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団長が行く File No.23

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

「てんぷら 下村」

公開日:

今回取材に訪れたお店

てんぷら 下村

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あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の片瀬那奈団長が、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。

■アツアツにはキンキンを

目の前でシュワシュワと音をたてる大きな天ぷら鍋。職人の手によって丁寧に揚げられるのを今か今かと待ち構え、黄金色に輝く天ぷらが差し出されるや間髪入れずにシャリッと一口、ハフハフハフ……。天ぷら専門店でしか味わえない贅沢な時間だ。

都営大江戸線新御徒町駅から徒歩5分ほど、飲食店はおろか、人通りもあまりない路地にひっそり佇む天ぷら専門店が「てんぷら 下村」。片瀬団長は今宵、この店で熱々の天ぷらと冷え冷えの赤星の蜜月タッグを楽しもうという魂胆だ。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

暖簾の奥は白木のカウンターが一直線に伸びる潔い造り。団長は天ぷら鍋が目の前の特等席に落ち着いた。天ぷらを揚げるのは店主の下村満彦さん、給仕は奥様の千以子さん。

片瀬: 素敵なお店ですね。オープンして1年ちょっとですか、新しくて気持ちいいスタイリッシュな空間です。

今日は天ぷらを思いっきりいただこうと、はりきってやってきました。なにはともあれ、ビールですね。赤星をお願いします。

キンキンに冷えた赤星と、お通しのちりめん山椒のお目見え。

――さっそく、いただきます!

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: ぷは~~。寒い季節にあったかいところで飲む赤星もまた美味しいんだよなあ。そして、ちりめん山椒の上品なこと。炊きたてのご飯に乗せたら最高なんだろうな……いけない、いけない、これから天ぷらをいただくんだった。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

さてと、これが今日のタネですね。わーー、どれも美味しそう。端から全部と言いたいくらい……コースをベースに、気になるものを追加で頼んでいくかんじでもいいですか?

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

もちろんです、とご主人。「店の都合でお客様の時間を無駄にしたくない」「時間を忘れて楽しんでいただきたい」という思いから、同店の予約は昼夜とも、ひとつの席に一人だけの1回転制。客のわがままにも存分に付き合ってもらえる。

■素材の旨味を引き出す技

さて、天ぷらナイトの始まりだ。

天つゆと大根おろしがやってきた

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: まぁ、キレイな大根おろしだこと。めちゃくちゃキラキラしてる。はい、これでもう確信しました、天ぷらも間違いないです!

あの、大根おろしって、お代わりしちゃってもお行儀悪くないものですか?

「とんでもない。あまり堅苦しく考えず、お好きなように食べてください。3回も4回もお代わりされる方、けっこういらしゃいますよ」(下村さん)

口火を切ったのは車海老の脚。やったー、とすかさず頬張る団長。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: 海老の香りがすんごい! 美味しい! 赤ちゃんみたいな味。私、なに言ってんだろう(笑)

なんというか邪念がまったくないの。THE 海老。正確にはジ・エビ。そして、当然、(グラスを一口)赤星に合います!

続いて海老の本体。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: 最高すぎて、召されそう……。ああ、なんて美味しいんでしょう。やっぱり、冷凍ものじゃなくて、さっきまで生きていた活海老だから、こんなに香り豊かで甘味も強いんでしょうね。最高すぎます。

最高すぎるのは当然でもある。天ぷら屋にとっての車海老は、寿司屋で言えばマグロのようなもの。店の顔であり、この一品で料理人の力量が測られるのだ。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: 私、海老の尻尾も大好物で、友達が残してたら、もらっちゃう。残してくれって念ずるくらい好き。

そして、大根おろしが、やっぱり最高。大根おろしはチェイサーとしてガンガンやらせてもらいます(笑)

二番手は銀杏。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: お・い・し・す・ぎ。銀杏のいいところが引き出されていて、「もうムリ、これ以上出すものありません」っていう銀杏の声が聞こえる。

ところで、ご主人の後ろの壁にある金庫のようなものは何ですか? 拳銃でも保管してるんですか?

