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100軒マラソン File No.54

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

「一徳」

公開日:

高円寺で酒を飲むのは、あまり頻繁ではいけれど、行けば必ず楽しい思いをするので、たいへん気に入っている。

街の雰囲気がいいなあ、と思う。私らのようなオジサンにも、街の若々しさに惹かれる気持ちというのはどこかに残っていて、高円寺の細い道をたどって酒場を目指すときなどに、ああ、この感じ、いいなあと思うのです。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

古い店が残っているのもいいですね。私らが若い頃――まだ昭和という時代でしたな――に出かけた店が残っていて、今現在、高円寺で暮らす若い世代にも愛されているらしい光景を見かけると、大袈裟ですが、目頭が熱くなったりもする。

まあ、それはいくらなんでも大袈裟が過ぎるというものですが、今回は、高円寺といえばここへ行け、と言いたい一軒にお邪魔してみました。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

■高円寺で17年

その名も「一徳」。船戸与一の傑作『山猫の夏』における山猫こと弓削一徳からとった店名とのことです。

この店のご主人の木下卓也さんは船戸さんのことを人生の師と仰ぎ、船戸さんの生前にはごく近しいお付き合いがあったようです。提灯や暖簾、ガラス戸にある屋号の文字も、船戸さん自ら揮毫した書をもとにしているのだとか。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

そんな話をしながら、木下さんが茶封筒に入った一通の手紙を見せてくれました。癌が見つかり、医者から余命宣告を受けた直後、船戸さんが親しい友人や仕事関係の人たちに宛てて送ったもので、木下さんはこれを形見のように大切に保管して持っているのです。

ちなみに船戸さんは大学探検部の出身ですが、この赤星100軒マラソンの担当編集Hさんも同じ探検部の出身で、年齢はずいぶん離れているが、先輩後輩の間柄になるそうです。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

さて、まずは、赤星。それから、タン、カシラ、ナンコツ、コブクロを塩で焼いてもらうことにします。

店は開店したばかり。目の前で、焼き台の中に、火のついた備長炭が整えられた。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

この店は何度か覗いたことがあるが、連れ合いもいて、あいにく入ることができず、道を挟んだ離れ――アネックスと呼びたいスペース――には入った経験が2度ほどある。だから今回初めて、本店で、大将を目の前にして飲むことができるわけだ。

「もう17年になりますよ」

木下さんは顔もいかついかれど、声も太い。いや、いかついのではなく精悍であり、話ぶりはゆったりとして、温かい、と言い換えよう。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

伺ったところ、私より2年ほど先輩で、かつてこの店で修業をした人が高円寺に開いているバーを知っていると私が言うと、

「ああ、そうでしたか」

と、にこやかな笑顔を見せてくれた。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

もつ焼きがあがり、目の前に出てくる。熱いうちに、まずはコブクロ。そしてタン。カシラの後で、ナンコツを齧る。うまい。文句なしだ。

バイトのベトナム人の女の子たちがやってきて、開店準備をしてから奥の厨房へ入る。店には、ミミガーとネムという、ベトナム料理のつまみも用意されている。あとで必ず食べてみることにしよう。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

まだ外がすっかり暮れないうちから、馴染みのお客さんがやってきて、カウンターについた。

大将は前夜、バンドの練習の後で深夜遅くまで酒を飲んだということだが、これからどんどんやってくる客を迎えるために、謎の塊をせっせと切り始めた。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

「昔、鷺宮にすげーもつ屋があってね、軟骨も、4つの部位に分けて売ってくれたんだよ」

身を乗り出して大将の手元を見ると、今、まさに豚の喉の軟骨を切っているところらしい。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

「茹でた軟骨を今、串焼き用に切り分けてるの。骨の端のところ、骨身と言ってね。それから骨と、気管と食道とね。これを、部位ごとに売っていてね。俺、感動しちゃって毎日のように行って勉強してたことあるんだよ。

こういうのも昔は安かったんだけど、今は高いよ。チレ(脾臓)なんか昔はタダ同然だったのに、今、けっこうするんだ。注文しても入ってこないこともあるし」

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

もつの1本1本も、自ら串を打つ。それを眺めながら飲むというのは、なんともオツなもので、代えがたい経験だと思う。そう、こういう酒場、昨今、なかなかないのです。

■肉はもちろん、魚介もうまい

バチマグロのブツと、ベトナム料理の中からネムというのを注文する。Hさんもカウンターに席をとって、赤星を追加した。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

「うちは店始めたときから赤星だよ。理由は、オレが好きだから(笑)」

大将は野太い声でそう言って、座っている椅子の後ろにある水冷式の冷蔵庫から大瓶をひっぱり出す。そこから、Hさんのコップと私のコップに並々とビールを注いで、改めて乾杯。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

