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赤星酒場見聞録

赤星酒場見聞録 File No.5

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

「魚の棚商店街」

公開日:

今回取材に訪れたお店

魚の棚商店街

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大阪からさらに西へ

「赤星」の愛称で親しまれるサッポロラガービールを飲める店を巡る「赤星酒場見聞録」も、今年5月の新装開店より数えて今回で第5回を迎えます。静岡市内で2軒、その次は大阪・新梅田食道街で3軒の名店をお訪ねしてきましたが、このたびはさらに西へと下り、降り立った駅は、明石駅です。

ここは兵庫県南部の街。神戸の三宮からJR神戸線新快速に乗ると、電車は須磨を過ぎるあたりから海沿いを走り、20分弱で明石に着く。明石海峡の南はもう淡路島だ。海は、ここまでが大阪湾、ここから先は播磨灘である。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

明石駅を出て、南側の大きなロータリーを過ぎると、碁盤の目のように道がつながる一角へ出る。昼から開けている飲み屋さんや渋い喫茶店など、魅力的な店に心が惹かれる。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

国道2号線の南側に東西にのびる道は、ひときわ賑わっていた。魚の棚商店街。魚の棚は、「うおんたな」と発音するのが正式だという。「うおんたな」だけあって、生鮮の魚介や水産加工品を売る店が多いようだ。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

干したタコや、タコ煎餅が目にとまる。明石といえばタコだ。しかし近年は漁獲が減って希少品になっているという話も聞いた。けれど、漁港まで歩いて行ける「うおんたな」なら、掘り出し物に遭遇することも考えられるだろう。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

イカナゴを甘辛く煮た「くぎ煮」はこのあたりの郷土料理。やはり、くぎ煮を売る店も早々に見つかった。見ると、いかにも酒に合いそうだ。地元の人にとっては幼い頃から慣れ親しんだ味というが、聞けばコオナゴの佃煮ということなので、それなら関東モンの私も知っている。小鉢に山盛りにしたくぎ煮を手づかみで口へ放り入れ、後からコップ酒を流し込む。うまかろうなあ、と想像は瞬時に膨らむのだ。

どうする、どうする? 一袋買って食べながら歩くか……?

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

迷いながらしばらく歩けば、蒲鉾屋さんがあるではないか。いいねえ、カマボコ。さっそく棚を眺め渡し、紅ショウガのカマボコを選んだ。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

齧りながら、「うおんたな」を歩く。実にいい気分。ぴりっと辛いカマボコはうまいし、少し歩くと汗ばんできて、この後に飲むビールが、いよいようまくなりそうなのである。

 

とある雑居ビルの最上階へ

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

魚の棚商店街の東のはずれ、明石銀座通りをわたったエリアに、このたびの訪問先がある。店の名は、「炭火焼鳥えびす」。店はビルの5階にあるのだが、エレベーターで4階まであがり、あとは階段だ。ペントハウスというのかな。

店へ入ると、焼き台や調理場に向き合ってカウンターがあり、カウンター正面と両サイドに窓があるので、開店少し前の時刻、店内は外光が入って明るかった。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

店主の古川洋介さんは34歳。5年前に近くのハーモニカ横丁で開業し、現在の場所に移ってからは1年半ほどが経過したという。学生時代から社会人になるまでサッカーに打ちこんだというだけあって、とても精悍な感じのする若きご主人だ。

「うちの焼き鳥は、いろいろな種類を食べていただくにはサイズがちょういいのかもしれません。食べる人は、15本くらい召し上がりますよ。お客さんは20代から上は70代くらいまでで、男女は半々くらいですね」

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

炭が熾きるまでの間に交わす会話もテンポがよくて小気味いい。まだ、ビールの1杯も飲んでいないのに、私にとって初めての土地の初めての店が、とても好ましい空間に見えてくる。幸先がいいというやつだ。

手元に差し出された品書きを見ると、焼き鳥には、みんち、かわ、ずり、もも、ひっぷ、はつ、ねぎはつ、せせり、ねぎみ、肝とあって、ささみは、わさび、ゆずこしょう、めんたいこ、うめなど、トッピングを変えられるようだ。東京で日ごろは焼きとんばかり食べている私だが、こうして、鳥の部位を眺め渡せば、ああ、本格的な焼き鳥は久しぶりだと、期待はさらに高まるのである。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

「串は、せせり、ずり、みんち、ねぎはつ、かわ。刺身の盛り合わせは、ささみ、肝、ずりで。それから、ささみの青唐辛子和えとポテトサラダ。もちろん、ビールは赤星をください」

 

言葉が出ない…

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

古川さんは、炭が熾きるまでの間に手早く刺身とささみの青唐辛子和えを出してくれた。まずはビールをひと口。光り輝くようなさしみの見栄えにうっとりしつつ、箸は、皿の中央の配されたずりへと伸びた。ずりとは砂肝のことだ。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

角皿の縁には、小ネギとミョウガ、おろしたニンニク、ショウガ、擂ったワサビが乗せてある。ずりにはミョウガとショウガをのせて、口へ運ぶ。新鮮な砂肝だけがもつ食感、噛みしめるとじわりと滲むうまみを、ミョウガとショウガが引き立てる。

いきなり大袈裟に過ぎる表現で、物書きとしてどうかと思うけれど、モーレツにうまい!