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

「ははは。これは氷で冷やす昔のタイプの冷蔵庫です。物騒なモノは入ってませんよ。氷で冷やすと、タネが乾燥しないのと、氷の消臭効果でタネのニオイ移りがなくて鮮度が保たれるんです」(下村さん)

片瀬: へぇ~、そうなんですね。きっとこの質問、今までに2万回くらいされてますよね、失礼しました(笑)

そういえば、暖簾に「山の上より」と書かれていましたけど、こちらはあの天ぷらの「山の上」の支店というわけではありませんよね。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

「私は高校卒業後、山の上ホテルの料飲部門に20年勤めました。主にホテル内の『天ぷらと和食 山の上』で修行を積み、10年ほどお客様の前での天ぷらの調理を担当させていただきました。独立するにあたりホテルからあの暖簾をいただきまして、私も“山の上”の文字のあまりの大きさに驚きました」(下村さん)

片瀬: そうなんですね! 看板の “下村”っていう屋号より暖簾の“山の上”の文字の方が大きかったですよ。でも、うれしいですよね、「山の上」のお墨付きというのは。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

「山の上」出身者の店は、生え抜きは、銀座の「近藤」、京橋の「深町」、そしてこの「下村」のみ。下村さんはここで「山の上」の味を忠実に守っている。

■笑顔をもたらすめくるめく世界

キスが揚がった。

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片瀬: (一口食べて、ため息ついて)私、キスの天ぷらを初めて心から美味しいと思いました。フンワリともホクッとも違う繊細な食感。上品な風味。はかない……そう、はかなげな美味しさなの!

天ぷらって、なんでこんなに美味しいんですか?

「脱水の効果が大きいと思います。揚げることでタネの余分な水分を抜くことができるのですが、衣で覆うことで旨味は閉じ込めて、ジューシーさも保つことができるんです。

その日の湿度によって衣の具合も大きく変わりますし、タネの性質や大きさによっても、揚げる温度や時間の細かな加減が必要です。絶対の正解はない料理ですね。」(下村さん)

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: いちばん得意なタネは何ですか?

「いちばんですか? そうですね……自分ではなんとも……。妻が言うにはアスパラだそうですが」(下村さん)

「食感はカリッとしているのに、中はジュワッとみずみずしくて、主人のアスパラは本当に美味しいと思います」(奥さん)

そしてウワサのアスパラが登場。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: 私、アスパラは好きすぎて、好きな食べ物ランキングから除外して殿堂入りさせてしまっているくらい。どれどれ……

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

ん~、奥さんの言葉がすべて! 感動!

栗。あえて渋皮を残し、その渋皮を衣がわりにして揚げた一品

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: (パリ、パリ、パリ…)甘い。渋皮は揚げると全然渋くないんですね。このパリパリの皮がアクセントになって、栗の甘さとホクホク感が際立って、うまい!

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

もう、うまいしか言えなくなってきた。かつてない風景が見えてきた感じ。

カキ。

片瀬: カキの原型がわかるくらい、うす~い衣。カキがZOZOスーツ着てるかんじ。

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(ガブリ&ハフハフやって、ぐったり)……たまらん。ジューシーで、海の香り全開! 強烈に美味しくて、急に眠たくなってきた(笑)

ナス。この日は熊本で限られた時期にだけ穫れる“ばってんなす”だ。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: 甘~い! 甘くてジューシー。でも、後味さっぱり。果肉もしっかりしているんですね、ズッキーニみたい。素材の良さもあるけど、やっぱりご主人の腕がいいからなんだろうなあ。

奥さん、ご主人とはどちらで知り合ったんですか?

「実は私も『山の上』出身でして、同じ職場でサービスを担当しておりました」(奥さん)

片瀬: おー、ご主人やりますね、天ぷら揚げて、結婚式も挙げちゃって! アツアツ!!