ちょうどそこへ出てきたマグロを口へ入れて軽く驚く。もつ焼きのみならず、魚もうまいのだ。

しかもこのマグロは400円で、赤星の大瓶が600円。さっきもらった豚もつの串はなんと1本100円。ありがたいねえ。

本日は軟骨の解体ショーまで見た上での値段だと思うあたりが私のどうしようもないセコさですが、いやあ、ここはいいなあ、と改めて感じるのです。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

聞きましたら、大将の木下さんは、このお店を始める以前から音楽活動をしていたそうです。昨日も練習をしたという「一徳バンド」のライブは、1月は18日に、吉祥寺の曼荼羅2で予定されているということ。吉祥寺なら馴染みの深い土地でもあるから、ぜひとも足を運んでみたい、などとほくそ笑む。

するとそこへ、出ました、ネムです。これはベトナムの揚げ春巻きということでして、大将いわく、「細かく刻んだいろんなものが入ってんの。詳しい作り方は、オレもよくわからない」のだそうです。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

さきほど明るく開店準備をして厨房に入って行った女の子たちのお手製ということですが、これを口に運んでみると、サクッと揚がっていて、食感は非常に軽い。そして、中身は肉のミンチのようでありますが、野菜やらハーブやら香辛料やらいろいろミックスされていて、ニョクマムなんかもアクセントにしているのでしょうか。なんとも複雑な味わいです。

しかしこれが、たいへん、うまい。つまり、ますますビールが進むのであります。

調子が出てきたところで、さらにつまみを追加します。私は、ヤリイカの刺身。さきほどからなにやら大将の手元を凝視していたHさんは、サンマ焼きを頼んだ。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

ヤリイカは想像どおり、シコシコとして抜群です。そして、Hさんの頼んだサンマを見て、びっくりしました。

なんと串焼きのサンマなのです。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

こういう形でサンマを焼いてもらったのは、たぶん初めてだ。

皮がカリっとしているのが、わかる。そこに、塩が振ってあることも、わかる。つまり、これはたいへんにうまいであろうことが、たちどころにして、わかるのです。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

実際、うまかった。たまりませんな。レモンなんか搾ってもいいし、甘辛のタレで蒲焼にして喰うのも、捨てがたい。

これなら、ビールはもちろんのこと、ホッピーとかレモンサワーとか、あるいは日本酒、あるいは焼酎ロック、それからウイスキーのハイボールにもよく合うであろうと思われるのです。実にいいですな。

つまり、この串、万能な串なのです。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

ふと見ると、大将が今、支度をしているのは、牡蠣である。そして、振り返りざま、Hさんにこう言ったのです。

「牡蠣も焼きますか」

もちろん、焼いてもらう。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

今回は、出てくる姿というものが、予想できている。つまり串を打った牡蠣が備長炭の上で焼かれて、供されるわけだ。

うまくないはずはないのだ。焼いている途中からわかることであり、その思いは皿にのって出てきたときに確信に変わるのであり、口へ運ぶや、ふぁ~、と、意味不明のため息になって、私の歓喜を、遺憾なく表現するのでありました。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

■呑兵衛のツボをよく知る大将

店はいつの間にか満席になり、焼き台から立ちのぼる煙が店内を燻している。ベトナム人の女の子たちも、厨房とアネックスを行ったり来たり、とても忙しそうだ。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

このあたりで撮影の目途もついた写真家Sさんにも加わってもらい、さあ、追加しよう。Sさんの好物、ハムカツはマスト・アイテムだ。それに加えて、これは私の気持ちを大いに揺さぶった、ナポリタンパスタ。

ハムカツも、ナポリタンも、350円。これは、食べてみればわかるが、破格というものだ。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

ケチャップやソースという、子供時代からよく馴染んだ味わいというのは、Sさんや私の心の奥深くに、おいしいものとしてしっかり記憶されているのだろう。あっという間に喰ってしまうのが、その証拠だ。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

恰好としてはハムカツ&ナポリタンで締め、ということになるのだろうが、どうにも去りがたく、ずるずると飲んでいると、大将、すっとひと皿を出した。

「はいよ。サービス。大根の皮のじゃこ和え。これ、まかないなんだけど、うまいよ」

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

見るからにうまそうだ。しかも、私の大好物・オカカもかかっているではないか。

歯ごたえ、味わい、塩っ辛さ。いずれもほどよい。メシにもよいが、やはり、酒にほどよい。これひと皿で、赤星をもう1本はいける。

呑兵衛のツボをよく知る大将の手のひらの上で、あれもうまい、これもうまいと、年甲斐もなくはしゃぐ56歳。思えば、高円寺で飲むことを覚えた35年くらい前と、何も変わっていないのだった。

高円寺の「名物酒場」で年甲斐もなくはしゃいだ夜

取材・文:大竹 聡
撮影:須貝智行

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