かな雰囲気は、カフェっぽくもある。

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

さあ、本日も元気よくまいります。
蕎麦屋で一献の幕開けを飾るのは、我らが赤星、サッポロラガービールだ。本格手打ち蕎麦の店にはめずらしく、大瓶を置いている。

——いただきます!

赤江: くーーーーっ! お蕎麦屋さんでいただくビールってなんでこんなに美味しいんでしょう。で、やっぱり、お蕎麦屋さんでは瓶ビールですよ、もちろん赤星ですよ、手酌で赤星ですよ。

蕎麦屋の醍醐味は、美味しい蕎麦をいただくのは最後のお楽しみにして、しばしお酒と肴を味わいながらゆるりと過ごす、いわゆる“蕎麦前”にこそあると言っても過言ではない。こちらは、まさに打ってつけの蕎麦屋なのである。

おつまみは厳選されながらも、蕎麦前ファンの心をわしづかみにするラインナップ。悩みながらも、わさび茎の酢の物と鴨皮茗荷ポン酢を注文し、「あ、やっぱり、うずら卵の味噌漬けも!」と付け加えた。

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

赤江: 鶏皮と一瞬“空目”しましたが、鴨皮ですよ。カモの皮です。コクがありつつスッキリした鴨の脂とミョウガの清涼感は最高の組み合わせですね。コレ、赤星との相性も抜群です。

「こちらは、こっくりとした旨みがたまりませんなあ」と団長を唸らせたのは、うずら卵の味噌漬けだ。赤星をグビリとやって追いかけると、深い旨みがさらに広がる。

わさび茎の酢の物は、わさびの名産地である伊豆・河津町でわさびの栽培から加工までを手がける伊豆わさび食品のもの。池田夫妻が惚れ込んだ逸品だ。

赤江: 程よい辛みと酸味、シャキシャキと軽快な食感がなんともいいですね。口の中が一旦リセットされます。鴨皮茗荷ポン酢からの赤星、うずら卵の味噌漬けからの赤星、わさび茎の酢の物でリセットされまして、心機一転、鴨皮茗荷ポン酢からの赤星、うずら……無限ループでございます。赤江、メビウスの輪をぐるぐると回っております(笑)

 

思い出のそばがき

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

何やら熱々のものがやってきた。小鉢とグラスを堂々巡りしながら恍惚とする団長はふと我に返る。登場したのはそばがき。蕎麦粉に熱湯を加えながら練り上げて塊状に仕上げたものだ。現代では蕎麦と言えば江戸時代に広まった麺状が一般的だが、より原始的な形の蕎麦料理だ。実は赤江団長、このそばがきに目がない。

赤江: (一口味わって)はあぁ、この鼻から抜ける蕎麦の香りがたまりません。蕎麦本来の味わいをシンプルに楽しめるし、おつまみにもなるし、頼もしいですよ、そばがきってやつは。

団長にとって、蕎麦屋とは東京の象徴であり、とりわけ東京の蕎麦屋をイメージさせるのが、そばがきだと話す。

赤江: 20代後半に大阪から東京へ転勤になり、朝の情報番組を担当するようになりました。午後の早い時間に退社です。異動して間もない頃に、お蕎麦屋さんで一人で昼呑みをしてみたいと思いまして、麻布十番の老舗のお蕎麦屋さんに入りました。そこで、他のお客さんがそばがきを注文しているのを見まして、「あれは一体なんだ!?」となったわけです。関西では当時、見たことがありませんでしたね。

よし私も、と勇気を出して注文してみました。いただいてみると、初めは自分が知っている蕎麦のイメージとはかけ離れていたので、頭の中がはてなマークでいっぱいになりましたが、二口、三口と食べ進めると、豊かな蕎麦の風味にうっとりとなりました。そして、東京でそばがきで一杯やっている自分にも悦にいってしまいました(笑)

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

店主の池田さんも、そばがきに魅せられたひとりだ。

「中学生の時に両親の知り合いに連れて行ってもらった長野の名店『蕎麦ふじおか』で食べたそばがきの味が忘れられませんでしたね。モチッとして、蕎麦の風味がとても強くて。遠回りしましたけど、今思えばその時の体験も影響して、蕎麦の道へ導かれたような気がします」と池田さんは話す。

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

西荻窪出身の池田さんは、大学時代からロックバンドで活躍し、ギタリスト、ベーシストとして音楽の道を歩んできた。アメリカの有名ミュージシャンのプロデュースを受けるなどしながら、2つのバンドでメジャーデビューしている。しかし、その後音楽の道は断念。

お酒と食べることが好きで料理も得意だった池田さんは、「自分で言うのもなんですが、ラーメンを作ってみたらめちゃくちゃ美味しいのができたんです」と、ラーメン店の開業を考えた。ところが、料理関連の媒体を中心とした編集者だった由香さんは、ラーメンにはまったく食指が動かず、ラーメンは却下。でも由香さんは蕎麦好きで蕎麦文化にも興味がある。池田さんも蕎麦は大好きだ。ならば蕎麦にしようと、アルバイトをしていたおでん屋の紹介で手打ち蕎麦の人気店に入り、その後もう1店で修業を重ねた。