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

ささみはワサビでやろう。これがまた、とろける旨さなのだが、その後、真打登場という形で口に入れた肝には感服した。ニンニクで喰い、ショウガで喰い、なにもつけずに喰う。

言葉が出ない。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

「鳥は淡路島の朝引きのものと、一部、鳥取の大山のものを使っています。え? おいしいですか、そりゃ、そうでしょうよ(笑)」

古川さんが自慢げに笑って見せる。そこに嫌味のかけらもないのは、心底そう思っている証拠だろうし、私も全面的に賛成したい。最初の一皿で心をつかまれるのは、飲兵衛冥利につきるというもの、今日の出会いにさっそく感謝するのだ。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

そこへ、ささみの青唐辛子和えが出た。醤油に漬けた青唐辛子がささみの上にのっている。唐辛子の上には小ネギと白ゴマだ。ぴりっとひきしまった味わいが、ささみを引き立てる。うまいよ、これも。

「うずわ飯でしたっけ? ソウダガツオを青唐辛子と醤油と一緒に叩いてご飯にのせて食べる漁師料理がありますよね。あれに似てますね。うちのは、ささみをちょっと叩いてから、青唐辛子と醤油を加えて和えています」

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

気さくにネタ元を明かす古川さんに、店名の由来を聞いた。

「関西では1月9日から11日は十日戎といって商売繁盛のお祝いがあります。で、僕の誕生日が1月10日なので、十日戎にあやかってこの名前にしました」

十日戎と鳥えびす。ゴロがいいや。

 

無心に串を頬張る

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

そこへ、焼き物があがってきた。せせり、ずり、みんち、ねぎはつ、かわの5本。まずはこの5本を不肖、私がいただく。

この日の取材も編集ナベさんと写真のキヨコさん、ほかにマーケティング、営業、広告担当が勢ぞろいして、総勢7名でおしかけているが、このあたりで、そろそろ取材隊の若者諸君にも酒席に参加してもらう。みんな喉は渇き、腹も空いているだろう。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

若い諸君の乾杯を聞きながら、私は焼き鳥を食べた。すばらしい焼き鳥だ。部位ごとに異なる絶妙な加減の焼き方があることを、1本1本に感じることができる。味は基本的に塩で、肉そのものの旨さがよくわかる。せせりやかわがこれほど風味のあるものなのかと改めて思いつつ、ねぎはつの串に手を伸ばす。ハツとネギという組み合わせに意表をつかれる思いだった。ネギの青いところとハツ、合いますねえ。

さきほどさしみで食べたばかりのずりは、串焼きにすると表面がカリッとして香ばしく、味わいも噛み応えも嬉しい限り。焼酎にも合わせたくなるところだが、今夜は赤星で押していく。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

本当にびっくりしたのは、みんちである。

甘みと香ばしさが口いっぱいに溶けていく。なんだこれは?
しばらく絶句した後で古川さんに訊いてみると、

「もも肉と皮ですよ」

「全部しゃべっちゃっていいんですか」

「大丈夫。教えたって、なかなかこの串にはなりませんから」

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

ミンチにするやり方も材料の配合も、そしてなにより絶妙な焼き加減も、おいそれと真似のできるものとは思えない。スタッフたちが注文した品々が次々に運ばれると、感嘆の声があがった。さしみや串焼き各種のほかに、最初に私が頼んだポテトサラダや、野菜串なども出てきて、卓上はとても賑やかになる。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

「これなら10本くらい、すぐに食べられるわ」

撮影があるのでメンバー中で最後に食卓に参加したキヨコさんが叫ぶように感想を述べる。見ればその手にずりの串を握っている。いい光景だ。

山芋とナスの串も抜群である。山芋の味付けは塩に少しの昆布茶を足しているとのことで、出汁の風味が芋に沁み込むようで、思わす笑みがこぼれるおいしさ。ナスのほうは塩と醤油の味付けに、カツオブシがふりかけてあって香りも豊かだ。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

ささみに梅肉と海苔をあしらった串や、シンプルの極みのようなももの串もすばらしい。何を口にしても、うまい。鳥のうまさに改めて気付く。それが嬉しくて、我々は、ついつい長居をした。

気が付けば入店から4時間経過。食べまくり、赤星も当然のことながらよく飲んだ。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

「こんな取材チーム、あまり来ないでしょ」

そう訊く私に古川さんは笑って答えた。

「何皿か出したら、みなさんでちょっとずつつまんで終わりと思ってましたけど、これほど食べて飲むとは……。みなさん、取材熱心なんや」

熱心も熱心。それもすべて、食べること、飲むことに夢中にさせる「炭火焼鳥えびす」のうまさがあればこそである。

明石の台所“うおんたな”で、飛び切りの一杯を! -前編-

(※2025年10月16日取材)

取材・文:大竹 聡
撮影:衛藤キヨコ

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