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

■技アリの甘鯛、圧巻のさつまいも

「天ぷら 下村」の揚げ油はごま油100%。白い太白と焙煎したものを5:1の割合でブレンドして使っている。衣はごく軽く、油切れもすこぶるいいから、胃にもたれることがない。

「まだ5キロカロリーしか食べてない」と豪語し、さらに勢いづく団長の前に甘鯛が登場。冬が旬の高級魚。ウロコを残し、ウロコの面には衣を付けずに揚げている。

片瀬: わー、甘鯛、だいっすきなんです。これは松笠揚げですね。とてもキレイ。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

……美味しい! 歯が接地した瞬間に美味しかった! あらためて、美味しい魚なんだなあ。ホクホクしていて、でも中心部はお刺身のような味わいもあって、天ぷらでいちばん実力を発揮するんじゃないかな、甘鯛ってヤツは。

甘鯛は天ぷらだぞって世界中の人に伝えたい。フランス料理は禁止、TENPURAって!

天ぷら→赤星→チェイサーの無限ループの中で、団長は幸せそうだ。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

そこへドドンと現れたのは、さつまいも。10センチもの厚さを40分かけてじっくり揚げた一品。「山の上」と言ったらコレ、という名物天ぷらだ。この日は茨城産のベニアズマを使用。お好みでブランデーをかけていただく。

片瀬: 長いこと油に浸かっていました彼ですね。まるで箱根の温泉で半身浴を楽しんでいるような姿が気になっていました(笑)

私、家に焼き芋メーカーがあるくらいさつまいもが好き。(芋におじぎして、端の一片をパクリ)おーーこれは! えっ!? 美味しいね、はははは、笑いが出ちゃう。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

“ホクッ”と“ヌメッ”のバランスが絶妙。いちばん外側が、大好きなアメリカンドッグみたいなパリフワ。あ、例えがジャンクでスミマセン。あー、この中心部の柔らかいところも、んまい。マグロで言えば中トロ部分。

ブランデーをかけてみると……あぁ、一気に上品になった。茨城の片田舎からヨーロッパへと旅立ってーー(以下省略)

そしていよいよ、〆のごはんをどうするか問題に直面する。選択肢は、かき揚げの天丼、天茶、天バラの3種。一瞬、迷う素振りを見せた団長だが、ここで信じがたい暴挙に出る。

片瀬: あのー、いろいろいただいて幸福感に包まれてはいるのですが、私的にはまだ50キロカロリーしか食べてない気分なの。濃いめのタレの天丼はマストとして、その前にあっさり、天茶もいただいてもいいですか? 両方の写真があった方が読者にも魅力がよく伝わるかと……。

ほどなく、天茶が登場。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: あらーっ、なんてキレイなかき揚げなの。色白でお上品な見た目なのに、海老がたっぷりで、ごはんより具の方が多いくらい。お出汁をたっぷり注いでと……

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

うん、うん、最高。これはもう、説明の必要なし。永遠にいけるやつです。

続いて天丼。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

片瀬: 来ましたよ。どれどれ、海老と三つ葉に甘いタレが回し掛けられて……うんうん、美味しい! やっぱりかき揚げってすごい! ごはんってすごい! 天丼って最高!

ところでご主人、こちらのお店のビールはなぜ、赤星なんですか?

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

「私自身もとても美味しいビールだと思いますし、天ぷらとの相性も申し分ないです。でも、じつは、最大の理由は、独立するにあたってとてもお世話になった方がいちばん好きなビールが赤星だからなんです。その方がいついらしても、赤星をお出しできるように、と思いまして」(下村さん)

「知らずにいらしたお客さまが瓶ビールを注文されて、『あ、赤星あるんだ』とおっしゃることがよくあります。やはり、通好みのブランドなんだなあと、実感しています」(奥さん)

片瀬: 素敵なお話ですね。下村さんご夫妻の実直で温かい人柄があらわれた天ぷら、とっても美味しくいただきました。美味しすぎて、意識が遠のいた瞬間が何度かありました(笑)。季節が変わったらまた必ず、旬を味わいにおじゃまさせていただきますね。

新御徒町「てんぷら 下村」意識も遠のく美味が、ある。

――ごちそうさまでした!

撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘアメイク:窪田健吾
スタイリスト:大沼こずえ
衣装協力/MAX&Co.
TEL:03-6434-5101

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