「夫は音楽でも何でもマニア気質で凝り性。蕎麦を打ち始めたら、蕎麦の品種から蕎麦打ちの道具まで研究にのめり込んで、臼についての本なんかもあるんですよ」と由香さんは笑う。

赤江: 臼ですか! 粉を挽くための石臼とかの臼ですよね。私は今まで臼について思いを巡らせたことはありませんが(笑)、蕎麦粉なり小麦粉なり、日頃から臼の恩恵に預かっていますもんね。

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

「それにしても麺棒がたくさんありますねえ」と団長が水を向けると、「よくぞ聞いてくれました」とばかりに池田さんは解説してくれた。池田さんの麺棒は約20本。大きな違いは材となる木の樹種。ヒノキやヒバが一般的だが、池田さんは黒檀、柘植、黒柿、モッコク、カヤ、台湾ヒノキ……と麺棒に使われることが稀な木の麺棒も多く所有する。蕎麦粉の状態やその日の湿度などによって変わる蕎麦の硬さに合わせたり、麺棒表面のテクスチャーの違いを生かして麺の微妙な食感を調整したりするという。

「この虎目のメイプルは、本来、ギターの材として輸入されたものです。つい欲しくなっちゃって、麺棒の職人に木を持ち込んで作ってもらいました。でも、楽器よりずっと安いですからね」と池田さん。

赤江: まるでハリーポッターで杖を使い分けるみたいな感覚ですね。あれ? 伝わっていないな(笑)
とにかく、すばらしい麺棒コレクションです! 何を隠そう、私も麺棒を購入して知り合いのミュージシャンにプレゼントしたことがあります。イチローさんが使ったバットで作られた特別な麺棒を。

「ああ、あの麺棒ですね」とご主人が盛り上がっているところに、由香さんは「でも実際はほとんど3本しか使っていないんですけどね」と水を差した。きっと、使う使わないではなく、選べる環境があることが重要なのだろう。

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

〆の蕎麦は、かき揚げ天ざると決めていた。先に天ぷらをもらい、もう少し赤星を楽しむことにする。
本日のかき揚げは、三つ葉と芝エビだ。

赤江: 美しい見た目のとおり、サックサク。三つ葉の香りが口に広がって、これまたいいおつまみ。日本酒をいただいて、赤星さんにはチェイサーになってもらいましょう。

 

赤星がつなぐ縁

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

赤江: ところで、どうして赤星を置いているんですか?

「一番の理由は、味が好きだからだよね」と夫妻は顔を見合わせる。

「二人とも飲兵衛なんですけど、外でビールを飲む時は自然と赤星を選んでいますね。赤星探偵団のアーカイブを拝見しました。記事になっている西荻の『戎』には、僕は30年以上通って赤星を飲んでいます。それから荻窪の『酒と肴 ててて』の中田夫妻とはお互いの店を行き来するような仲なんですが、彼らの店も赤星だし、一緒に飲む時はやっぱり赤星。働いていたおでん屋も赤星でした。気づいたら赤星だった、という感じですね」と池田さんは話す。

赤江: 『ててて』のあの素敵なご夫妻とお友達でしたか! つながってますねえ。
私もこうして池田さんご夫妻にお会いできて、赤星を介してご縁をいただきました。

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

かくして、蕎麦前はきっちりと仕上がり、真打登場、蕎麦である。

定番の蕎麦は、秋田県産と群馬県産の蕎麦の実を店内で石臼挽きしてブレンドし、蕎麦粉と小麦粉を10:1の割合、いわゆる外一の蕎麦に打つ。定番の他に、平日のみ10食限定で在来種で打つ冷たい蕎麦もある。運よく残っていると聞き、団長は迷わず在来種を選んだ。

この日の在来種は、鹿児島県鹿屋で栽培されたもの。池田夫妻のお気に入りの蕎麦の一つだ。

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

赤江: はぁ〜〜なるほど、美味しいお蕎麦だなあ。
香りが豊かで、上品な甘みが口に中に広がります。それでいて、甘みのキレがいいと言いますか、くどくないから、スルスルといくらでも食べられそう。

蕎麦自体が良質であるのもさることながら、ご主人の腕、そしてきっと麺棒も一流だからなんでしょうねえ。

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

美味しい蕎麦屋は、最後にいただく蕎麦湯までご馳走だ。団長は温かい蕎麦湯でひとごこちつき、「蕎麦屋で一献」の幸せに浸っている。

赤江: 若い時分にはそばがきで一杯やっている自分に酔っておりました。ワタクシもよわいを重ねまして、蕎麦屋呑みも板についてまいりました。今は人目を気にせずにいい気分に酔えるようになっております(笑)

将来は「焼き海苔でしっぽり飲む」が似合う素敵な女性になれるように、日々鍛錬を続けていきたいと思います。

また寄らせていただきますね。

 

西荻窪「蕎麦カネイ」だから蕎麦屋で一献って、ステキなのです

ーーごちそうさまでした!

(2026年3月24日取材)

撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘア&メイク:上田友子
スタイリング:入江未悠

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